「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」は、2023年春夏コレクションをロンドンで現地時間10月13日に発表した。突き刺すようなネオンの光、骨の髄まで響く爆音のテクノミュージック、押し合いながら人混みの中で踊るゲストたち――ショー会場となったクラブ“プリントワークス(Printworks)”に定刻通りに到着すると、すでにアフターパーティーのような熱気に包まれていた。
同ブランドは、ロンドン・ファション・ウイーク(London Fashion Week)の公式スケジュールで9月中旬にショー開催を予定していたが、エリザベス女王の逝去を理由に初となるロンドンでのショーを延期した。会場に選んだ“プリントワークス”は、旧新聞印刷工場をナイトクラブに変えた場所で、コンクリートむき出しのインダストリアルな雰囲気だ。4000人収容可能なダンスフロアの半分が、バーカウンターと総スタンディングのゲストスペースとなり、一般公募者も含め約1000人がショー開始まで音楽に身を委ねた。空気が薄い密集状態のゲストスペースで50分間待機していると、バーカウンターのアルコールやテーブルクロスが片付けられ、キャットウオークへと変わっていく。左右両側から人の圧を感じるカオスな状態で、照明と音楽が切り替わってショーが開幕した。
よみがえるダンスフロア
ゲストとキャットウオークの距離は近く、手を伸ばせばモデルの足をつかめそうなほどだった。男女のルックに共通して登場した鮮やかなネオンカラーのレギンス、ドット柄のボディースーツ、肌が透けるフィッシュネットタンクトップから、1990年代レイブカルチャーの断片がよみがえる。ボトムスのサイドに切り込みを入れたマイクロミニのスーツスカートの下にはショーツを忍ばせ、ほかのピース同様に男女で共有してジェンダーニュートラルを推し進める。
コットン地のタンクトップやジャージーのロンパースにペイントした走り書きのデザインは、ベルギー人現代美術家フィリップ・ヴァンデンバーグ(Philippe Vanderberg)の手描き作品だ。抑圧や原理主義、一次元的思考を風刺的に表現した“Let’s Drink the Sea and Dance”や、インビテーションにも用いた“Station”の文字に加え、ダスターコートとライダースをドッギングしたオーバーサイズのアウターには80年代パンクのムードを詰め込み、「ラフ・シモンズ」らしい若者の反骨精神が感じられた。
ミニマルさににじむ激情
昨今の「プラダ(PRADA)」を彷彿とさせるシルエットも際立った。ニットのアンサンブルやジャストフィットのテーラードスーツ、ワークウエアに着想したプラットフォームのブーツなどだ。ラフは、ショー前に公開された英カルチャー誌「ESマガジン(ES Magazine)」で「これまでの中で最も素朴でミニマルなコレクション」と答えている。装飾は最小限にし、ウエラブルなピースで構成したコレクションには、彼のシグネチャーである特大サイズのニットウエアも、トレンドのY2Kも見当たらない。社会の閉塞状態が加速した時代を象徴する80〜90年代レイブカルチャーを反映させ、現代を生きる若者の自由を求める声をくみ取った。
フィナーレに登場したラフがランウエイから飛び降り、友人らと熱い抱擁を交わしている間に、キャットウオークは再びバーカウンターへと戻り、DJクララ3000(Clara 3000)が登場してそのままアフターパーティーへと移行していった。熱気の立ち込める暗く霞んだ会場で、享楽を解き放つように若い男女が踊り続けた。実際、イギリスやフランスを中心とするヨーロッパでは、立入禁止区域で開催するレイブが密かなブームとなっている。「ラフ・シモンズ」は若者の声をファッションを通して代弁するオピニオンリーダーであり、つかの間のユートピアを提供する存在として、ロンドンでの株をさらに上げただろう。