「小柄な男性のマイナスイメージを変えたい」。自身も身長162cmも大谷成さん(27)は、そんな思いからD2Cブランド「ユナイテッドアンツ(UNITED ANTS)」を2021年1月にスタートした。全くアパレル経験のなかった大谷さんが、たった1人で手探りで始めて約1年。月商は100万円ほどだが、SNSなどで少しずつ共感の輪が広がっている。
ブランド開始以来、センタークリースフレアパンツ(税込9900円)とフレアデニムパンツ(同9680円)の2つの商品が人気を集め続ける。低身長の男性にとって最も難易度が高いフレアパンツを最初に手がけた。
既存ブランドのフレアパンツの多くは、背の低い人が裾上げするとシルエットが崩れる。「ユナイテッドアンツ」では膝位置を少し上にすることで、小柄な男性でも脚長効果を感じられるように工夫した。ウエストの腰の部分にゴムを入れ、さらにヒモも通すことで細身の人にもフィットする。
購入者からは「自分に合うパンツがようやく見つかった」「助かりました」といった声が届く。大谷さんは「僕も162cmなので満足できる服が少なくて苦労してきました。同じ悩みを持つ男性が共感してくれてうれしい」と手応えを感じる。
SNSを通じて地道に訴求してきた。「インフルエンサーでも何でもない僕が、『ユナイテッドアンツ』を認知してもらうにはどうすればよいか」を考え、インスタグラムで168cm以下の男性のコーディネートをリポストし、背の低い男性のコミュニティーを形成した。現在のフォロワーは4687(2月18日時点)。「ユナイテッドアンツ」を着た姿をインスタにアップしてくれるフォロワーも増えた。ここを通じて大学生から20代後半のファンが少しずつ積み上がっていった。
ターゲットは「168cm以下の男性」に設定した。大谷さんによると、日本の3割の男性が対象になり、ニッチな市場とも言い切れない。160cm以下になると、わずか数%まで激減するが、ここでも満足してもらえるブランドを目指す。自分の経験を踏まえ、服へのコンプレックスを払拭してもらいたいと考えるからだ。
男性が男性向けの服を選べることを当たり前に
大学生の頃からファッションへの関心は高かった。でも似合う服を探すのは一苦労だった。「ユニクロやビームスで『いいな』を思った服のSサイズを試着すると、案の定、袖が長すぎたりする。(カジュアルな)ワイシャツの裾を出すと脚が短く見えてしまうので、パンツにインするしかコーディネートの選択肢がない。服は大好きなのに、しっくりくるサイズがないことがストレスだった」
背が低い男性の中にはメンズブランドで適当なサイズが見つからず、ウィメンズの服を買う人も少ないない。大谷さんは「でも小柄な男性だって、ちゃんと男性のために作られた服を選べることが当たり前の価値ではないか」と疑問を感じた。新卒で入ったバッグメーカーを退職し、起業を決断した。
小柄な女性に向けた服は、最近よく話題になるD2Cブランド「コヒナ(COHINA)」をはじめ、対応するブランドがそれなりにある。一方、小柄な男性の服や専用ブランドもあるにはあるが、声が上げづらいためか、女性に比べれば手薄だ。大谷さんはここに商機があると見る。ボトムスで1万円以下の価格にし、若者など幅広い層が求めやすいようにした。
当面の目標は月商を現在の2倍の200万円にすること。そのために土台になるインスタのフォロワー数も1万に増やす。ポップアップイベントも開催したいという。ECではモデルの身長と体重を明記したり、試着を促すため返品・サイズ交換サービスを整えたりしている。それでもリアルの場での試着や品定めを求める声は少なくない。サイズで苦労してきた男性は、ECで失敗したくないという気持ちが強いからだ。「コロナ下で始めたブランドなので、直接お客さまに会う機会がありませんでした。SNSやメールのやりとりだけでなく、お客さまの顔を見ながら服への感想や要望を聞いてみたいのです」