2023年にブランド設立20周年を迎える「アンリアレイジ(ANREALAGE)」は、9月初めの楽天ファッション・ウイーク東京でのショーに続き、パリで23年春夏コレクションを発表した。座席には、変わった形のイヤフォンが置かれ、それを着けるように促される。着用しても耳とイヤフォンの間に隙間ができ、着け方が正しいのかと考えていたら、ショーが始まった。
まず登場したのは、設立当時から取り組み続け、東京でのショーの終盤でも披露したパッチワークのアイテム。袖がパフやティアード状になったドレスやブラウスから、ジャケットやコート、パンツ、スカートまで、全てが細かく裁断されたパーツをつなぎ合わせることでできている。元になる素材は、デッドストックを中心に、デニムやウールギャバジン、ストライプのシャツ地、リバティプリント生地、レースなど多種多様。テイストの異なるパッチワークのパネルをさらにパッチワークしたようなアイテムもあり、1ルックにつき2000〜4000ものピースが使われているという。そして、真っ黒なパッチワークルックが登場すると、後半がスタート。前半のルックが裏返しになって再び登場した。裏返しになることで、縫い目があらわになり、異なる質感やムードをまとう。
今回のアプローチについて、森永邦彦デザイナーは「パッチワークの洋服は、画面上だとパターンや柄のように見えるが、小さなパーツが縫い合わされている。パッチワーク自体も今までは表面でずっと作ってきたが、今回は東京とパリで発表するということがあったので、服そのものをリバーシブルにし、裏面の無数の縫い目もデザインとして制作した」と説明。「今までパッチワークアイテムは初期メンバーの一人が制作していたが、このタイミングでパッチワークのファクトリーを作り、今は5人体制で取り組んでいる」という。
イヤフォンをつけながらも外界の音を遮断することなく、近くと遠くで音が行き来するような演出は、コレクションのテーマでもある「表と裏」や「内と外」をはじめ、対極にある世界をつなぐというブランドのアプローチに通じるもの。「昨年からNTTの研究所と協業して、新たな技術を取り入れているが、今季のコンセプトを視覚だけでなく聴覚でも表したかった」と、今回用いたPSZ(パーソナライズド・サウンド・ゾーン)技術について、説明する。そんな演出は、リアルなショーならではの面白さと言える。
ただし、それだけで終わらないのが「アンリアレイジ」だ。「リアルとデジタルの両方の世界を表現したい」という思いから、今季はショー後にリアル発表の映像を編集して、リアルでは不可能な表現を追求したデジタルショーの映像を公開した。「このショーがデジタルになった時、また異なる見え方になる。デジタルでは時間同士もつなぐことができるので、ランウエイの左側を歩いた前半のモデルと、右側を歩いた後半に出てきたモデルが同時に出てくるようになっている。パラレルワールドになったデジタルショーを楽しんでほしい」と森永デザイナー。もともとリアルショーでも趣向を凝らした独自の演出で見るものを驚かせてきた彼は、コロナ禍に培ったデジタル発表の経験を強みに変えた。