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担当21年目のファストリ社員に聞く社会貢献の現場と現実 「被災地でユニクロはインフラなんだと震えた」

 サステナビリティは地球環境問題だけでなく、「社会」もまた重要な要素である。企業は世界の社会課題とどう向き合い、貢献するかが問われる時代だ。とは言え「社会」という漠然として言葉が何を指すのか理解は難しい。そこで、ファーストリテイリングで社会貢献分野に長年携わるシェルバ英子コーポレート広報部部長に、これまでの歩みと同社が社会貢献を行う意味について聞いた。世界進出をしたことで見えた「社会」とは?そして社会貢献とビジネスの関係とは?

WWDJAPAN(以下、WWD):ファーストリテイリングは、地域社会やNGO・NPOと連携して各国や地域における社会的課題を解決するための支援を行っている。シェルバさん自身のこれまでの歩み、今の仕事を選び続けている理由は?

シェルバ英子ファーストリテイリング コーポレート広報部部長(以下、シェルバ):入社は2001年。ユニクロが原宿に出店してフリースブームが起きたころで、 “この会社、勢いがあって面白いな”と思ったのが出会いになる。ちょうど人材募集をしていたので入社をし、最初は社員研修のプランニングなどの担当部署にいたが、社長直轄の社会貢献室を立ち上げるタイミングで“新しいこと好きそうだから”と声がかかった。

 柳井(正ファーストリテイリング会長兼社長)は当時から「世の中、もうけっぱなしではダメ。社会に還元する企業でなきゃいけない」と明確に言っており強く印象に残っている。人事や総務、広報なども細分化されていない、まだベンチャー気質があった頃のこと。「ウチにしかできないことをやろう」と思った。地域と結びついて、従業員が参加できること、服を通じてできる取り組みを探そうとした。この軸は今も変わらない。

WWD:社会貢献室は2004年にCSR部となる。

シェルバ:会社がどんどん大きくなっていった時期で、同時に一部のグローバルSPA企業が“スエットショップ”と批判されるなど、アパレルの労働環境が問題視されていた頃でもある。グローバルを意識する中、労働集約型の産業の課題に着手せねばと、CSR部では04年の設立当時から労働環境のモニタリングを始めている。日本企業の中でも早い方だったと思う。2017年からはサステナビリティ部が設立され、自然環境の取り組みが進んでいるが、私は引き続き社会貢献活動を担当している。

WWD:今の所属が広報部である理由は?

シェルバ:「情報発信は取り組みと同じくらい大切」という考えから、2年前にサステナビリティ部のマーケティングチームを広報部に移管。これまでは定期刊行物を作るような活動しかしてこなかったものを、「ユニクロ」のブランディングの根幹のひとつを担う役割としてサステナビリティの位置づけが変わってきた。

WWD:「ユニクロ」の根幹と言えば、地域、小売店、服だと思うが、社会貢献活動もそれらがベースにあるのか。

シェルバ:社長の柳井はよく「平和な社会でないとビジネスが成り立たない。だから地域社会が持続可能な状況を作ることに目を向けるべきだ」と言っているが、その考え方がベースにある。

従業員間の合意形成を測ることは簡単ではない

WWD:シェルバさんのキャリアはファーストリテイリングの変遷と重なりとてもユニークだ。モチベーションはどこにあるのか?

シェルバ:さかのぼると、“人”となる。最初に担当した仕事が瀬戸内オリーブ基金だった。瀬戸内オリーブ基金は、当時日本最大と言われた有害産業廃棄物の不法投棄事件「豊島(てしま)事件」をきっかけに建築家の安藤忠雄氏と豊島事件弁護団長の中坊公平氏が呼びかけ設立されたNPO法人。当時は知名度がなく、2000年に調停が成立していたものの跡地や緑化の問題は深刻で、企業が入り込むにはディープな世界だったが、社長は現場を視察してこの状況を変えることが市民社会として必要だと思ったという。事業との関連性はなかったが、全国展開している店舗でできること、として募金と寄付の活動を始めた。

 募金を寄付するだけではなく、従業員がボランティアに参加し、それがどのように使われているかを知る仕組みが必要なんじゃないか?となり、2003年に仕組みを作ったものの、従業員からの関心が低く。どうしたら関心を持ってくれるかな、と考えることは自分のモチベーションになった。

WWD:日々売り上げに追われている一人一人の意識を変える、まさにサステナビリティの肝で難所だ。ほかにこれまでの仕事で印象的だったものは?

