カネボウ化粧品のメイクブランド「ケイト(KATE)」は、1997年に誕生した当初から“no more rules”を掲げ、ルールに縛られないメイクを提唱すると同時にクールでシャープなブランドイメージを確立してきた。ここ数年は、ユーザーの変身欲に着目したユニークなアプローチのものも多い。例えば、たれ目や涙袋を強調できる“マンガジェニックライナー”や、フェイクのふたえを描くことができる“トリプルグラデエキスパート”、白目の幅を自然に大きく見せるアイライナー“リアルアイズプロデューサー”などだ。
また、コロナ禍で大ヒットを記録した“リップモンスター”は累計300万本を出荷し、2021年度は46部門のベスコスを受賞。“欲望の塊”や“ラスボス”といったユニークなカラー名も話題になった。今年3月にはイラストレーターの米山舞とのコラボビジュアルと共に“欲コレクション(YOKU COLLECTION)”をリリース。同時に、歌手のEveによるオリジナル楽曲「YOKU」のミュージックビデオを公開すると、2カ月足らずで650万回以上再生(4月28日現在)されている。
このような商品は、どのように開発しているのだろうか。「ケイト」の変化について岩田有弘ブランドマネジャーとPRの若井麻衣に話を聞いた。
WWD:「ケイト」はなぜ変化したのか?
岩田有弘(以下、岩田):2019年ごろから「ケイト」を進化させようと頑張ってきた。これまでも安定した売り上げのあるブランドだったが、イメージが固定化した上に売り上げの成長も鈍くなり、飽和状態になっていた。さらに、業界内でもデジタルシフトするブランドが多くなり、マスブランドとしてのお客さまとのつながり方を考えなくてはいけなかった。
WWD:方向性をどう改めた?
岩田: まずは、当初から唱えてきた“no more rules”のパーパスに、ブランドの意志をいっそう強めて発信していこうと決めた。さらに“no more rules”を通して戦うべきものが、時代と共に変化していることにも注目した。
これまではハイヒールや制服など、誰かに押し付けられた美の基準が戦うべき“ルール"だった。しかし、ソーシャルが発達した現代は画像の加工技術が発達し、SNS上はきれいな人ばかりになった。その周囲からの“ソーシャルプレッシャー”が不安や自信喪失につながっているのではないかと考えた。そこでわれわれは、同調圧力や固定観念をといったある種の“ルール"に従うのではなく、お客さまと一緒に取り組むスタンスを大切にしようと話し合った。
SNS世代に刺さる商品はどうやって生まれている?
WWD:消費者のリアルなニーズをつかみ、商品化するまでが早いイメージだ。
若井麻衣(以下、若井): チームのメンバーは美容への愛が本当に強いため、リサーチ力がものすごい。私から見ていても、お客さまのちょっとした発信から、ニーズを汲み取る早さと感性が素晴らしいと感じる。定期的に実施しているアイデア出し会では若いスタッフもどんどんアイデアを出している。みんな、とんでもなく積極的だ。
岩田: たしかに要所要所にジャッジが必要な場面はあるが、そこまではみんな自由な発想で楽しくやっている。そういう雰囲気のおかげで、今は発案とリリースのサイクルがすごくよく回っているなと感じる。ただ、スピード感を保ったままリリースするのはやっぱり大変で、現場は体力勝負だ。
WWD:大ヒットした“リップモンスター”はどうやって生まれた?
岩田: コロナ禍でリップ市場が縮小する中、われわれが注目したのは「マスクをするからってメイクをしないのはありえない!」と思っている、メイクが生きがいの若年層。落ちにくいのは大前提として、コロナ禍でも楽しめるリップを作ろうと企画したのがきっかけだ。
ネーミングは、唇を起点に“欲”を考えたときに、色落ちを気にせず食べ物を食べたかったり、写真や動画に映る自分をかわいいくキープしたかったり、楽しくおしゃべりをしたかったりして、まるで怪物みたいだなと想像した。そこから“リップモンスター”という商品名が生まれた。
WWD:商品名だけでなく、ユニークな色の名前も特徴だ。
岩田: “思わず誰かに話したくなる商品”を目指して、“欲望の塊”や“ラスボス”など気になる色名を付けた。色の名前も候補が100案ほどあって、その中から厳選した。
若井: 色名だけでなく、カラーバリエーションも評価されたポイントだと思っている。SNSを見ていると、絶妙な色の違いを楽しみたい人が多そうだったので、普通はピンク、ブラウン、レッドと幅広くそろえるのが定石のところ、既存色はあえてブラウンベースのみのカラーに絞った。絶妙な色味の違いだからこそ似合う色が必ず見つかるし、集めてくれる人も多かったようだ。
WWD:3月にリリースした“欲コレクション”のような、イラストレーターや歌手との協業も好調を後押ししている。他ジャンルへのアプローチは一歩間違えるとイメージを左右することもあるはずだが、コラボの際に気をつけていることは?
岩田: 私たちも本気でやるという姿勢は大前提だ。「エヴァンゲリオン(EVANGELION)」と昨年コラボしたときもそうだったが、コンセプトをきちんと持ちながら、パロディにしないのは当然のこと、メイクの世界に元のコンテンツをいかに引き込んでいくかを意識している。
WWD:「ケイト」がものづくりで大切にしていることは?
岩田: 売れている商品の真似をせず、自分たちの感性を大切にすること。また、ニーズはシーズンではなくターゲットで捉える。「ケイト」のターゲットである若年層や、美容好きで感度の高い人が次に欲しいものは何だろうとメンバー全員が常に考えている。そのニーズを一番いいタイミングでキャッチすることが結果につながるはずだ。
WWD:ここ2〜3年の施策は成功と言える?
岩田: 成功だと思っている。今までもセルフメイクブランド部門では売り上げシェア1位だったが、去年は全メイク市場でナンバーワンのブランドになった。一つの通過点だが、方向性が定まって取り組むべき方向が見えてきたのは成長といえるだろう。今後はいかに継続しながら進化していくかが大事だと考えている。