英国発の「ダンヒル(DUNHILL)」は、2022-23年秋冬コレクションを発表した。18-19年秋冬以降はパリでの発表を続けていたが、今シーズンは拠点のロンドンに帰還。主軸であるテーラリングの伝統に回帰すると同時に、身にまとう者の個性によってその規律が破壊される感覚に着目した。マーク・ウェストン(Mark Weston)=クリエイティブ・ディレクターが、クリエイションの意図やロンドンで発表した理由を語る。
今、ロンドンで発表するのが
正しいと感じた
WWD:発表の場をパリからロンドンに移した理由は?
マーク・ウェストン「ダンヒル」クリエイティブ・ディレクター(以下、ウェストン):パリのファッション・ウイークに参加したことで、広い世界の人たちとつながることができ、目的にしていた新たな「ダンヒル」の世界観を見せることができた。しかし私たちは英国ブランドなので、いつでもロンドンを中心に考えている。そして今シーズンは英国のテーラリングの探求を大きなテーマにしているため、ロンドンで発表するのが正しいと感じた。また、パンデミックで不透明な状況が続いているのもきっかけの一つではある。
WWD:英国のテーラリングに着目したきっかけは?
ウェストン:仕立ての感覚と洗練された厳格さをもう一度追求したかったから。英国のテーラリングのルーツは、制服やミリタリーに通じる。その厳格なスーツを若い男性が着ることで、どれほど破壊的で反抗的に見えるのか、型にはまったユニホームをどこまで型破りに見せられるのかに挑んだ。今シーズンは規律と伝統への回帰であると同時に、作る側と着る側に英国的な破壊の感覚が常に存在していることを表現したかった。伝統を更新するのは服そのものではなく、着る人なのだから。
若い世代はテーラリングに
魅力を感じている
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WWD:メンズのスタイルの変化についてはどう分析している?
ウェストン:若い世代は、飽和しているスポーツウエアへの反動でテーラリングに魅力を感じており、それを現代的なスタイルで自分たちのものにしようとしている。「ダンヒル」の強みは厳格なテーラリングと専門性なので、非常に優位な立場にあるといえる。今度はいかに伝統と新しい時代感を掛け合わせ、再文脈化していけるかが成功へのカギだ。
WWD:ブランドを率いて8シーズン目になるが、どのようなクリエイションを意識してきた?
ウェストン:現職に就いてからは、ステレオタイプな古典主義をいかにしてゆがませ、官能と挑発によって破壊することをテーマに掲げてコレクションを制作してきた。伝統のスタイルにモダンな要素を、日常的なスタイリングに時代感を取り入れてコントラストを利かせ、英国らしさを伝えるための視点を盛り込んできた。好奇心をもってアーカイブを探求し、時代に合わせて進化させたい要素のみをくみ取っている。過去にとらわれるのではなく、アーカイブとのつながりを作り出すことが好きだから。
アーカイブを継承し時代を
超えるアイテム
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WWD:数々生み出してきた新しいアイテムのアイデアは?
ウェストン:全てのコレクションはつながっており、前シーズンのアップデートを繰り返すことでアイデアを磨き、進化させてきた。18-19年秋冬に発表したラップジャケットや、19年春夏のスプリットヘムのトラウザー、クラシックなアタッシュケースに着想したクロスボディーバッグの“ロックバッグ”などは、アーカイブと現代的なプロポーションや機能性を組み合わせたもの。これらは今季もアップデートして継続する、時代を超えたアイテムである。
WWD:ブランドとして、また個人として今後チャレンジしたいことは?
ウェストン:クリエイティブ・ディレクターとして、まずは「ダンヒル」のクリエイションの定義と一貫性にこだわること。そして新しい時代を見据え、ほかのクリエイターやコミュニティ、顧客とのつながりを魅力的な方法で作り出すことが目標だ。個人としては、仕事を通じてさまざまな業界の尊敬するクリエイターたちと出会うことができた。このリアルのつながりが、今後どのように発展していくか楽しみだ。
着る側の個性で洗練された
テーラリングの殻を破る
今シーズンはテーラリングを主軸に、シティボーイやミリタリーのユニホームの要素を融合した。規律と伝統の象徴である男性服同士を組み合わせ、それを現代の男性が着用することで生じる破壊的、反抗的な感覚を表現した。パワーショルダーのジャケットは男性性を強調し、裾に向かってゆるやかにフレアするスプリットヘムのトラウザーが、伝統のシルエットを優しく覆す。またネオプレンをボンディングしたウールカシミヤのコートや、表面にモアレを表現したナイロンのコートなど、素材の探究も積極的だ。
ダンヒル
0800-000-0835