ファッション

10回目を迎える「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2022」リポート 

京都の歴史的建造物や現代建築の空間を利用して、国内外で活動する写真家やアーティストの写真や映像作品等を展示する「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2022」が5月8日まで開催している。コロナ禍の影響で2年連続9月に行われた同芸術祭は、今回から従来通り春に開催する。

2013年の開催から記念すべき10回目を迎える今年のテーマは“ONE”。仏教用語の「一即(すなわち)十」から着想を得た。「一が単一性を、十は無限の数をあらわし、ひとつのもの(個)がそのものとして、他のすべて(全体)を自らに含みながら他と縁起の関係にある。個々の存在をCelebrate(祝祭)するとともに、その多様性について讃えたい」という思いが込められている。作品は京都文化博物館 別館や京都市美術館別館、琵琶湖疏水記念館等、京都市内10カ所の会場で展示している。

「10/10 現代日本女性写真家たちの祝祭」
HOSOO GALLERY
Supported by KERING’S WOMEN IN MOTION

今回のテーマを象徴するような展示が、西陣織の老舗、細尾のフラッグシップストア内の「HOSOO GALLERY」の2階と5階で開催されている「10/10 現代日本女性写真家たちの祝祭」。ケリングが2015年に立ち上げたプラットフォーム「ウーマン・イン・モーション」によって支援されている企画で、今回は地蔵ゆかり、林典子、細倉真弓、稲岡亜里子、岩根愛、岡部桃、清水はるみ、鈴木麻弓、殿村任香、吉田多麻希、10人の日本人女性写真家が選ばれ、10分割したような空間に個展が集合する形で展示されている。ジェンダーギャップの大きさで、先進国の中でワーストにランクされる日本。アートやカルチャーの文脈で活動する女性作家に光を当てることを目的としている。

2階から5階にかけては暗い空間から光がのぞくような導線の展示がされている。自然環境やジェンダー、信仰といった多彩なテーマの下、緻密に作り込まれた空間に展示されている写真の力に圧倒される。同展は事前予約制となる。

イサベル・ムニョス×田中泯×山口源兵衛「BORN-ACT-EXIST」
誉田屋源兵衛 黒蔵、奥座敷

1738年創業の誉田屋源兵衛で開催されている「イサベル・ムニョス×田中泯×山口源兵衛|BORN-ACT-EXIST」では、2017年に来日した、スペイン人写真家のイサベル・ムニョス(Isabel Munoz)がダンサーの田中泯と帯匠の10代目の山口源兵衛(誉田屋源兵衛十代目)を撮影した作品が奥座敷と黒蔵に展示されている。今回の撮影は誉田屋の工房がある奄美大島で行われた。密林奥の泥田に潜る山口と着物を身に着け海中を踊る田中泯を写真に収めた。海中で踊る田中泯と奄美大島の雄大な自然によって神秘性や強い生命力が伝わる写真だ。ムニョスが手掛けたプラチナプリントを職人が裁断し糸に織り込んだ素材の帯も展示されている。

ギイ・ブルダン「The Absurd and The Sublime」
京都文化博物館 別館
Presented by CHANEL NEXUS HALL

昨年9月に「シャネル・ネクサス・ホール」で開催されたギイ・ブルダン(Guy Bourdin)の巡回展「The Absurd and The Sublime」では、重要文化財の京都文化博物館 別館に合わせて展示空間が一新。らせん状の構造物が重なるように設計された通路が展示空間となり、初期のモノクロ作品から始まり、壁の隙間からは次の空間がのぞき見られる。山口小夜子をモデルに起用した写真やポラロイド写真、映像作品等も展示されている。作品群がドラマのように演出され、まるで映画の絵コンテを追うような感覚を覚える。

アーヴィング・ペン「Irving Penn: Works 1939–2007. Masterpieces from the MEP Collection in collaboration with The Irving Penn Foundation」
京都市美術館別館
Presented by DIOR

京都市美術館別館ではポートレートの巨匠アーヴィング・ペン(Irving Penn)の展示が行われていて、パリのMEP(ヨーロッパ写真美術館)が所蔵する中から、静物写真や風景、ポートレート、ファッション写真等、貴重なビンテージプリント80点が集結した。ペンがポートレートを撮影するときに被写体の個性を引き出すために作られたという展示壁の角を強調したV字形のセットも体感できる。特にマイルス・デイビスやパブロ・ピカソ等のポートレートの中でも、三角壁の撮影セットをスタジオに仮設した、マルセル・デュシャンの構図に驚かされる。また、タバコの吸い殻や道端に落ちていた手袋等、日常のありふれたものがモチーフになった晩年の手焼きプリントも見どころの一つだ。

サミュエル・ボレンドルフ「人魚の涙」
琵琶湖疏水記念館
Supported by agnès b.

ジェンダーや東日本大震災からの復興等の社会的メッセージのほかに、海洋汚染をテーマにしたフォトジャーナリストのサミュエル・ボレンドルフ(Samuel Bollendorff)の作品が琵琶湖疏水記念館で展示されている。撮影のきっかけは、アニエスベー(AGNES B.)が設立した海洋問題に特化したタラ オセアン財団が所有する海洋探査を目的としたタラ号に乗船したこと。航海のテーマは「マイクロプラスチック」で、ボレンドルフは、世界中の海を巡り、マイクロプラスチックで汚染されていない海がないことを目の当たりにし、一見普通に見える海にもマイクロプラスチックの問題が潜んでいる現況をシリーズ「Contaminations」としてまとめた。

プリンス・ジャスィ「いろのまこと」
ASPHODEL
Supported by Cheerio Corporation Co., LTD.

