ロシアによる軍事侵攻を受けているウクライナに対し、ファッション業界でも支援の輪が広がっている。また従業員の安全重視や物流上の混乱などの理由により、ロシアやウクライナでの営業を一時的に中止しているブランドや小売りも相次いでいる。
スウェーデンを本拠地とするH&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ以下、H&M)は、2月25日にウクライナで運営する9店を休業したことに続き、3月2日にはロシアで運営する約170店を休業した。また、人道支援としてウクライナに衣類や生活必需品を寄付したほか、子どもを支援する非営利組織「セーブ・ザ・チルドレン(SAVE THE CHILDREN)」と国連難民高等弁務官事務所(以下、UNHCR)に寄付をしたと発表した。H&Mはロシアで20億スウェーデンクローナ(約220億円)程度の売り上げがあり、第6位の市場だという。
「ナイキ(NIKE)」は、物流の混乱を理由にロシアでの自社ECおよびアプリでの商品販売を停止。「プーマ(PUMA)」は、2日の時点でロシア国内の店舗は営業しているものの、ロシアへの商品出荷は停止した。同ブランドはウクライナおよび近隣諸国におよそ380人の従業員を抱えており、ウクライナ西部やポーランドでの住宅提供や経済支援などを行っている。なお、同ブランドの2021年におけるロシアとウクライナでの売り上げは全体の5%未満だったという。
ラグジュアリーECのファーフェッチ(FARFETCH)はロシアとベラルーシへの、ドイツの高級ファッションEC「マイテレサ(MYTHERESA)」はロシアへの出荷を停止した。
ロシアの百貨店ツム(TSUM)やアイゼル(AIZEL)などを取引先に持つ「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」は、「ロシアは重要な市場となりつつあったので非常に残念だが、ブランドの価値観に忠実でありたい」として、ロシアでのECや卸を中止した。また、ウクライナに対する人道支援としてUNHCRとユニセフ(UNICEF)に10万ユーロ(約1290万円)の寄付をしたという。
デンマークのジュエリー会社パンドラ(PANDORA)は、ロシアとウクライナでの営業を中止したほか、やはりウクライナへの人道支援としてユニセフに100万ドル(約1億1500万円)を寄付する。同社のアレクサンドル・ラシック(Alexander Lacik)最高経営責任者(CEO)は旧チェコスロバキアの出身。同氏が子どもだった1968年に民主化運動「プラハの春」が起きたが、それを弾圧するためにソ連を主体としたブルガリアやハンガリーなどの5カ国軍がチェコスロバキアに侵攻し、避難した経験があるという。「歴史が繰り返すのを目撃するのは大変なショックであり、信じられない。ウクライナの子どもたちとその家族に避難所を用意し、水や食料、医薬品などを届ける必要がある。ユニセフの役割は非常に重要だ」とコメントした。
「バーバリー(BURBERRY)」は、「運営上の問題」によってロシアへの出荷を当面停止すると発表。また、英国赤十字社(BRITISH RED CROSS)に寄付をした。
「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」などを擁するケリング(KERING)は、UNHCRに多額の寄付をすると発表。また同社のインスタグラムに、ウクライナの国旗の色である青と黄色の文字で「PEACE(平和)」と投稿した。
「グッチ」のアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)=クリエイティブ・ディレクターは、自身のインスタグラムに反戦および平和を訴える投稿をした。また、同ブランドが運営するジェンダー平等のためのグローバルプロジェクト「チャイム フォー チェンジ(CHIME FOR CHANGE)」は、ウクライナに対する人道支援として50万ドル(約5750万円)を寄付する。
「バレンシアガ」は休止していたインスタグラムを復活させ、青と黄色の画像を投稿。支援のため、国際連合世界食糧計画(WFP)に寄付をしたと発表した。同ブランドを率いるデムナ=アーティスティック・ディレクターは、自身のインスタグラムにウクライナ支援を訴える画像を投稿している。
「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「ディオール(DIOR)」「フェンディ(FENDI)」などを擁するLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)は、「最初の緊急寄付金」として赤十字国際委員会(ICRC)に500万ユーロ(約6億4500万円)を寄付することをインスタグラムで発表。ICRCを支援するため、グループ内での寄付金集めを促進するキャンペーンを立ち上げる。同社はウクライナに150人程度の従業員を抱えており、「経済的および運営上の支援を提供している」という。
「ディーゼル(DIESEL)」「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」「マルニ(MARNI)」「ジル サンダー(JIL SANDER)」などを擁するOTBや、イタリア・ファッション協会(Camera Nazionale della Moda Italiana)もUNHCRへの寄付や支援をすることを発表。「ヴァレンティノ(VALENTINO)」も、同じくUNHCRに50万ユーロ(約6450万円)の寄付をする。
米投資銀行モルガン・スタンレー(MORGAN STANLEY)のリポートによれば、ラグジュアリーセクターにおけるロシア市場の重要性は低下し続けており、LVMHやケリングの場合、ロシアが占める割合は売り上げ全体の1%程度だという。ロシアで人気の高い「バーバリー」のほか、「モンクレール(MONCLER)」「プラダ(PRADA)」「サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)」などのイタリアブランドでも、売り上げに占める割合は全体の2%程度となっている。