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連載 小島健輔リポート

ユニクロも値上げ 「調達コスト高騰」をどう売価に転嫁するか【小島健輔リポート】

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 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。原材料費や燃料、物流費の高騰、そして記録的な円安が重なり、衣料品に値上げ圧力が強まっている。ただ、単純に価格転嫁すれば買い控えられてしまう。アパレル企業はどんな手を打てばいいのか。

 ロシアのウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ政策で物流が混乱し、あらゆる資源と物流費が高騰してアパレル製品も値上げが必定という情勢で、今春夏物まではサプライヤーへのコスト転嫁で乗り切ったアパレル事業者も秋冬物からは売価を値上げせざるを得なくなる。

 値上げするのかしないのか、するならどんな方法でするのか、値上げすれば売り上げにどれほど響くのか、アパレル各社は四苦八苦の思案を重ねていると思われるが、ことは小手先の手法でなく、ざっくりと割り切った方が良い結果が得られる。本稿ではサプライヤーとの関係まで踏み込んで調達コストと「売価」の実態を追求し、「値上げ」の具体策を提示したい。

直近決算に見る川下と川上の関係

 コスト上昇が圧迫した2022年1〜3月に迎えた本決算を川下から川上(正確には川中上)にさかのぼって見ると、川下(アパレルチェーン)企業がコスト負担を回避し、川上(サプライヤー)企業がそれを被ったことが如実に見て取れる。以下、主要3社の在庫運用を私の推察も含めて解き明かしてみたい。

ケース1:しまむら

 最も調達コストの高い(=売価が割安と見て良い)しまむらはお手頃価格を維持して値引きロスを7.3%に抑制したから、実質値入れ率は40.9%、調達原価率は59.1%だったと推計される。7.31回転しているから交叉比率は249.3と今日でも高い方だが、リーマン前は10〜12回転して07年2月期の交叉比率は384にも達していたから、まだまだ改善の余地がある。

 しまむらは事実上のVMI※調達だから自ら補給在庫を抱えることがなく(しまむらの物流センターは全てトランスファーセンターで一切、在庫を積まない)、サプライヤーがしまむらの店頭在庫を情報共有して自社の補給在庫と追加生産をコントロールしている。同様にVMI調達のワークマンは週サイクルの消化動向をアルゴリズムやAI(人工知能)で予測してサプライヤーと情報共有しているが、同じ商品が来年も売れるワークマンではサプライヤーが補給在庫でカバーするのが大半で、期中の追加生産は1〜2回に限られる。しまむらはワークマンとは異なって同じ商品が翌シーズンも売れるわけではないから、しまむらのサプライヤーは補給在庫をミニマムに抑え、期中の追加生産や新商品開発(ティーンズでは6割に迫る)に積極的だ。

 結果として、しまむらは価格を抑制して既存店売り上げも客数も伸びて売り上げが7.6%、営業利益は30.0%も伸び、営業利益率は8.5%と18年頃の水準を回復した。しまむらのサプライヤーも売り上げは好調に伸びて在庫も回転したが、コスト上昇を納入価格に反映できず大幅な減益となったところもある。今秋冬物ではサプライヤーはコスト転嫁を図るだろうが、しまむらはそれを好調な販売消化で吸収し、値上げは部分的にとどまると思われる。

※.VMI(Vendor Managed Inventory)…あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、デザイン性のアパレルやアクセサリー、ベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い

ケース2:アダストリア

 「グローバルワーク」や「ニコアンド」を販売するアダストリアはブランドの事業規模によって調達体制が異なるが、主力ブランドは仕様書発注のロット調達であり、在庫運用や売価変更による売り減らし方式だ。アダストリア主力ブランドの売価設定はユニクロを基準とすればハーフライン〜ワンライン高めに設定されており、売価変更による消化促進が目立つ。

 アダストリアの値引きロスは開示されていないが、当初設定売価と実売価格の差から17ポイント程度と私は推察する(感覚的な推察です)。ならば実質値入れ率は69.6%、調達原価率は30.4%だったことになる。それが高いか低いかは議論の余地があるが、かつてのストライプインターナショナルなど高くても27%、タイムセール用の商品は19%とか16%で調達していた。

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