2023年春夏コレクションサーキットの皮切りとして、各都市のメンズ・ファッション・ウイークが開催しています。日本から渡航する関係者は多くないものの、「WWDJAPAN」は今季も現地取材を敢行し、現場から臨場感たっぷりの情報をお届けします。担当するのは、大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリの2人。今回はミラノ最終日の「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」と「ゼニア(ZEGNA)」の2ブランドを大塚がリポートします。
21日 10:30「ジョルジオ アルマーニ」
この日のミラノも35度越え。さすがに体力が削られてきました。でも、今日のショー取材は2ブランドだけです。大丈夫、頑張れる。そう気持ちをふるい立たせて、「ジョルジオ アルマーニ」の現場に向かいました。会場はシアターのような空間で、2日前にショーを開催した「エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」の会場アルマーニ / テアトロの広いホールとは全く異なる雰囲気です。壁面には、風によって隆起した砂のイメージが飾られており、砂漠をテーマにしたシーズンなのだと想像させられます。
グレイッシュなブルーを基調にしたスタイルが連続し、ホワイトやサンド、ブラックといった色彩も盛り込んでリズムを加えます。代名詞のテーラリングはとてもしなやかで、砂漠を歩く男たちを軽快に演出していました。極太のラペルやボクシーなシルエットを採用したジャケット、強めにテーパードしたスラックスなど、要素はクラシックなのに、ウエアは素材感や柄使いによってとても軽やかです。逆に、シルキータッチなラウンジウエア風のスタイルや、カラフルなニットウエアなどのカジュアルアイテムには気品があります。中盤に登場したパープルのカラーパレットや、異国情緒漂う柄使い、大判のスカーフをゆるりと肩がけしたスタイリングも印象的でした。
そして個人的に最も気になったのが、ポケットのあしらいです。ジャケットには両玉縁ポケットを多用し、重力や人の動きによってポケット下側に生じる落ち感が、素材の美しさをさらに際立たせていました。たぶん、このコンパクトな空間だからこそ感じられたディテールです。やはり画面だけを見るのと、素材を近くで見るのとでは、情報量の差は圧倒的に違いました。酷暑の日々で削られていく心と体が、美しいショーによって潤っていくのが分かります。ありがとう、アルマーニさん。ありがとう、ミラノ。
21日 16:00「ゼニア」
と、いつも通りであればミラノメンズはここで終わっていました。しかし今回は、「エルメネジルド ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)」改め「ゼニア」が初日から最終日に移動する変則的なスケジュールで、ミラノメンズのラストを飾ります。しかも、ミラノ中心部から車で約1時間半の距離にある、北イタリアのピエモンテ州・ビエッラに構えるゼニア本社が会場です。指定された場所に集合すると、ハイヤーに韓国とオーストラリアのメディアと共に相乗りして旅へと向かいます。そういえば、日本でも「ダブレット(DOUBLET)」のショーで、バスに片道3時間乗って会場に向かうという経験をしました。だから今回は余裕です。たぶん、韓国とオーストラリアのメディアよりも、その点は経験値が高い自信があります。何なら車中で溜まりに溜まった原稿も書けちゃうよと余裕をぶっこいていたのに、気がついたら寝落ちしておりました。やはり、体は正直なようです。
1時間半のドライブの末、ようやく自然に囲まれたゼニア本社に到着しました。きれいなグレーのユニホームをまとったスタッフが、ウェルカムドリンクや数えきれないほど種類があるフィンガーフードを次から次へと提供してくれます。お腹は正直パンパンでしたが、おそらく全種類コンプリートしました。だって、おいしいんだもの。建物は、工場を併設しているとは思えないほどエレガントな佇まいで、視界に入る全てが美しいのです。工場スペースを抜け、階段を上ってショー会場となる屋上に到着。あれ?ここどこかで見覚えがあると思い出しました。実はここ、21年春夏コレクションの映像で登場した場所だったんです。本来であれば21年春夏シーズンのショーで実現したかったことを、コロナの収束が見え始めたこの段階でようやく実現させたです。
ミラノを出てからすでに3時間が経過。イタリアはサマータイムで、この時間でも日差しがまだ強い。ショーを待っている間も額に汗がにじんでくるほどでしたが、その太陽が山にかかって隠れた19時30分に、ショーがスタートしました。このタイミング、狙っていたんでしょうか。だとしたら、おしゃれすぎませんか。コレクションは、最近の「ゼニア」で定着してきたイージーフィットのきれいなテーラリングと、スポーツの要素を掛け合わせたスタイルが主軸です。アレッサンドロ・サルトリ(Alessandro Sartori)=アーティスティック・ディレクターは、テキスタイルやディテールに革新性を加えることで、テーラリングの進化に挑み続けており、今シーズンもそれは不変でした。
不変と書いたのは、これまで「エルメネジルド ゼニア」「ジー ゼニア(Z ZEGNA)」「エルメネジルド ゼニア XXX(ERMENEGILDO ZEGNA XXX)」と切り分けていたからこそ可能だった大胆な提案が、統合して「ゼニア」になると冒険しづらくなるのではないかと考えていたから。でも、そんな心配はナンセンスでした。爽やかなパステルカラーと素材の軽やかさに、ラバー加工のように光沢を備えたコートや細かく毛羽立つラウンジパンツなど、素材の個性が際立ちます。上半身はボクシーシルエットで、パンツとシューズにボリュームを持たせる若々しいシルエットも定着してきました。欲をいえば決め手がほしいところではありますが、厚底のローファーや大容量のバッグなど、キャッチーな小物も印象的でした。
ショーのラストは、まるで映像を再現するかのようにモデルたちがルーフトップを力強く歩いていきます。ゲストたちの目の前で歩みを止めると、恒例のマネキンタイム。素材を近くで見られる時間です。ゲストたちは服を間近で見たり、触ったり、撮影したりと、興味津々でコレクションをチェックしていました。モデルはちょっと暑そうでしたけど。滞在時間は少しでしたが、「ゼニア」が受け継いできたものづくりを、その現場で、さらに新しいスタイルと共に実際に見られて、貴重な経験になりました。この感動は早いうちに原稿にせねば。そう思いながら、帰りの1時間半は夢の中……。朝は砂漠に旅するきれいなコレクションで心が潤い、午後は美しい場所に旅して景色とショーに感動する、最高な1日でした。次回からは、いよいよ強力ブランドが集うパリメンズが開幕です。