シェルバ:難民支援はずっと関わらせていただいている。もうひとつ、06年に服の店頭回収を開始した。そしてこれまた従業員がその気にならないと進まないプロジェクトだ。お客様の服を店でお預かりして役立てる取り組みだから、丁寧な対応が大切。同時に全従業員が納得する取り組みでないと意味がない。当初はアンケートをとったところ半数くらいの従業員しかやりたがらなかった。

WWD:店頭としては成績にもつながる“売る”ことに集中したいと思うのが自然だ。

シェルバ:そこでまずは北海道でトライアルを行い、「毎月これくらい回収があった」といった情報や具体的なオペレーション方法をシェアすることで、「それなら店舗のオペレーションの中でやっていける」といった納得感を得られるようにした。従業員が自分ごと化し、合意形成を測ることはとても大切。簡単ではない。

WWD:衣料の寄贈は2021年8月末までの累計で79カ国、4619万点と膨大だ。難民支援も服の回収と同じく2006年スタートである。つながりはあるのか?

シェルバ:「回収した服をどういう使い方をするのか、誰が着るのか。中古市場に流すことが多いようだが、うちは最後までどうなったのか追いたい」そんな声が社員からあがるなか、服は服として活用したいという思いもあり、実際に服が必要なところはどこなのかを探して、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に引き継ぐことに決めた。

 そこで初めて地球上の難民の課題を知った。UNHCRの予算は医療などが優先で衣料にはまわりづらい。ならば「これは私たちがやる意味ある」と思った。店頭回収から支援までの一連のスキームを作ったことは意義ある経験となった。社内でよく使われる好きな言葉が「現場、現実、現物」。現場に行って現実を見て、課題を知って何ができるかを見つけるという意味で、店舗運営や商売を語るときに使われるが、サステナビリティも同じだと思う。現場で課題を発見して課題を解決する。

WWD:2025年度までに、100億円規模で社会貢献活動に投資することを発表している。その中身はあくまで「服屋として何ができるのか」という視点だと。

シェルバ:アパレル企業としては筋が通っていると思う。それとやはり、平和な社会なくしてビジネスは成り立たない。世の中の不均衡といった問題の解決策を服を通じて探っている。

記憶に残る東日本大震災でのできごと

WWD:多くの人と接する中で記憶に残ることは?

シェルバ:東日本大震災のとき。3月11日の金曜日から24時間以内に「ユニクロ」への支援要請がカスタマーセンターや店舗スタッフに届き、その多くが「早く!」と怒りにも近いテンションだった。私たちはもう社会インフラなっているのだ、頼られているのだと震え上がった。社長個人が10億円を出すことを決めて、現場も週末中に声を集めて数百万枚レベルの衣料支援が必要であると決定。以降、半年間は木曜日の夜から月曜日の朝まで毎週服を届けに行ったが、今でもあの時のことを思い出すと、社会からの期待に背筋が伸びる。

WWD:まさに「現場、現実、現物」だ。

シェルバ:当初は自治体も被災者であり機能をしていなかった。そこで仙台で倉庫を借りて、そこに備蓄されていた日用品もまとめて、借りた車で被災地へワーっと届ける。そういったことを繰り返ししていた。あれから10年が経ち、ヨーロッパのスタッフがウクライナで同じことをしている。ロシアによるウクライナ侵攻が始まって5日目くらいには、ヨーロッパにある衣料をポーランドなどに届けるなど同じスキームで支援を行っていて、そういう教育があったわけではないけど同じことを実践していることは印象的だ。

WWD:地球上のさまざまな課題と接する中、ファッションにはどんな力があると思うか?

