アダストリアは10月3日、ECサイト「ドットエスティ」のオリジナルアバター枡花蒼(ますはなあお)を発売した。VRソーシャルプラットフォーム、VRChatに対応し、「レイジブルー(RAGEBLUE)」の商品を着用。1体5000円。クリエイターによる創作の総合マーケットBOOTHで販売し、ウエアやアクセサリーの単品売りもそろえる。この先に一体どんな計画があるのか。島田淳史広告宣伝部メタバースプロジェクトマネージャー(以下、島田)に聞いた。
WWD:幅広い層に向けてアパレル等を展開するアダストリアが、非常にコアなユーザーが多いVRChat対応美少女アバターを扱ったのは意外だった。そもそもなぜメタバース事業に参入するのか。
島田:3月にアダストリアに入社し、翌月、上司に「メタバースに興味ない?」と聞かれて、「あります!」と答えたところからプロジェクトが始まった。経営陣の間では参入の話をしていたようだ。実は私自身、メタバースについてほぼ何も知らなかったが、そこからリサーチし、いろいろな人に会い、知見を増やした。飲み会もカラオケも演劇も麻雀もすでにメタバースで日常的に行われている。まだ一般的には“非日常”と捉えられているが、そこにはすでに“日常”があり、国籍も性別も超えて個人が自由に表現できる世界が広がっている。SNSやユーチューブも最初の頃は同じで、一般の人がやるものと認識されていなかった。それと同じことがこの先メタバースでも起こるだろうと。顧客接点と新たな認知、そして収益も得られると考えた。
WWD:メタバースにどのような商機を感じる?
島田:非常に可能性を感じている。性別や年齢、国籍、見た目に関係なく個人が自由に表現できるのが、メタバースの素晴らしいところ。VRゴーグルがスマートグラスになったり、XR技術の発展や、5Gや6Gといった環境が整うことが必要だが、それは遅かれ早かれ実現するだろう。新しいコミュニケーションメディアであり、人々がそこで時間を過ごすのが当たり前になる日は来ると思う。
アダストリアはマルチブランド、マルチカテゴリーで、ターゲットが広く、衣食住のさまざまなサービスが提供できる強みがある。それらをメタバースでも展開できるし、店舗も3D化し、リアルとメタバースの両方向の行き来を可能にすることで、よりブランドの世界観を体験してもらえるようになる。メタバースなら、地方に住む人気のインフルエンサースタッフも全国のお客さまとバーチャルにコミュニケーションを取ることができる。店舗やスタッフだけでなく、商品も3D化したいし、社内にデザイナーやパタンナーを抱えているので、商品を作る過程でのデジタルデータの活用もしたい。互換性のハードルの高さは承知しているが、そういうことが簡単にできる世界もそう遠くないだろう。1400万ユーザーを抱える「ドットエスティ」を活用できるのもアダトリアの強みだ。
WWD:なるほど。アバター販売を始めた理由は?
島田:販売収益を狙いつつ、まずは3DCG制作とマーケティングのノウハウを得たいと思った。メタバースは個人が活躍できる場だし、われわれとしても個人の人が活躍できる場を作っていきたい。メタバースのことはメタバースの中で活躍している人と一緒に仕事をするのが一番だと考えて、人気アバター作家のひゅうがなつさんにお願いし、5人のクリエイターにもサポート参加してもらった。「好きなものを作ってほしい」と一任し、チームによる協働で、より良いものができたと思う。プラットフォームのセオリーに合わせて、9月に「試着会」も開催し、その効果も検証できた。発売から順調に売り上げているが、それ以上に自分たちが直接関わることで3DCG制作やマーケティングのノウハウを身につけられたというメリットが大きい。
WWD:ファンの多いひゅうがなつディレクションのアバターということもあり、試着会も大いに盛り上がっていた。発売後もアバター向けのメイク等の装飾がBOOTHに出品されるなど、VRChatユーザーの間での浸透が見られる。しかし、VRChatを楽しむには、VRゴーグルやハイスペックPCが必要で、アカウントの取得なども煩雑だ。さまざまなプラットフォームがある中で、VRChatを選んだ理由は?
島田:今回いろんなプラットフォームやクリエイターと話をしたが、ひゅうがなつさんに出会えたことが非常に大きかった。クリエイターとしても優秀だし、ディレクションやマネジメントもできる人で、出来あがった作品も素晴らしかったが、ネガティブなリアクションがなかったことも、彼女のファンを大事にするコミュニケーションに負うところが大きかったと思う。また、メタバースはPCやスマホでも楽しめるが、個人的にはVRゴーグルを推している。私自身、今回のためにWindowsのPCやVRゴーグルを入手し、初めてVRChatのアカウントを取り、ハードルの高さを体験したが、やはり体験価値が全然違う。しかし、VRChat以外のプラットフォームにも出ていく計画だし、いろんなクリエイターともコラボレーションしていきたい。
WWD:この先の計画は?
島田:11月に第2弾のアバターも公開予定だ。来年はファッションショーなどのイベントをして、体験の提供にトライしたい。3Dモデルの内製化もできるようにして、3年後にはわれわれが培ったノウハウを他社にも提供していけるようになりたい。
魅力的なコンテンツがないと人は集まってこない。今、イベントはメタバースで行われ始めているが、日常的なアクセスにはつながらない。メタバースファッションを展開することはもちろんだが、音楽やスポーツなど異業種とも協業し、それらに興味がある人たちが日常的に来たいと思うコンテンツを提供することが重要だ。将来的にはそういった企業同士でのアライアンスで盛り上げるメタバースを、最適なプラットフォームを使って実現したい。
目下一番の問題は、3Dモデルを制作するクリエイターが少ないこと。ここについても手を打ち始めている。
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