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「ロエベ」で北野武をスタイリング マルチな才能を発揮する歌代ニーナ Youth in focus Vol.8

 U30の若者たちにフォーカスした連載「ユース イン フォーカス(Youth in focus)」8回目は、北野武らが登場し話題となった「ロエベ(LOEWE)」のメンズキャンペーンでスタイリングを手掛け、音楽やファッション、アートなど垣根を越えてマルチな才能を発揮する歌代ニーナにフォーカスする。

 歌代は、「コモンズ アンド センス(commons&sense)」や「i-D Japan」で編集者としてキャリアをスタートさせた後に独立。2018年にクリエイティブ集団ペトリコール(PETRICHOR)を立ち上げ、世の中に対する鬱憤を表現したインディペンデントマガジン「ペトリコール」を出版した。同誌に自らつづった詩が音楽プロデューサーの目に留まり、同年ラッパーとしてもデビューを果たした。今年7月にはデビューEP「オペレッタ・ ヒステリア(OPERETTA HYSTERIA)」を発表。アートディレクションやミュージックビデオのクリエイティブ・ディレクションも自ら手掛け、独自の世界観を作り上げている。「私にしかできないことを提供する」ことを徹底し、さまざまなフィールドで存在感を増す歌代に話を聞いた。

WWD:「ロエベ」のビジュアル制作に加わった感想は?

歌代ニーナ(以下、歌代):もともと「ペリメトロン(PERIMETRON)」のプロデューサーで、私のミュージックビデオの映像も作ってくれている西岡将太郎さん経由でオファーをいただきました。私の中で「ロエベ」は、洋服で本当に遊んでいるブランド。いわゆるトラディショナルなパンクではないけど、色や素材がどこかおかしくて、着やすさ重視ではなさそうな感じがすごくパンクで好きなんです。北野さんはそんな「ロエベ」の服を着ても、それを超えるオーラを持っているので、両者の個性で遊びたかった。前提として、私は常に自分にしかできないモノを提供したい。実は私は北野さんの映画をちゃんと見たことがなくて、ギャグのコマネチも今回初めて知りました(笑)。それぐらいの距離感でフラットに見て、何ができるかにフォーカスしました。よくある悪そうな感じにはしたくなくて、「ブレイキング・バッド」のガスみたいな、エレガントだからこそ怖い役柄をイメージしました。過去にあまりないようなアングルの撮影を、全員で楽しめればと考えていました。

WWD:もともとファッションの道を目指していた?

歌代:小さいころはバレリーナになりたかった。その後は弁護士。昔から口げんかが好きなので。でも、1960年代にパリの「ジバンシィ(GIVENCHY)」で働いていた祖父から「何かクリエイティブなことに挑戦してほしい」と、亡くなる前に言われたことが心に残っていて、高校卒業後はコロンビア大学で美術史を専攻しました。「ラブ(LOVE)」マガジン元編集長のケイティ・グランド(Katie Grand)のような、スタイリングができて、記事も書けて、編集もできるファッション・ディレクターになりたかったんです。美術史は、ビジュアルイメージを文字にしたり、構図を理解したりといった言語と視覚の勉強だったので、編集に必要なスキルはそこで養いました。

WWD:アートやファッションのジャンルを超えて、2018年にラッパーとしてもデビューする。

歌代:ストレス発散のために自費で作った雑誌「ペトリコール」を見たプロデューサーが、「ラップしてみない?」と声をかけてくれたんです。今の時代、音楽であればイメージメーキングもできるし、言いたいことがあり、音感がある程度あれば練習で何とかなるというので。私は新しいものを拒めない性格だし、面白そうだなと感じたので、遊び半分で始めたのがきっかけです。最初はThirteen13という名前でデビューしました。数字は匿名感とか囚人感があっていいなと思って。本当は「11」が一番好きな数字なんですけど、そのとき「ストレンジャー・シングス」のイレブンがいて、かぶりたくないという超適当な感じですね(笑)。

デビューEPはヒステリアがテーマ

WWD:先日発表したデビューEP「OPERETTA HYSTERIA」では、なぜヒステリアをテーマに?