シェルバ:「ユニクロ」にはライフウエアというコンセプトがあり、あらゆる人のための普段着を作っている。私たちは「救援物資」という言葉を使ってしまうが、もらった人たちに取っては1枚の服。人間としての尊厳を表すものが服。受け取った服を「あなたにはこれが似合う」と交換するなど、自己表現にもなっている。有事の際には、もちろん生命を維持する水や食べ物の方が必要だが、着替えることでリフレッシュしたり気持ちを高揚させたりするパワーが服にはあると、現場を見てきて強く思う。

 「UT」の平和を願うチャリティーTシャツプロジェクト「ピース・フォー・オール(PEACE FOR ALL)」もそうだが、お客さまとサステナビリティのタッチポイントのような存在、社会課題に結びつく商品の伝え方は小売業ならではと思う。

グローバルビジネスで企業姿勢を表すCSRを推進は不可欠

WWD:「支援」は企業にとってどんなメリットがあるのか?もしくは「支援」はメリットを求めることではないのか?

シェルバ:海外進出を進めた頃、社長の柳井は各国の要人と会う際に「あなたの会社はうちの国にどう貢献しますか?」と問われることが多く、「良い服を手ごろな価格で提供します」というだけでは話にならないと感じたと聞いている。それもありグローバルビジネスで企業姿勢を表す際にCSRを推進することが不可欠であるという考えから05年に社会貢献室をCSR部に改組するとともに、CSR委員会を立ち上げた。「支援」、「難民問題」という表現は上から目線に聞こえるかもしれないが、やはりそこは地球市民の責務であり、社会課題を解決することが企業の役割のひとつだと思う。

WWD:世界でさまざまな立場の人と接する仕事だが、コミュニケーションをする際に意識していることは?

シェルバ:話す以上に、聞く方が大事だとは思う。相手が国連の人でも難民の人でも従業員でもそう。何を考え、何を必要としているかを聞く。そして全部聞いた上で「これはできるけど、これはできない」とロジカルに伝える。人間だから、つい当たり障りのない返答をしそうになるが、中途半端な期待を残さないことも大事で相手がどんな立場でもそこはぶらさない。

WWD:依頼を受けることは多いだろう。

シェルバ:難民キャンプで「しかるべき人に届けてほしい」と嘆願書を渡されたことがあったが、私たちにはできないことだからお断りをした。本当に悲しいこと。難民の方たちは自分の意志とは関係なく難民という立場に置かれている。「自分にはパスポートがない、帰る家がない」と聞いて、何も答えられなかったこともある。

 東日本大震災のときの経験も胸をえぐられた。津波の被害があったエリアとなかったエリアの境に避難所があったため、被災していない人も服を持っていったため、大ごとに。間に入ってくれる機関もなかったから、自分たちで即座に優先順位を決めて「波をかぶった人から配ります」と伝えたのだが、公平の中にも優先順位が必要なわけで、学びが大きかった。

WWD:みんなに、は難しい。

シェルバ:平等でないから、全員に渡せないからやらない、ではなく、必要な人にはやはり渡したいのが私たちの思いだ。

WWD:これから関わりたいことは?

シェルバ:リサイクル素材などの採用、責任ある調達など商品に紐づいた情報発信をより積極的に実施していくことで、透明性の向上やお客様によりわかりやすく伝えることを心掛けていきたい。その際に、自社がやっていることを一方的に伝えるのではなく、お客様にも参加いただける機会を増やしながら、活動の輪を広げていきたいと思う。 ユニクロは現在、25の国と地域で店舗を展開しており、商品、店舗、従業員がサステナビリティのタッチポイントとなって、サステナビリティがお客様にとって身近なものとなるよう取り組んでいきたい。

WWD:多彩な情報に触れる仕事だが、日々の情報収集方法は?

シェルバ:歴史が好きで、司馬遼太郎が好き。組織論や普遍的な人間の立ち振る舞い、愚かさは彼が先生だ。時事ニュースは流しっぱなし。ソーシャルはあまり見ない。一喜一憂したくないから。

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