「いろいろアクラ—キョウト」
出町桝形商店街、DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space

今回2会場で作品を展示しているガーナのビジュアルアーティスト、プリンス・ジャスィ(Prince Gyasi)。祇園のギャラリーASPHODELの壁面を覆う作品が印象的な個展「いろのまこと」では、iPhoneで撮影しアプリで加工している作品が中心に展示されている。緑やピンクの空、背景の大地にも映えるグリーンやイエローの色鮮やかな衣装等、スマートフォンのカメラとは思えないビビッドでグラフィカルな世界の中では、ガーナの人たちの存在感が際立っている。

出町桝形商店街のアーケードの垂れ幕を利用した展示作品もジャスィによる「いろいろアクラ—キョウト」。コロナ禍で来日がかなわなかったジャスィに、出町桝形商店街からのぼり旗やTシャツ、ビール箱等さまざまなアイテムを送り遠隔で撮影を行った。実際に市場で働く人たちをモデルとして撮影したのだが、よく見ると、のぼり旗の日本語が逆さになっているなど、現地撮影のリアリティーも伝わってくる。

マイムーナ・ゲレージ「Ruh|Spirito」
嶋臺ギャラリー

イタリア系セネガル人アーティストのマイムーナ・ゲレージ(Maimouna Guerresi)による「Ruh|Spirito」は、「霊」「魂」を意味するアラビア語とイタリア語の単語を展示タイトルにした。ゲレージが目指しているのは、文化・社会・言語・民族・宗教にまつわる障壁の超越。作品では人間の体を魂が入る器と考え、象徴的なドアのイメージを衣装に用いている。背景の色の組み合わせや植物を手にした人物のシルエット等、写真の持つ神秘性と蔵の厳かさが融合している。

奈良原一高「ジャパネスク〈禅〉」
両足院(建仁寺山内)
Supported by LOEWE FOUNDATION

祇園の両足院(建仁寺山内)では2020年に逝去した奈良原一高による「ジャパネスク〈禅〉」が展示されている。同作は奈良原が1962年から1965年のヨーロッパ滞在から帰国後、1969年に「カメラ毎日」で連載していたシリーズ。堅固な石造りの建物に代表されるヨーロッパの文化や風土に漬かって帰ってきた奈良原が、そのフィルターを通して再構築しようとした「日本」イメージの集積で、日本の伝統文化を再解釈したような作品群からはインパクトに加えて静ひつさも感じられる。また、京都最古の禅寺というロケーションで日本文化の奥深さを感じながら、作品を鑑賞することができる。

鷹巣由佳「予期せぬ予期」
y gion

グラフィック・デザイナーの鷹巣由佳とシャンパーニュ・メゾン「ルイナール(Ruinart)」のコラボ作品「予期せぬ予期」がy gionで展示されている。鷹巣は2021年に創設された「Ruinart Japan Award」を受賞後、「ルイナール」の招待でフランスのパリ・ランスを訪問。同作は、「多くのチェキを使用した街並みの融合」「Google Photosを使用したカラーウォール」「mirage glareの透明感のある立体アクリル作品」「カーヴの中のような没入感のある展示」「メゾン ルイナールを独自の視点で描いた作品」の5つのシリーズで構成されている。会場では、新作となる「RED」「YELLOW」「BLUE」「GREEN」の4つのカラーブックや今までのアートブックも展示している。

殿村任⾹「SHINING WOMAN PROJECT at KYOTOGRAPHIE 2022」
Sfera

「10/10 現代⽇本⼥性写真家たちの祝祭」に参加している殿村任⾹によるアソシエイテッドプログラムとして、がんと闘い向き合う⼥性のポートレートの展示「SHINING WOMAN PROJECT at KYOTOGRAPHIE 2022」がSferaで開催している。会期初日には、ポートレイト写真を施したプラカードを掲げた参加者たちと共にデモンストレーションを実施した。

世界報道写真展「民衆の力」──1957年から現在までの抗議行動のドキュメント
堀川御池ギャラリー

堀川御池ギャラリーで開催している世界報道写真展「民衆の力」では、1957年から現在までの抗議行動のドキュメント」として、世界報道写真財団が主催する世界報道写真コンテストで発表された「プロテスト」をテーマとする作品を展示している。ニュースで目にしたことのある有名な写真を通じて各国のプロテストの力を感じ取れる。

「KG+ SELECT」
くろちく万蔵ビル

毎年開催される公募プログラム「KG+」より8名を選出した「KG+ SELECT」がくろちく万蔵ビルで開催されている。参加作家の一人、松村和彦による「心の糸」は「認知症の人と認知症でない人は見える景色が違う」という当事者の言葉が作品制作のきっかけとなった。ほかにも、中国山西省出身の写真家・王露による「家」、福島の人と土地の関係や福島の人の心に刻まれた見えない被害を捉えた岩波友紀の「Blue Persimmons」等も展示されている。

京都の街を歩きながら写真に潜在する影響力を考える

10回目という節目を迎えた今回、改めて写真を通じて新たな価値観や世の中の見方を知ることができた。写真には作品に裏付けられた、美しさや楽しさから喜びや怒り等の感情まで、あらゆるメッセージが込められている。京都の街を歩きながらその意義を考えてみてはいかがだろうか。

■KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022
日程:5月8日まで
場所:京都市内

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