「シャネル(CHANEL)」の2022-23年秋冬オートクチュールショーの舞台は、パリ郊外のブローニュの森にあるエトリエ馬術センター。メゾンのアンバサダーとスポークスパーソンを務めるシャルロット・カシラギ(Charlotte Casiraghi)が馬にまたがってランウエイに登場した1月のショーとのつながりを感じるロケーションだ。会場に着くと、屋外には先シーズンのセットを思い出させる現代アーティストのグザヴィエ・ヴェイヤン(Xavier Veilhan)による巨大なオブジェ。会場内は階段を設けた立体的なつくりで、彼が今季のために手掛けた銀色に光る球体のオブジェやグラフィカルなパターンで飾られている。また、前回生演奏を披露したミュージシャンのセバスチャン・テリエ(Sebastien Tellier)も、コレクションのティーザーや一部のショー音楽を担当。ヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)は「前回のショーの流れを汲みつつも、実験的な余白を残しながらイメージをふくらませていった」と話し、今回も親交のあるアーティストと共にショーを作り上げた。
ショーは、「シャネル」のアンバサダーでもあるミュージシャンのファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)が制作したサウンドトラックと共にドラムを叩く映像からスタートした。ファーストルックは、鮮やかな緑が目を引くスクエアショルダーのボクシージャケットとミッドカーフ丈スカートのセットアップ。どちらもフラップポケットとジュエリーライクなボタンがあしらわれている。足元は、ブラックのカウボーイブーツ。ツイードで仕立てた中折れ帽やつばの広いエレガントなハットを被ったモデルもいる。
今季の軸となるのは、角張った肩やストレートラインなどを生かしたスーツやコート、ロングドレス。そんな直線的なシルエットに対し、ファンシーツイードやレースといった素材と、幾何学模様のスパンコール刺しゅうやペイント、フェザーなどアトリエの技術が光る装飾で、豊かな質感を際立たせる。終盤に向かって披露されたドレス群は、白や黒にメタリックな輝きを加えたデザインが中心。シフォンやチュールといった透け感のある素材とフレアやマーメイドシルエットを使い、軽やかなイメージを描いた。
ヴィルジニーが参考にしたのは、ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)が1930年代に思い描いていたスーツやロングドレスのデザインだというが、同年代の要素はルックの仕上げにも見られる。ガブリエルは1932年、初のハイジュエリー・コレクション“ダイヤモンド ジュエリー(BIJOUX DE DIAMANTS)”をデザインした。それから90年を迎える今年、「シャネル」は当時用いられたコメット彗星など天体のモチーフを再解釈した新作“コレクション 1932(COLLECTION 1932)”を発表。ちょうどクチュール期間中にグラン・パレ・エフェメールでお披露目された煌びやかなネックレスの数々が、胸元に華やかさを添えた。
30年以上にわたって「シャネル」で働いているヴィルジニーは、創業者ガブリエルとカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が築いたスタイルやアトリエの仕事を大切にしつつ、現代を生きる女性が着用することを念頭に置いた提案を続けている。「軽やかかつフェミニンで、着ることを念頭にデザインされた服であること。それ以外のことは考えられない」という彼女の言葉からも、その信念がうかがえる。
2022-23年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイークが7月4日から7日までに開催された。今季からは、ついに公式スケジュールに名を連ねる全てのブランドがリアル発表を再開。世界中からVIP顧客やセレブリティーもパリに戻り、華やかなムードに包まれた4日間のファッションの祭典から、注目ブランドのショーリポートをお届け!