「シャネル(CHANEL)」はおなじみのグラン・パレが改修工事中のため、昨年10月のプレタポルテに続いて、グラン・パレ・エフェメールでショーを開催。一時的な施設ではあるが、全体の大きさは本家と変わらないという。そこに、シンプルな演出を好むヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)=クリエイティブ・ディレクターにしては珍しく、大がかりなセットを用意した。
今回の舞台装置や演出のためにタッグを組んだのは、彼女が長年コラボレーションを望んでいたというフランス人現代アーティストのグザヴィエ・ヴェイヤン(Xavier Veilhan)だ。グザヴィエが「ミニゴルフ場と馬術の障害飛越のコースの中間のような、庭園があるオープンエアの空間をコンセプトにした」と説明するセットについて、ヴィルジニーは「構成主義(1910〜20年代にロシアで起こった芸術運動)を軸とする彼の作風は、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)の作品を思い起こさせます」とコメント。天然木の合板など素朴な素材をベースに作る装飾は”万国博覧会”をイメージしており、空中には飛行船のように大きなバルーンや幾何学的なオブジェが浮かび、随所に曲線や回転する大きな円形モチーフが見られる。その中の一際高い台には巨大な楽器のような作品が置かれ、フランス人ミュージシャンのセバスチャン・テリエ(Sebastien Tellier)が生演奏を披露する舞台となった。
会場が暗くなると、グザヴィエが制作した映像が流れた後、グレース・ケリー(Grace Kelly)の孫で、「シャネル」のアンバサダーを務めるシャルロット・カシラギ(Charlotte Casiraghi)が黒のツイードジャケット姿で毛並みの美しい馬にまたがり登場。ゆっくりと闊歩したと思えば途中からは速度を上げ、土が敷かれたランウエイを駆け抜けてショーが幕を開けた。この演出は、創業者のガブリエル・シャネルが乗馬の世界を愛していたことに通じるもの。シャルロットもまた、かつて馬術の訓練を受けていたベテランだという。
冒頭に登場したのは、細身のノーカラージャケット。ウエストを絞り、サイドベンツを配した乗馬服のようなデザインが特徴的だ。そんなジャケットに合わせるゆったりしたパンツにはサイドに大胆な切り込みを入れ、ドレスやロングスカートには腿までの深いスリットを加えることで、今季の鍵となる”軽やかさ”を表現。ツイードのミニドレスやコートも腰を絞ったコンパクトなシルエットで、快活な印象に与える。
コレクションの中で新鮮に映ったのは、ドレスの上にツイードのジャケットとスカートを合わせたスタイル。スカートは腰のボタンのみで留めるフロントが開いたデザインで、下に着たドレスが覗く。エアリーなドレスは、セットにも呼応する幾何学モチーフや、可憐な小花の刺しゅう、フリル、フェザーで装飾。クロップドジャケットを合わせたホワイトのマキシドレスには、ルサージュによるビーズ刺しゅうのカメリアが咲いた。
ショー後、ブルーノ・パブロフスキー(Bruno Pavlovsky)=シャネル ファッション部門プレジデント兼シャネルSASプレジデントは、「オートクチュールで大切なのは、コレクションのユニークなストーリーを感じてもらうこと。コレクションそのものだけでなく、装飾やセット、音楽などすべてをミックスすることで、特別なエモーションを伝えている。エモーションはお金で買うことはできない、ラグジュアリーの極みだ。クチュールはメゾンのDNAでもあり、イメージメーカーとしての大きな役割を担っている」と語った。今回の演出は、それを感じられるものだった。世界のクチュール顧客が必ずしも渡仏できない中、壮大な演出はコレクションのストーリーを伝播し、エモーションをかき立てるために、ますます重要になっているのかもしれない。「シャネル」は7月のクチュールショーでも再び、グザヴィエとタッグを組む予定だ。
2022年春夏オートクチュール・ファッション・ウイークが、1月24日から27日まで開かれた。オートクチュールとは「高級仕立て服」のこと。職人たちが何百時間もかけて作り上げる贅を極めた作品が披露されるだけでなく、クリエイティビティーの実験ラボという側面もある。複数回に分けて、キーブランドの現地リポートをお届けする。