松屋銀座本店7階インテリアフロア。その中央に静かに佇むように、ガラス囲いの約180㎡の自主編集売り場がある。国内外から買い付けたシンプルで普遍的なデザインの椅子やテーブル、照明食器、文具など700点が並ぶ。昨年11月、同社はこの「デザインコレクション」の売り場を3Dで再現したバーチャルストアを公式サイトにオープンした。(この記事は「WWDJAPAN」7月18日号からの抜粋に加筆しています)
「デザインコレクション」は1955年、日本を代表する建築家やプロダクトデザイナーらで作る日本デザインコミッティーの協力の下でオープン。会員の審美眼でデザインやコンセプトにおいて時代を超えた価値を持つ名品をセレクトしており、“デザイン”を標榜する同社のアイデンティティーとも言える売り場だ。高層階にあるため集客力はそれほど高くないが、「松屋の古くからのお客さまやデザイナーなどには価値ある売り場として認知され、目的意識を持って訪れてくださっている」と売り場の買い付けを担当する豊島毅リビング・呉服・美術課長。
定期的に入れ替わる品ぞろえも売り場の面白みの一つ。会員であるプロダクトデザイナーの深澤直人、建築家の原研哉など錚々たる面々が2カ月に1回程度顔を合わせ、社会や時流に合わせた商品の選定会を実施している。売り場に並べられた商品には選者のコメントが付され、「なぜこの商品を選んだのか」「どういう点が優れたデザインなのか」というストーリーがつづられている。
バーチャルストアはITベンチャーのDiO(京都市、一筆芳巳社長)との協業で構築。リアル売り場の商品約700点のうち、バーチャル上には約100点が表示され、最大8kを超える高細密な画質で売り場を再現。商品もあらゆる角度から眺めることができる。欲しい商品は公式ECへ遷移して購入可能だ。
ローンチ以降、「20〜30代の若いお客さまが熱心に眺めている光景が増えた」という。「今の若い世代は真贋さまざまな情報に触れる機会が増えた分、本物を求めるマインドが強い。そういったものを百貨店に求めていらっしゃると感じる」。扱っている商品も、若者の手に届かないというわけではない。価格帯は数百円から、高くとも20万円程度まで。「大衆に手に届く価格も、優れた“デザイン”の条件」という選者の考えに基づくものだ。
「コロナ禍を経て、オンラインでの買い物が浸透するとともに、銀座は人通りが大きく減少した。なぜリアルの売り場に行く必要があるのか、なぜ松屋に足を運ぶ必要があるのかをお客さまに伝える必要が出てきた」。そういった経緯からバーチャルストアが生まれた。「(バーチャルストアを通じて)松屋のアイデンティティーが凝縮した売り場を、もっと多くのお客さまの目に触れていただける。商品一点一点には、ECの画面で見ただけでは分からない“奥行き”があり、3Dだから表現できる。さまざまな角度からプロダクトを眺めると、新しい発見や違和感があるはずだ」。
売り場の年間売上高(EC含む)は前年比25%増を目指す。今後はバーチャルストアとリアルの売り場の設計や陳列を変え、役割を棲み分けることも検討している。「たとえばバーチャルストアは商品を集積し、多くのお客さまに探検するように買い物を楽しんでいただく。そうすればリアルは、売り上げを稼ぐという目的から離れ、売り場のコンセプトを凝縮したプロダクトだけに絞って陳列してもいい。バーチャルストアを入り口に、売り場のファンを増やしていきたい」。