国連の気候変動に関する政府間パネル(INTERGOVERNMENTAL PANEL ON CLIMATE CHANGE、以下IPCC)はこのほど、気候危機に関する最新の報告書を発表した。ジム・スキー(Jim Skea)=IPCC第3作業部会共同議長は、「社会全体での迅速かつ大幅な温室効果ガス排出量の削減なしには、地球の平均気温の上昇を1.5度以内に抑えることは不可能である」と危機感を強めた。
報告書では、各国が定めた2030年までの温室効果ガス削減目標では21世紀中に温暖化が1.5度を超える可能性が高いとし、再生可能エネルギーの普及や化石燃料依存からの脱却など対策の強化を呼びかけた。
報告書によると、10年以来再生可能エネルギーの価格は下がっているが、化石燃料に依存している現状は変わらず、移行コストを高めている。ウォーリック・ビジネス・スクールでエネルギー分野を専門とするマイケル・ブラッドショー(Michael Bradshaw)教授は、「ロシアのウクライナ侵攻以前から、世界は新型コロナウイルスによる経済的打撃から回復するにつれ、エネルギー価格の危機に直面していた。その結果、原油や天然ガスの価格が高騰し、イギリスやヨーロッパ全域の多くの消費者の生活に支障が出ている。化石燃料からできるだけ早く脱却し脱炭素化を加速して、より持続可能で安価なエネルギーシステムを構築しなければならない。それ自体も、将来的なエネルギー安全保障の課題となるだろう」とコメントした。
引き続き、世界全体の温室効果ガス排出量は地域ごとに大きな差があり、富裕層ほど温暖化の加速に加担している。経済的に余裕のある上位10%の世帯が世界全体の温室効果ガス排出量の36〜45%を占め、下位50%の貧困世帯の排出量は約15%にすぎないことがわかった。
また、藻類や菌糸体の発酵技術なども進んでおり、こうした植物由来のテキスタイルへの置き換えは削減効果があると同報告書は見込む。ファッション業界では次世代素材分野への関心が高まっており、マテリアル・イノベーション・イニシアチブ(Material Innovation Initiative)によると、投資額は187の投資家と95の企業で9億8000万ドル(約1225億円)に達した。これは、20年の4億2600万ドル(約532億円)の2倍の数字。同団体は、世界の次世代素材の卸売市場は26年までにおよそ22億ドル(約2751億円)になると試算する。
ケリング(KERING)やP&Gがすでに実践しているような炭素排出を抑え、植林などの森林保護の活動も不可欠だ。しかし、年間5〜6ギガトンのCO2を吸収するためには、2050年までに4000億ドル(約50兆円)のコストがかかると言われている(IPCCの8月の報告書では、気温上昇を1.5℃に抑えることを前提に、世界が排出できる量は年間500ギガトンとしている)。
各国は、気候変動対策のため20年までに年間1000億ドル(約12兆円)を動員するというパリ協定の目標に達しておらず、貧困国は毎年必要とされる投資資金を調達できていない状況がこの10年続いている。ESGに注目が集まる一方で、世界は気候変動の緩和のために現在の3倍から6倍の投資が必要となる。資金の拡大やイノベーション、団体の新設など、さまざまな努力が行われているが、さらに取り組みを加速させる必要がある。