ファッション

手をつなぐ68組の双子に心を揺さぶられた「グッチ」に、パリス・ヒルトン登場で会場が湧いた「ヴェルサーチェ」 完全復活の2023年春夏ミラノコレ現地リポートVol.3

 ボン・ジョールノ!洋風の朝食に飽き、持ってきたインスタントの味噌汁に手を伸ばした藪野です。最近のミラノコレでは、街のはずれにある倉庫のような巨大なスペースをショー会場に選ぶブランドが多く、朝から晩まで街の東西南北を行ったり来たり……。観光客も増えているし、今日はデモや交通事故があって道路は大渋滞。いつも以上にカオスです。そんな3日のハイライトをお届けします。

GUCCI

 本日の目玉「グッチ(GUCCI)」の会場は、ランウエイの片側だけに客席が配置されたデザイン。壁には、さまざまな表情の男女を写した白黒のポートレートが並べられています。「二重性」がキーワードの一つとなったショーは、フォーマルなダブルブレストスーツを、ガーターベルトを着けたようなパンツで大胆にアレンジしたルックから開幕。異なるテイストやカルチャーの自由なミックスというアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)が築き上げた明確なデザインコードが根底にありながらも、90’sや80’sの要素をより強く感じさせるコレクションでした。トム・フォード(Tom Ford)時代にヒントを得たセクシーでフェティッシュなデザインに加え、ギラギラと輝くスパンコール使いやスポーティーなカラーブロッキングは90年代からの引用。一方、アンティークビーズのような装飾や、幼少期の思い出であり、可愛げがありながらも「二重性」を映し出すキャラクターでもある映画「グレムリン」のギズモは、80年代につながります。新作バッグも、81年に発表された馬術のサドルが着想源のショルダーバッグをアップデートしました。 

 そして、今季はシノワズリのデザインも多出。「中国文化は遠くにあるように見えるけれど、ヨーロッパの文化に影響を与え、その視点を変えた。そして、私たちが唯一の存在ではなく、たくさんの存在の中にいることを気づかせた」と、アレッサンドロは説明します。スパンコールジャケットやオーバーオールにあしらわれた「FUORI!!!」は、70〜80年代にかけて同性愛者の権利獲得のために闘った団体、イタリア革命的同性愛者統一戦線(Fronte Unitario Omosessuale Rivoluzionario Italiano)の略。LGBTQに限らず自由であることが揺らぐ時代へのメッセージのようで、「今取り上げるのにふさわしいタイミングだと感じた」と話します。

 ショーの終盤、客席の正面にある壁が上がると、そこに現れたのは鏡に写したかのようなもう一つのランウエイと客席、そして同じ服を着て歩くモデル。2つのショーが同時進行していたことが明らかになりました。今回のモデルは、世界から集められた68組のリアルな双子。フィナーレには同じルックを着て、同じ顔をした二人が両サイドから中央に向かい、手を取り合って歩いていきます。そのアイデアの出発点となったのは、アレッサンドロ自身の幼少期。実の母が一卵性双生児であり、同じ顔をした叔母のことも「マンマ」と呼んでいたことから、「私には二人の母がいた」とコメント。彼が7歳の時に叔母が亡くなるまで一つ屋根の下で暮らしていて、「全く同じに見える二人の母が同時に存在する毎日が私の世界だった。仲が良かった彼女たちは遺伝的な連帯感をもつ以上に、他者が入り込めない不思議な親密さがあった」と続けます。

 そんな二人の愛を受けたアレッサンドロに生まれたのは、二重性や互いを映し出す存在への憧れ。「双子の素晴らしさは、完全な同一性が不可能なことによってこそ育まれる。ゲノムの魔法は完璧に同じ生物を作ろうとするが、双子は計り知れないほどの不一致と不整合を抱えながら生きている。それは類似という惑わしであり、ひび割れた対称性による幻想のゲームだ」とし、「双子の特質は不安定な矛盾の上に成り立っていて、私たちが目にしているものは、必ずしも見えている通りではないという思考を駆り立てる」と語ります。実際、フィナーレを歩くモデルたちは、見た目が同じでも、ちょっとした仕草やアティチュード、まとうオーラによって、異なるアイデンティティーを垣間見せます。ファッションは外見を飾るものであるだけでなく、自分の内面が現れるものでもあるのです。

 そんな演出について、アレッサンドロは「今回のバックステージは大仕事で疲れた。ただ、うっとりするものであり、自分や自分のチームにとって、セラピー的な効果があった。自分のチームには双子である人はいないが、そうではなくとも”もう一人の自分”という存在を感じるようなエモーショナルな瞬間だった」とコメント。自身も久しぶりに泣いたといいます。それは観客も同じで、深いメッセージ性を感じ、心が揺さぶられる瞬間でした。

