「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS以下、オム プリュス)」は6月24日、パリ・メンズファッション・ウイークで2023年春夏コレクションを発表した。コロナ禍を経て、同ブランドがパリでランウエイショーを行うのは2年半ぶりとなる。インドストリアルな雰囲気の会場内にはパイプ椅子が並べられ、窓のカーテンを閉めた暗闇でルックにライトを当てる、シンプルな演出だ。
川久保玲デザイナーは今季、中世の道化師に触発されてピエロをランウエイに出現させた。マルチカラーのハーレクインプリントやストライプ、ジグザグにカットしたテール、チェック柄のパッチワークを備えた後ろ身頃が視線をくらませ、おどけて見せるピエロを彷彿とさせる。ペプラムの層で仕立てたジャケットやコートの裾はフープ状に広がり、女性のスカートのような曲線を描くフォームは、男性服の既存のシルエットに反抗しているようだった。ふくらんだバルーニングパンツでボリュームを出す一方で、レギンスとシガレットパンツは直線的なラインでシャープなコントラスト。しわを寄せた生地、二重に重ねたスリーブ、生地の表面を切り裂いて内部構造をあらわにしたジャケット、そして王族の衣装を思わせるモーニングコートやジャケットは、これらの破壊的なディテールによって服の既成概念を超越し、テーマである“アナザー・カインド・オブ・パンク(Another Kind of Punk)”の挑発的なアプローチをにじませた。
川久保デザイナーは、「中世における宮廷道化師は、癒しを与える存在だけに限らず、主君に別の世界、斬新な考え方をアドバイスする役を持つ存在でもあったことに興味を持った」と綴る。文学において宮廷道化師がこのような役所で描かれたのは、ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)による戯曲「リア王(King Lear)」だ。宮廷道化師は王様にへりくだることなく、常にふざけた振る舞いを見せながら、時折真理を突いた発言で知性と誠実さの象徴として異彩を放つ。身分が最も低い道化師が、最も正しい助言者でもあるのだ。この物語とコレクションがクロスオーバーする。威圧するようなヘアスタイルと100年前の不気味なアンティークマスク、フレッド・マイロー (Fred Myrow) の楽曲“ファンタズムⅡ(Phantasm Ⅱ)”がホラー映画のような狂気を感じさせる一方で、「雰囲気や見た目で判断してはならない」と、物ごとの本質を突くようなメッセージが伝わってきた。権力に惑わされていないか、偏見で物事を捉えていないか、道徳とは何かーー時に真実とは、装いの下に隠されているものである。会場内の熱気はとてつもなく、フィナーレでは大きな拍手が沸き起こる。「オム プリュス」が2年半ぶりにパリに戻ってきた。