ケリング(KERING)と「カルティエ(CARTIER)」は、ジュエリー業界のサステナビリティを推進するパートナーシップ「ウオッチ&ジュエリー イニシアティブ2030(WATCH & JEWELRY INITIATIVE 2030以下、イニシアティブ2030)」を正式に発足した。元々は「責任ある宝飾品業のための協議会(Responsible Jewellery Council 以下、RJC)」との協業を予定していたが、同協議会がロシア企業との関わりを断たないことを不服とし、ケリングと「カルティエ」の親会社であるコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)が脱退。今回、スイスのジュネーブで開催された「ウオッチ&ワンダー ジュネーブ(WATCHES & WONDERS GENEVA)」見本市で「イニシアティブ2030」の発足を改めて発表した。また、新たなメンバーとしてシャネル(CHANEL)のウオッチ・ジュエリー部門、モンブラン(MONTBLANC)、スワロフスキー(SWAROVSKI)、ダイアモンド貿易会社のロージー ブルー(ROSY BLUE)が加わったことを発表した。
「イニシアティブ2030」は昨年10月に初めて発表された。当時はRJCへの加盟とその公式な認定を受けることをメンバーになる条件としていた。しかし、ロシアのウクライナ軍事侵攻が続く中、RJCがロシアのダイヤモンド採掘会社アルローザ(ALROSA)をメンバーから外さないことを理由にリシュモンとケリングが脱退し、その他の複数の企業も抗議していた。その後、RJCのイリス・ヴァン・デル・ヴェーケン(Iris Van der Veken)=エグゼクティブ・ディレクターが辞任し、さらなる混乱を招いた。
シリル・ヴィニュロン(Cyrille Vigneron)=カルティエインターナショナル(CARTIER INTERNATIONAL)社長兼最高経営責任者(CEO)は、「RJCメンバーの一部がロシアとの関係性を持っていること、その結果一部のダイヤモンドがそういった国と紐づいていることを受け、非常に残念な決断だったが、RJCから脱退することにした」とコメント。しかし、マリー・クレール・ダヴー(Marie-Claire Daveu)=ケリング チーフ・サステナビリティ・オフィサー兼渉外担当責任者は「イニシアティブ2030」に自信を見せる。「同イニシアティブにはポジティブなエネルギーを感じるし、自信を持っている。同時に、今回の事態により物事が複雑になってしまったことは否めない。しかしサステナビリティには簡単な答えはないし、必ず良い解決策を見出せると信じている」。
ケリングが19年に発足した「ファッション協定(The Fashion Pact)」と同様に、「イニシアティブ2030」はラグジュアリー企業からマス向けブランド、ディストリビューター、サプライヤーまで、さまざまなメンバーを対象とする。加盟企業は気候変動への取り組み、原料の保全、インクルーシビティの推進の3つの分野にコミットすることを要求される。また、定期的なレポートを出すことも必須だ。創業メンバーには「カルティエ」と、ケリング傘下の「グッチ(GUCCI)」のウオッチ部門、「ブシュロン(BOUCHERON)」「ポメラート(POMELLATO)」「ドド(DODO)」「キーリン(QEELIN)」が名を連ねる。
ヴィニュロン社長兼CEOは、「次のチャレンジは、RJCが今後どうなるかによって、どのように変化と改革をもたらすかだ。さまざまな問題はあるものの、元々の目的やミッションはより良い未来のためであって、15年間築き上げてきた実績はまだ残っているはず。今後は(ロシアのことを受け)リーダーシップや体制を変える必要があるが、一から新しい協議会を作るよりは簡単だと考えている」。