ワールドの子会社でショッピングセンター(SC)向けブランドを運営するスタイルフォース(東京)は、黒字化に向けて荒療治を断行する。昨年5月に就任した飯高宏社長のもと、主力ブランド「ザ ショップ ティーケー(THE SHOP TK)」「オペークドットクリップ(OPAQUE.CLIP)」などの運営体制やMDを刷新。同社はワールド傘下でも多くの店舗を持つ中核企業のため、苦戦するアパレル事業の再生事例になれるか注目される。
飯高社長が屋号長(ブランド責任者)を兼ねる「ザ ショップ ティーケー」は、2月からブランドロゴを変更し、既存店の改装を順次進めている。合わせて社内の中堅スタッフをディレクターに抜擢した。それまでのブランディングの骨格であるディレクター職は、外部の専門家に業務委託していた。内製化によって権限を明確にし、社内のスタッフ一人一人の変革マインドを高める。同時に他部署や外部からも人材を集めた。
新しいチームによるMDではウィメンズを強化した。もともとメンズに偏りがちだったが、SCのファミリー層をしっかり捉えるために、商品構成比をメンズ45%、ウィメンズ45%、キッズ10%に改めた。新常態を踏まえてスーツなどのキレイめな商品を減らし、カジュアルなスタイルに軸足を移す。
この数年「ザ ショップ ティーケー」は効率化と売り上げ確保のため品番数を絞り、1品番あたりの生産量を増やしてきた。だが、集約した品番がヒットするとは限らず、品番の奥行きのなさが店頭での機会損失を生み、結果として在庫が積み上がる悪循環に陥る。飯高社長は品番を1.6倍に拡充しつつ、1品番あたりの生産量をほぼ半分に絞った。セールを前提にした仕入れ計画も撤廃した。セールでの販売が予算化されると、どうしてもプロパー期の商品計画が甘くなる。本部の作り過ぎを抑制し、店頭もプロパー販売で売り切る姿勢を明確にし、粗利益率のアップにつなげる。
店頭接客もあまり声がけないスタイルから、積極的にコーディネート提案するスタイルに変えた。飯高社長は「SCの集客力に頼った事業モデルはもう通用しない。店頭では“一客入魂”の接客でブランドのファンを地道に増やす必要がある」と話す。
飯高社長はベイクルーズ出身。前職では20年以上にわたって「ジャーナルスタンダード」やアウトレット事業などで要職を担ってきた。
スタイルフォースに転じた際の第一印象は「ブランドビジネスとして成立していない」だった。自らトレンドを作り出す気概に欠け、他社の売れ筋の後追いが目立つ。結果、同質化し、コストパフォーマンスの勝負を強いられる。かつての稼ぎ頭だった「オゾック」「ハッシュアッシュ」は撤退に追い込まれ、販売不振と構造改革によって赤字が続く。「ザ ショップ ティーケー」も店舗数をほぼ半分の80店舗に削減した。飯高社長は「社員が負けに慣れしてしまっている」との危機感を持った。
社長就任以来、社員の80人前後と面談を重ね、問題意識を共有することに努めた。コロナ下で途絶えていた全国の店舗、販売員とのリアルなコミュニケーションの機会も増やした。「市場の変化もあるけれど、まだ最善を尽くせていないと自省するスタッフが多い。私に課せられた使命は、従来のやり方を一度ぶっ壊し、新しい成長ステージに乗せること。誇りと自信を持って働けるようにすること」との思いを強めた。
ワールドはアパレル事業の再建のため、経営幹部を含めた外部人材の登用を積極的に進めている。子会社で「ドレステリア」などを運営するインターキューブの社長には三陽商会やファーストリテイリングで要職を務めた靏博幸氏、D2Cなど新規事業を担当するグループ執行役員にはサボン日本法人や米国で起業の経験を持つ中條亜耶氏、そのほか商品企画やデジタル部門でもこの1年で多くの外部人材を入れた。ワールドの鈴木信輝社長は「違う価値観を持ち込んで組織を刺激する」と話している。