歌代:EPを1冊の書籍のように捉え、まず大枠テーマから考えました。デビューEPだから、アイデンティティーに近く、クラシカルな要素を入れたかった。テーマを探していた時期に、ちょうど私生活でヒステリアという感情と向き合う瞬間がありました。基本的に自分の制作物は、誰かに向けたメッセージというよりも、新しい世界を発見したいという思いがベースにあります。ヒステリアは私の今の課題かもしれないと選びました。それに単語がかわいいし、哲学的な解釈もできる。もともと女性特有の狂乱とされていたから、どうやらフェミニストたちの間で話題になっていたこともある。さまざまな解釈があり広げやすいテーマだと思いました。あとコロナ禍で、メンタルヘルスを保ってクオリティー・オブ・ライフを向上させましょうといった、メディアのプレッシャーが正直すごくうっとうしかったんです。絶対みんな不安だったり、いらいらしていたりするはずなのに、そういう言葉で押さえ込もうとしているように感じました。ではなくて、きっと今みんな誰か刺したいみたいな感情抱えているでしょ、というある意味時事性も意識しました。

WWD:歌詞は生死やセックスなど、人が直視する耐性がないものをあえて直球で投げかけている印象だ。

歌代:いや、本当に興味があるのがお金とセックスと服なだけです。ティーンエージャーのような欲求ですよね。お金で一番買えるのは時間だと思っていて、いろいろなことをするための時間が欲しい、いろいろなもので気持ちよくなりたい、美しくなりたい。以上、って感じです。

WWD:EPに合わせて刊行した「ペトリコール」には、写真家の森山大道さんや岡部桃さんらも参加している。特に、岡部さんの流産した胎児の写真が衝撃的だった。

歌代:桃さんは、以前からヒステリックな写真を撮る方だなと思っていて、オファーしに行くと、体外受精に挑戦している話を伺いました。1人は生まれたけど、2人目が最近流産してしまったと、本人の口から説明してくれました。流れた子どもをタッパーに入れて保存し、アマゾンで買った顕微鏡で撮影していたと聞いて、アーティストとして、女として、母として、一種のヒステリアを感じたんです。これは絶対参加してほしいとお願いしたら、桃さんも「載せられるんですか?」という反応でした。

WWD:その写真を採用するセンスにも逸脱したものを感じる。ニーナさんが心を動かされるものの共通点は?

歌代:強さです。「かわいいは正義」とか、「抜け感」とかは嫌いです。「ださかっこいい」とか意味が分からない。

WWD:ニーナさんのその独特な強さを持つ世界観の着想源はどこから?

歌代:2〜16歳まで没頭していたバレエが根底にあり、あとはいろいろなものの融合です。サイコロジカルホラー映画も好きですし、スポーツも好き。ケンドリック・ラマー (Kendrick Lamar)のミュージックビデオのような、男性性の強い映像作品も好きです。乗馬も趣味で、力強くて単純ですごく真っすぐなものにも惹かれます。マリリン・マンソン(Marilyn Manson)には顔が似ているとよく言われるので愛着は沸いていますが、トップ5に入るほどではないですね(笑)。

WWD:たくさんの才能があるが、自分の一番の強みは?

歌代:努力できること。向上心を一番大事にしています。振り返れば、家族がみんな共通して向上心が高かった。母は、超実力主義で現実主義。「敵がたくさんいなかったら、つまり普通。あんたは普通でいいの?」という感じで、とにかく一番と思えるぐらい努力しなさいと常に言われていました。

WWD:次のゴールは?

歌代:まずは次のEPです。次作でもミュージックビデオと冊子、マーチャンダイズも含めて一つの大きなプロジェクトにしていきます。

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