商業施設を作るときやリニューアルするとき、コンセプトが重要になる。これがおざなりになると、たくさんの競合の中で埋没してしまう。では一体コンセプトとは何を意味するのだろうか。(この記事はWWDジャパン2022年10月3日号からの抜粋です)
三菱地所時代、私は当初、外部コンサルや内装大手の会社にコンセプトメイクやデザインディレクション、MD(テナント誘致など)を外注していた。しかし程なくして、提案が似通っていることに気づいた。例えば、都心の商業施設ならコンセプト案は「30代女性のための高感度なライフスタイル提案」「上質な大人の時間」「モダンアーバンカルチャー」。そして、テナント候補としては絶対に出店してくれないでしょ!という売れ筋のブランド名が列挙される。つまりどこの提案も同質化していた。
商業施設の「コンセプト」はお客さまに訴えるのはもちろん、社内外の関係者の思いを一つに束ねる旗印でなければならない。そこで私はコンセプトの策定も自分たちでやることにした。当時手掛けたコンセプトは、今振り返れば自分でも恥ずかしい代物もあるが、そのプロジェクトならではの言葉を考えてきた。コンセプトを作るのは簡単ではない。独立後はクライアント企業の若い担当者にプロジェクトのコンセプトを考えてもらう。よく出てくるものは3つである。
①素敵なステレオタイプ
「つなぐ」「寄り添う」「上質なライフスタイル」「最高の体験」「スペシャルな感動」「サステナブルな暮らし」等々。ちょっと聞くとすてきだけれど、他のプロジェクトでも使えてしまう。
②何も表していない
有楽町の東京交通会館のリニューアルを事例にすると、プロジェクトの初期に「交通会館らしさ」というコンセプト案が浮上した。いかにもそれっぽく聞こえる。でも「らしさが何か?」というところが掘り下げられていない。「新しい」も同様である。何が新しい価値なのか。そこまで踏み込まなくては響かない。「新しい資本主義」と言われても「?」ですよね。
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