ファッション

さらばデフレ ミキハウスが価格3倍の「高級子供服」で挑む市場

 子供服ブランド「ミキハウス(MIKI HOUSE)」を展開する三起商行(大阪府八尾市、木村皓一社長)は、国内外の富裕層をターゲットにした超高級ライン“ミキハウス ゴールドレーベル(MIKI HOUSE GOLD LABEL)”の販売を今秋物から開始した。あべのハルカス近鉄本店、松坂屋名古屋店、八尾本社内にあるミキハウス本店に常設コーナーを開設。まとめて20万円以上購入するケースが初日から相次ぐなど好調なスタートを切った。9月7日には、三越銀座店にも常設コーナーを設ける。

 “ゴールドレーベル”は、希少性の高い海島綿やホワイトグースダウン、カシミヤシルクといった高級素材を使用し、高い技術力を有する国内工場で縫製する。「子供にとっての着心地や肌触り、動きやすさをとことん追求し、価値に見合った価格とサービスで提供する」という経営方針を体現したラインだ。

 今秋冬物はベビーのカバーオールやツーウェイオール、トドラー向けTシャツ、セーター、デニムジャケット、ダウンコート、シューズなど6カテゴリー、30品番を展開する。

 例えば、ダウンコートには、日本国内で最高水準の精製加工を行なったポーランド産ホワイトグースダウンを採用。表地に国産の高密度タフタ生地を使い、熟練の職人が1点1点ていねいに縫い上げた。価格は24万2000円(税込、以下同じ)で「従来の最上位ラインの約3倍」(MD本部商品MD部ブランド担当マネージャーの髙橋丞二氏)という。

 ベビーのバスローブも、従来は今治タオルを使って1万円台で展開していたが、同ラインではアメリカンシーアイランドコットンを採用して5万5000円で投入する。他にも、ボンディング編みで着心地を追求したカシミヤシルクのセーター8万8000円、地球環境にもやさしいデニムのパンツ4万9500円、海島綿の半袖Tシャツ1万9800円など、価格は海外の高級子供服ブランドを参考にした。

 通常のミキハウスの商品とは別格扱いのため、売り場の什器はもちろん、ショッパー(紙袋)、ギフトボックス、インナー袋などの備品もすべて一から見直して作った。

「価格に対する変な先入観」を払拭する

 ミキハウスは1978年のブランド創設時から高級路線を打ち出し、百貨店を中心に販路を拡大してきた。海外進出も早く、87年のパリのヴィクトワール広場を手始めに、ロンドンの高級百貨店ハロッズなど出店。現在はパリ、ロンドン、シンガポール、ホーチミン、ジャカルタ、北京、上海、ソウル、メルボルンなど世界各都市に90店舗(7月末時点)、日本国内は現時点で232店舗を展開する。

 売上高は2022年2月期で約170億円、うち「ミキハウス」ブランドは100億円弱。インバウンド全盛だった約4年前に比べると全体では7掛けに落ち込んだが、「ミキハウス」ブランドはコロナ禍でも安定した売り上げを維持している。担当マネージャーの髙橋氏は「ECの伸長やグローバル店舗の拡大によって、国内百貨店の落ち込みをカバーできた」と話す。

 そんななか登場した“ゴールドレーベル”は、価格より価値を重視する顧客ニーズがコロナ禍で顕在化したことが、立ち上げのきっかけとなった。中国人の爆買いが話題になった2017年頃、その兆候は現れていたという。当時、百貨店の営業担当だった髙橋氏は、百貨店でのある光景を思い出す。

 「外国人客のおもてなしを目的に、松屋銀座店の売り場内に壁を立ててラウンジスペースを設けたところ、中国などアジアの富裕層がたくさん訪れた。彼らは来店するなり一番いいものを見せてほしいと言い、当時取り扱い始めた海島綿のベビー肌着がよく売れていた。中には80万円くらいまとめ買いしたシンガポール人夫婦もいた。同じような現象が全国各地で起きていて、日本製で安心安全な子供服を求める外国人客が一定数存在することを知り、可能性を感じていた」

 一方、商品開発部門でも、素材にこだわった高価格アイテムを単発で展開し、好評を得ていたことからシリーズ化を検討していた。そこにコロナ禍が到来。国内外の富裕層向け商品の強化に加え、原料高や物流コストの高騰といった問題を解決するため、戦略の見直しを迫られることになる。

 「特にコロナ禍以降、弊社の木村社長はもっとプライドを持つようにと社員に言ってきた。いい商品に対していい値付けをしていいサービスを提供することを突き詰めることでお客さまの理解を得なさい、と。現場では、高い値段をつけて支持されるかどうか躊躇していたが、その言葉で方向性がはっきり定まった」と、髙橋マネージャーは話す。

 経営企画本部取締役本部長の澤井英光氏も、戦略見直しの背景に「デフレ不況下で染み付いた価格に対する変な先入観があった」と振り返る。しかし、原料高騰による生産コストの上昇により、ここ数年、既存ラインの小売価格がじわじわと上昇。「自分たちの思い込みで価格を決めてきた従来のビジネスを続けていたら、首を絞めることになりかねない。ブランドの方向性を見直し、価格に対する固定観念を打ち破ることで高級ラインに取り組む覚悟ができた」という。

高価格の日本製子供服はブルーオーシャン

 “ゴールドレーベル”は、常設店のほか、百貨店の外商顧客向けイベントやホテルでの催事にも実験的に出店している。「従来品だと単価が低いため、外商部門にはなかなか入り込めなかったが、今秋冬物の展示会以降、外商イベントでもやりたいという声が増えている」(高橋氏)。

 さらに海外では、パリ、ロンドンの直営店のほか、高級ブランドが集まる中国の北京SKPや中国の海南島にある大型免税店・三亜国際免税城など、一等地に構える12店舗で9月1日から取り扱いが始まる。小売価格は輸出などの経費を上乗せしても日本の約1.3倍におさまる。「直営以外の10店舗は“ゴールドレーベル”を展開する際の条件をクリアした店。基幹ブランドであるミキハウスの方向性を示すラインと位置付けているので、既存商品の中に埋もれてしまわないよう、売り場の中に専用スペースを確保して展開してもらっている」(髙橋氏)。

 同社は引き続き海外出店に勢力的で、今期の海外売り上げは国内を上回る見通しだ。“ゴールドレーベル”については立ち上げ時点から海外の富裕層を意識し、海外市場での拡大に力を注ぐ。

 超高級路線で市場開拓を狙う同社だが、“ゴールドレーベル”が軌道に乗れば、技術力の高い国内工場に利益が還元され、工場にとっても持続的な経営につながるという。例えば、カシミアシルクのセーターは、カシミヤを得意とするニット工場とシルクアイテムの取り扱いに長けた縫製工場の2社が企画し、ミキハウスに持ち込んだ。従来ならオーバースペックを理由に断っていたところだが、子供にとっての着心地を最優先したことで商品化が実現した。

 「ミキハウスの特徴は手間隙かけて商品を作り、手間暇かけて販売することだと思う。その強みをより突き詰めた集大成が“ゴールドレーベル”。ハイプライスの日本製子供服市場がブルーオーシャンだということも分かった」と髙橋マネージャーは話す。

 今後は、ゴールドレーベルの商品とサービスの質に磨きをかけ、ミキハウスらしさを伝える新たな柱に育てていく。同時に、ミキハウスブランド全体をさらに格上げする旗振り役に位置づける考えだ。

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