コスメのD2Cブランド「フィービー ビューティー アップ(PHOEBE BEAUTY UP)」を展開するスタートアップ企業のディネット(DINETTE)はこのほど、シリーズBとして総額8億円の資金調達を行った。尾﨑美紀ディネット代表取締役は、芸能活動を行っていた学生時代、あるスタートアップ企業でのインターンシップをきっかけに起業。2020年にはフォーブスの「30 UNDER 30 ASIA」に選出。昨年には経営体制を一新し、「女性最年少社長でのIPO(株式公開)」という目標を掲げる。目標に向けて最速で駆け抜ける起業家、尾﨑代表に聞いた。
WWDJAPAN(以下WWD):今回の資金調達の背景と使い道は?
尾﨑美紀(以下、尾﨑):大和企業投資がリードになり、既存株主のセレスとMTGベンチャーズから追加出資を受けました。実は昨年、女性最年少社長でのIPOを掲げ、組織と経営のあり方を大きく変えていました。今回調達した資金は、アジア地域でのマーケティングとフェムテック分野での新ブランド開発に投じて、IPOに向けて事業をさらに加速します。
WWD:起業のきっかけは?
尾﨑:大学で芸能の仕事をするようになって、ヘアメイクを始め、いろいろな美容をするようになって、可愛くなること、きれいになることが楽しくて。なので就職活動でも、キラキラワクワクできるような仕事という意味で広告代理店などのマスコミ系を中心に受けていました。それなりにうまくいっていたのですが、同時に思ったほどワクワクしていない自分もいました。ほぼ同時期に、あるスタートアップ企業のCEOの下でインターンに行っていたのですが、そのCEOがものすごい魅力的で、輝いて見えたんです。私もこうなりたい、でも経験もないし、と悩んでいたときに背中を押してくれたのが、当時アパレル向けの動画制作やメディア、アパレルD2Cブランド「エイミーイストワール」などを展開していた3ミニッツのCEOだった宮地(洋州・現1SEC代表)さんでした。3ミニッツはアパレルが中心だったので、私はビューティでやろう!と。宮地さんには起業してから2〜3年はいろいろとメンターとしてアドバイスをもらったり、相談させてもらってました。
WWD:19年2月にブランド「フィービービューティアップ」を立ち上げて、1年で月商5000万円に。直近の2月では月商2億円にまで成長した。順風満帆にも思えるが、資金繰りに困るようなことはなかった?
尾﨑:うーん。初年度は資金繰りに困ることもありましたが、ブランドの立ち上げ以降、事業は順調に拡大してきたと思います。それより大変だったのは、やっぱり人と組織のマネジメントです。昨年、数年内のIPOを目標に掲げ、組織のあり方を根本から見直したときに、そのせいで初期のころから一緒にやってきたメンバーがまとまって辞めてしまって。とてもショックでした。何度もワンオンワンで思いを説明したつもりだったのですが、「なんで思いが伝わらなかったんだんだろう」って。そのときにはみんなの前で泣いてしまって。でもその後、残った社員たちが「私たちが美紀さんのことを助けますよ」って言ってくれた。それを聞いてまた大泣き(笑)。でも、これが私にとって大きな転機になりました。
WWD:どういうことでしょう?
尾﨑:スタートアップの経営をしていると、売り上げや社員がどんどん大きくなるので、同じように背負っているものと責任感もどんどん大きくなって、社員に弱いところなんて見せちゃいけない、かっこよく見せなきゃいけないんだ、っていう気持ちになっちゃうんですよ。でも、社員のみんなが「助けますよ」って言ってくれたことで、そっか、頼っていいんだって気づいたんです。これはプライベートでも同じです。起業後ずっと恋愛もうまくいかなくて、それも結局は弱い部分を見せられなかったからなんだと気づきました。
WWD:芸能活動から起業家へ。過去の経験は生きている?
尾﨑:コスメブランドの運営にあたって、メイクや話し方など容姿をどう他人に見せるか、といった経験はプラスにはなっていると思います。ただ、起業家界隈、投資家界隈ってやっぱり男社会なんですよ。資金調達になると、それこそいろんな投資家に会いに行くのですが、「自分がペルソナじゃないから(事業を)理解できない」みたいなことで断られることが本当に多くて。資金調達は断られることが当たり前なので、断られる事自体はいいんです。けど、そもそもトップが女性だから、女性による女性のためのビジネスモデルだからみたいな理由で断られると本当に悔しくて。加えて、投資家の男性から明らかにビジネスとは関係ない食事にしつこく誘われたり、ときにはさらに露骨な誘いを受けたことも。「女性の最年少上場社長」という目標は、そうした現状を変えたいという思いを込めています。もし実現できたら、「女性起業家」「フェムテック」への視線や考え方も変えられるし、これから起業を目指す女性のロールモデルにもなれる。
WWD:コスメだけでなく、ファッションも好きですよね。
尾﨑:もちろんファッションも好きです。今日着けている指輪は「シャネル(CHANEL)」「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」。高級品を買うのは、目標を達成したときの自分へのご褒美です。先日もある大きな目標を達成したので、「エルメス」のバーキンを買いました。当たり前ですが、高級ブランドばかりを買っているわけではなく、ピアスはヨーロッパのヴィンテージで、インスタで見つけて気に入って買いました。
WWD:女性の最年少上場を達成したときは何を買う?
尾﨑:うーん。まだ決めてませんが、家とかかなあ(笑)。