ファッション

今一番売れている女性誌「ハルメク」のシンクタンク部門に聞く 注目の50〜60代市場のつかみ方

 雑誌不況の中で快進撃を続け、現在、女性誌として日本最大部数(2022年6月時点で約44万部)を誇るのが、「50代からの女性誌」を掲げる定期購読誌の「ハルメク」だ。1996年創刊の「いきいき」がその前身で、2016年に「ハルメク」に刷新。同誌を発行するハルメクは、出版事業だけでなくシニア向けの通販や小売りにも取り組んでおり、シニア専門のリサーチやマーケティングを手掛けるシンクタンク「生きかた上手研究所」もグループ内にある。日本女性の過半数が50代以上となり、ファッションやビューティ業界でも50〜60代向けのブランドやサービスの開発が近年急増している。「生きかた上手研究所」の梅津順江所長に、50〜60代市場攻略のヒントを聞いた。

WWD:まずはハルメクの組織について。ハルメクと聞くと雑誌をイメージする人が多いが、実際はシニア世代向けにさまざまな事業を手掛けている。

梅津順江ハルメク「生きかた上手研究所」所長(以下、梅津):雑誌の「ハルメク」が多くの方にとっての入り口になっているが、毎月発行しているカタログ通販誌には約70万人のお客さまがおり、われわれは「シニア女性の生活を丸ごと応援する」といった考え方を持っている。紙の媒体だけでなく、ウェブサイトの「ハルメクWEB」事業も順調に成長しているし、文化事業として旅行やイベント、講座なども行っている。ファッション商品やコスメ、生活用品を集めた小売りの「ハルメク おみせ」は全国の百貨店などに現在7店を出店している。他にも、靴の事業やヘルスケア事業、“終活”関連の事業などもあり、われわれのビジネスはなかなか一言では言い表しづらい。同じような業容を手掛ける企業が見当たらないため、競合企業を聞かれると困ってしまう。

 シニアは日々変化し、進化している。その一例として、コロナ禍以降はデジタルに対する意識も高まっている。だからこそ、われわれも「昨日あったことが今日更新されているか」といった視点を会社として非常に大切にしている。「シニアとはこういうもの」と思い込まないことが非常に重要だ。「昔と比べて今のシニアは〜」といった言い方をする人もいるが、“昔”がいつを指すのかは人によって違うし、1年前どころか、半年前と比較したってシニアの意識や価値観は変わっている。

WWD:シニアの専門商社のようなハルメクの中で、「生きかた上手研究所」はどのような役割を担っているのか。

梅津:「生きかた上手研究所」が立ち上がったのは14年の4月。聖路加国際病院の名誉院長であった、故日野原重明先生の著書「生きかた上手」が研究所名の由来になっている。われわれはハルメクのシンクタンク部門として、社内の編集部門や商品開発部門などにリサーチ結果やマーケティングデータを共有しているほか、最近はBtoB事業として、外部企業へのシニアマーケットについてのコンサルティングを行ったり、レポートを販売したりもしている。

 われわれの研究所の大きな強みとなっているのが、現在約3800人が登録しているモニター組織の「ハルトモ」だ。15年5月にスタートした組織で、アンケートやインタビューに協力してもらっている。自身の感覚や考えを言葉にするのがうまい人が多く、「ハルメクWEB」のライターを務めてくれている人もいる。社内で新規のサービスや事業をスタートする際、「ハルトモ」はなくてはならない存在だ。「ハルメク」誌面でチャレンジ企画を立ち上げるときには、必ず事前に「ハルトモ」の意見を聞いている。

WWD:研究所と外部企業との取り組みでは、具体的に過去にどのような実績があるのか。

梅津:例えば、「眼鏡市場」とは“アイグレース”を共同開発し、21年11月に発売した。それ以前から「眼鏡市場」は60代女性向けの眼鏡を企画していたが、「なんだかターゲットにはまらない」と感じていたようだ。それで、1年間かけて「ハルトモ」メンバーによるモニター会を3回実施し、ニーズを探った。1年間というのは開発スパンとしてはかなり長期な方で、もっと短期で進むプロジェクトも多い。

 “アイグレース”の開発に関して言えば、とにかくこの世代の女性は欲張りで、そのうえストライクゾーンは狭い。顔の造形や趣味嗜好が1人1人違うのはもちろんだが、かけたときにおしゃれに見えないといけないし、同時に視力は落ちているので機能面の要求も増えている。さらには、「品よく見せたいけど同時に個性もほしい」「安心したいけど冒険も必要」といった無理難題も出てくる。「私はまつ毛のエクステをしているから、まつエクにつかない眼鏡でないといけない」といった意見がモニターから出たときは私も驚いたし、ほかに「眉毛の形が若いころより下がっているので、それに合うものがほしい」という声もあった。こうした多様な意見を受けて、“アイグレース”では商品を1つに絞ることなく複数型企画し、さらに店頭で微調整することでカスタマイズできるようにしている。

「シニアは自分をシニアとは思っていない」

WWD:50〜60代市場には近年注目が集まっており、参入する企業も多い。その中で「50〜60代市場のことならハルメクに聞け」というように認知を得ているのは、やはり「ハルトモ」の存在が大きいのか。

梅津:「ハルトモ」組織に加えて、「ハルメク」編集部には読者からのアンケートハガキも毎月2000〜3000枚ほど届いている。編集部主導ではあるが、われわれ研究所もそれらのハガキにも目を通している。今この瞬間に、対象となる層が何を考えているのかをつかもうとする意識は会社全体に強く根付いていると思う。それは、(定期購読や通販という形で)流通を通さずにダイレクトマーケティングを行ってきた企業だからという面が大きい。

 私自身は化粧品会社やリサーチ会社をへて、16年3月にハルメクに入社した。それから6年がたったが、「生きかた上手研究所」がリサーチ結果を社内外に発信してきたことで、世の中全体として50〜60代への理解が進んだという自負がある。私は現場が好きなこともあって、今もオンライン、オフライン合わせて年間800〜1000人ほどに話を聞いている。

WWD:ファッションやビューティ関連企業がこれからシニアマーケットに参入する際、どのような点に気を付けるべきか。

梅津:この世代は自分のことをシニアだなんて少しも思っていない。言葉の選び方として、「『ハルメク』世代の何%が支持しています」といった表現をすると、ファッションや美に関する領域では逆に敬遠されてしまう。自分たちのことを決めつけてほしくないと彼女たちは思っていて、自身がいいと感じたものを買うだけ。だから、「シニア向け」「50〜60代向け」といった表現はファッションなどでは避けた方がいい。一方で“困りごと系”、例えばデジタル関連や健康についての企画や商品は、あえて「50歳からの〜」といった表現を使った方が刺さりやすいといった違いもある。ファッション分野で言えば、服をとにかく沢山持っているのがこの世代の特徴でもある。そこをくすぐる表現として、「今あるアイテムを生かす」「1点足すと着回しの幅が広がる」といったアプローチには好反応が得られるケースが多い。


 「WWDJAPAN」編集部は7月22、29日に、“主役世代(50〜60代)”と“Z世代”にフォーカスを当てた、世代別マーケティングのオンラインセミナーを開催します。22日には、梅津順江ハルメク「生きかた上手研究所」所長も登壇。梅津所長による50〜60代市場のより詳しい分析や、同市場攻略のためのヒントをお聞きになりたい方は、こちらから是非お申し込みください。

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