 そこに込められていたのは、「自分がもう一人の自分を見る」という視点と、「私たちは皆同じであるとともに、異なる存在である」というメッセージ。彼自身もセラピーを通じて、自分の中にある「アザーネス(Otherness、他者性)」、つまり別の自分の存在と出会い、向き合ったといいます。そして、もう一人の自分と共に生きることに慣れ、多様な自己が存在することを否応なく経験する「双子」を通して、遺伝的につながっているかどうかにかかわらず、同じ世界で生きる他者、そして自分の中にある「アザーネス」を認め、そのつながりの中で生きていることを認識する大切さを示しました。

 アレッサンドロは毎回、ファッションショーというプラットフォームを通して、服という次元を超えたメッセージや価値観を届けたり、問いを投げかけたりしています。今回もアイデンティティーとは何か、内なる自分との関係、そして、他者とのつながりについて、考えさせられるものでした。

VERSACE

 「私は、常に自信に満ちあふれ、スマートで少しディーバのような反抗的な女性を愛してきた」と話すドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)がイメージしたのは、ダーク&ゴシックな女神。フロントや腰に切り込みを入れたしなやかな細身のドレスやトップスをはじめ、スタッズやフリンジをあしらったレザーのバイカージャケットやパンツ、マイクロミニスカート、サテンのカーゴパンツ、構築的なテーラリング、トゲトゲのポップコーンニット、ランジェリー風のベビードールドレス、シフォンとレースの残布をファーのように仕上げたコート、ゼブラと花柄が混じり合うプリントアイテム、チャンキーなラバープラットフォームのシューズなどが登場します。

 服と身体の関係性を探求するように、ボディーラインになめらかに沿うデザインが多くのブランドに見られる今季ですが、それは「ヴェルサーチェ(VERSACE)」の得意とするところ。先シーズンもそうでしたが、時流との相性抜群です。ラストルックには、パリス・ヒルトン(Paris Hilton)がクリスタルきらめくピンクのミニドレス姿で登場!今シーズンの女性像を体現する堂々たるウオーキングに、会場が湧きました。

TOD’S

 今季は、街の中心にあるいつもの会場を離れ、郊外にある巨大な倉庫を改装した現代美術館でショーを開催。塔のように高くそびえ立つ作品が飾られた空間をモデルが歩きます。ワントーンを軸にしたスタイルのアウターは、ボタンで背面のベンツの深さをアレンジできるワックスコットンのような素材のステンカラーコートや、薄く柔らかなレザーのトレンチコート、ボクシーなテーラリングなど、メンズウエアのようにハンサムなデザインが中心。一方、体のラインに沿うストレッチレザーのシャツドレスやニット、パッド入りのビスチエなどで女性性を演出しています。

 カラーパレットは、パウダーピンクやダスティーなベージュ、大地を感じるようなブラウンのバリエーションといった絶妙なニュアンスカラーが印象的。その足元に合わせた、ポップなイエローやラベンダーカラーのバレエシューズのアクセントも絶妙です。やはり、ヴァルター・キアッポーニ(Walter Chiapponi)は色使いがうまい!全体的にアイテムはミニマルですが、手に取ってみると、そのレザーの柔らかさや細かなディテールにイタリアのクラフツマンシップを感じるコレクションです。

ETRO

 「エトロ(ETRO)」も、マルコ・デ・ヴィンチェンツォ(Marco De Vincenzo)新クリエイティブ・ディレクターのデビューショーを開きました。テーマは、「エトロピア - 自分らしさを求めて、現実と想像を行き来する旅」。これまでのフォークロアやボヘミアン、そして春夏シーズンに多かったリゾート的なイメージは薄まり、より都会的なシルエットと大胆な色柄使いで新たな一章を描きました。ショーでは、同ブランドのホームコレクションのアーカイブ生地を使用した”ラブトロッター”バッグも披露されました。日本では、10月10日まで申し込みを受け付け、抽選販売するそうです。詳しいコレクションリポートは後日公開します!

MISSONI

 フィリッポ・グラツィオーリ(Fillipo Grazioli)=クリエイティブ・ディレクターによる新生「ミッソーニ(MISSONI)」は、かなりセクシーで若々しくシャープなイメージ。学生でごった返すボッコーニ大学という会場を選んだ点からも、若い層へのアピールを強化するという印象を受けます。ただ、シルエットやスタイルがかなり限定的で、着る人を選びそうでもあると感じました。こちらも詳しいリポートは、別途公開予定です!

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