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連載 鈴木敏仁のUSリポート

小売り・外食のカギを握る「宅配企業」 ラストマイルの攻防(後編) 鈴木敏仁USリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。前回に続き、商品が消費者のもとに届くまでの“ラストマイル”を詳しくリポートする。急成長する短時間宅配サービス企業を単なる運送業と捉えると、本質から大きく外れる。小売業の生命線を握る存在なのだ。

 前回の「『店舗ピックアップ』という新常識 ラストマイルの攻防(前編)」に続いて、今回はオンデマンド型短時間宅配についてさらに詳しく説明するつもりだが、その前に“センター発”のラストマイルを効率化するためにフルフィルメントセンター(FC)を自前化する動きが出ていることに軽く触れておく。

 昨年11月にアメリカンイーグル・アウトフィッターズ(AMERICAN EAGLE OUTFITTERS、以下AEO)がクワイエット・ロジスティックス(QUIET LOGISTICS)を3億5000万ドルで買収すると発表した。クワイエット社はロボット化を強化したFCを8カ所運営し、マック・ウェルドン(MACK WELDON)やアウトドア ヴォイシズ(OUTDOOR VOICES)といったアパレル企業のフルフィルメントを請け負っている企業である。

 AOEは先立つ5月に、エアーテラ(AIRT ERRA)というシッピングに特化した専門企業も買収している。宅配企業との契約管理や、複数の宅配企業を管理してラストマイルを効率化するといった技術を開発している企業で、センター運営技術のクワイエット社とシッピング技術のエアーテラ社を組み合わせてラストマイルの全体効率を図るというわけである。

 ファーストマイルの効率化のために自社配送センターを所有するのはアメリカの小売業界では普通の業界慣行だが、ECの急増でラストマイル効率化の必要性が急速に高まり自前化する衣料専門店チェーンが出始めた。ウォルマート(WALMART)やターゲット(TARGET)といった大手ディスカウントストアチェーンはかなり前から自社FCを増やしているのだが、衣料専門店チェーンにもそういう時代が来ているのだ。

 ちなみにウォルマートとターゲットはオンデマンド型短時間宅配も自社組織を有している。前者はゼロからスタートして事業化しいまや他社に販売するに至っており、後者はスタートアップ企業を買収で傘下に組み込んでいる。

流通総額が全米4位に浮上したドアダッシュ

 短時間宅配業界の最大手はドアダッシュ(DOOR DASH)で、次いでウーバー(UBER)、インスタカート(INSTACART)と上位3社に集約されはじめている。

 2020年末に上場したのがドアダッシュだが、株価は初日に85%高騰し、調達した総額は34億ドル、20年最大の上場案件と称された。これを執筆している1月末の時点での時価総額は366億ドルで、最大手スーパーマーケットのクローガー(KROGER)の331億ドルを超えている。1ドル115円で日本円換算すると4兆2000億円で、セブン&アイ・ホールディングスの4兆7000億円より若干低いというレベルである。

 短時間宅配のビジネスモデルは、宅配車、宅配人、センター、在庫、店舗、といったハードな資産を持たない点を強調しておきたい。デジタルテクノロジーというソフトな資産だけでこれだけの時価総額に達しているということに、私は時代というものを感じる。

 一方のウーバーはご存知の通りライドシェアが出自だが、個人事業主としての宅配人の仕事を増やすために人ではなくてモノを運ぶビジネスを開始して、パンデミック時には人流が減る一方で物流(宅配)需要が急増して、昨年第3四半期の決算では流通総額でデリバリーがライドシェア(ウーバーはグロスブッキング事業と呼ぶ)を上回るに至っている。

 もともと外食宅配からスタートしているのでウーバーイーツという名称だが、多数の小売企業とすでに契約しているので“イーツ”という呼称はふさわしくなくなりつつある。ドアダッシュも同様に外食出自だが多くの小売企業と組んでおり、小売りと外食という垣根は消滅している。また短時間が重視される食品業界からスタートしているが、百貨店、衣料専門店チェーン、ビューティ専門店チェーンなど、非食品企業も多くが利用しており、食品と非食品とう垣根もなくなってしまっている。

 要するにアメリカでは分野を問わず小売りと外食の業界全体が短時間宅配企業にカバーされているのである。

 もともと2時間だった短時間という定義も、業界に新規参入プレーヤーが増えて競合が生まれ、今では30分宅配が常識的となり、最短で10分をうたう企業も登場している。30分だとコンビニニーズを埋めることができるので、セブン-イレブン(SEVEN ELEVEN)などコンビニチェーンも短時間宅配企業と契約し始めており、そうなると短時間宅配企業のネットワークはさらに密にそして拡大する。

 こういった市場の拡大によって大手3社の事業規模は中堅小売企業や外食企業を超えてしまっている。

 短時間宅配のビジネスモデルとは、彼らのアプリで決済し、そこから手数料を引いて預り金を小売りや外食に支払う。これは日本におけるショッピングモールと専門店の関係性と同じである。短時間宅配企業の売り上げは手数料売り上げであり、これに小売りや外食に支払う預り金を加えたものを流通総額という。

 この流通総額を推定しランキングを作ると、ダントツ1位はもちろんアマゾン(AMAZON)で、次いでイーベイ(E BAY)、ウォルマート、そして4位がドアダッシュなのである。そしてその下に、アップル(APPLE)、ホームデポ(THE HOME DEPOT)、ウィッシュ(WISH)、ターゲットと並び、9位ウーバー、10位インスタカートとなる。

 つまり流通総額の上位10社に3社がランクインするというわけで、こうなると小売企業が彼らを外部委託業者として利用しているのではなくて、彼らのネットワークの中に取り込まれていると理解する方が実情に合っているということになる。

本質は足代わりでなく、プラットフォーム業

 昨年インスタカートが、スーパーマーケットで使用するカートに専用端末を組み込んだスマートカートを開発するスタートアップ企業を買収している。短時間宅配企業がなぜスマートカートなのか?

 彼らは取引先としての中小スーパーマーケット向けに独自のECシステムを開発して提供しており、そこにソリューションとして組み込んで売っていくことを考えているのである。つまり小売企業の単なる足代わりではなくて、システムから入り込んでいるのだ。これはインスタカートだけではなくて、大手短時間宅配企業全体に通じることである。ドアダッシュも取引先向けの多くのシステムを開発し提供している。

 彼らはシステムで取引先としての小売企業や外食企業を囲い込みはじめているのである。

 もう一つ重要な視点は、既述のごとく金融スキーム上はショッピングモールと同じで、つまり彼らのビジネスモデルの本質は専門店(またはサードパーティー)としての小売り・外食企業にプラットフォームを使ってもらって利ざやを稼ぐビジネスなのだ。このビジネスモデルをマーケットプレイスとも呼ぶ。

 実は奥が深いビジネスモデルだということが分かっていただけただろうか。ドアダッシュの時価総額が大きいのも単なる宅配企業ではない点に投資企業が大きな可能性を見いだしているからなのだ。

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