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中国の美容消費者に刺さる成分マーケティング なぜこの成分が人気に?【連載アジアのビューティ市場 vol.1】

 中国の美容業界が拡大するにつれ、消費者の美容リテラシーが高まっている。2018年頃から登場し、その後も増え続けている消費者層である“成分党”はその代表的存在で、彼らはスキンケアやヘアケア商品を選ぶ際に成分を基準にして選ぶ。SNSでも化粧品の成分や処方について解説するKOL(Key Opinion Leader)が人気を集めている。

 ここ数年で成分党はさらに進化し、成分に関する知識をつけるとともに、単一の成分重視からより科学的理論のある成分処方を重視するようになった。例えば、特定の成分がどの程度配合されているか、組み合わせた成分は何か、メーカーはどのような研究を行っているか、といったところまでが注目されている。

 各ブランドは新客獲得のマーケティングだけでなく、リピーターを生む商品作りのために有名な研究機関との共同研究チームを組んだり、開発センターを設けたりと苦心している。このように発展した中国の美容市場で、現在どのような成分が注目されているのか。その背景やメーカー側のマーケティング手法を見ていく。

トレンド筆頭は安心安全、中国にゆかりのある植物由来成分

 近頃のトレンドの代表格が植物由来成分だ。コロナ禍以降、植物由来のオイルや中国原産の植物成分、漢方に用いられる生薬由来の成分の人気が高まっている。中国の消費者はコロナを経て心身の健康に気を配るようになり、肌に塗るスキンケア商品に安心安全を求める人が増えた。そこで、安心安全な成分として植物原料が注目された。

 特に漢方由来の成分は健康、安心安全のイメージで人気が高まった。中国のスキンケアブランド「稀物集(SHELOG)」は“中国高原のピュアで希少な植物を国民に届ける”というコンセプトの下、雲南省シャングリラ原産のマツタケ抽出物をキー成分とするスキンケアを展開する。基因工程薬物国家工程研究センターと共同研究を行うことで開発力をアピールするとともに、マツタケの希少性、中国由来の原料という国際ブランドとの差別化を押し出したプロモーションを展開し、中国消費者の心をつかんでいる。

 漢方由来成分を用いる中国ブランドは多く、甘草根抽出物を使用した「谷雨」の美白ケアラインや、山茶花(椿)がキー成分の「溪木源(SIMPCARE)」の洗顔料、「PMPM」の白トリュフスキンケアシリーズなどが人気商品となっている。

 韓国ブランドの「后(THE HISTORY OF WHOO)」は、人参や鹿茸、冬虫夏草などの漢方原料を使用したスキンケアを展開し、今年の618セールで抖音(中国TikTok)の販売ブランドランキング美容部門2位に入るなど中国でも人気が高い。「オリジンズ(ORIGINS)」のスター製品“アンドルー・ワイル フォー オリジンズ アドバンス トリートメント ローション”は、中国では“霊芝水”の通称で呼ばれて親しまれ、海外製品も漢方をきっかけに中国で浸透している。

“顔面偏差値経済”が発展し、医療発想のスキンケアが話題

 近年、中国では容姿の良し悪しを意味する「顔面偏差値」が就職や収入に影響するという考え方が広まり、化粧品やフィットネスなどの「顔面偏差値経済」が発展している。特に美容医療は市場が拡大し、美容医療アプリ「更美」のレポート「2021年美容医療業界白書」によると、昨年の中国の美容医療市場は2274億元(約4兆5480億円)を突破した。

 美容医療のトレンドはホームスキンケアにも影響を与えており、特にケミカルピーリング(刷酸)はSNSで話題だ。ケミカルピーリングは酸性の薬剤を顔に塗布し、肌表面の古い角質を取り除いてニキビやニキビ跡などの肌荒れ、顔のくすみを改善するもの。この美容医療の施術から発想した、サリチル酸やフルーツ酸などを用いたスキンケア商品が流行した。

 各社は、肌の刺激を軽減しつつ酸ケアを行えるように成分配合を調整し、“敏感肌でも使える”など安心安全をうたっている。例えば「博楽達(BRODA)」のサリチル酸フェイスパックに用いられる超分子サリチル酸は、β-シクロデキストリンとキトサンでコーティングし、さらに鎮静成分を配合している。フルーツ酸の中では杏仁酸(マンデル酸)の人気が突出しており、「ドクター・ウー(DR.WU)」の“マンデリック リニューアル 18%セラム”が成分人気をけん引している。

 ただし、美容医療で用いる薬剤と化粧品では使用できる成分濃度が異なり、薬剤のような濃度の酸は肌に強い刺激をもたらすため医療行為でしか使用できない。そのため、中国国家薬品監督管理局(NMPA)は誤解を招く発信を行わないよう注意喚起を行っている。

 こうした成分人気を背景に、原料メーカーが手掛けるスキンケア製品も注目を集めている。世界最大の中国のヒアルロン酸メーカーである華熙生物(BLOOMAGE BIOTECHNOLOGY)は、微生物発酵技術と品質管理に長けたバイオテック企業で、医療用や化粧品用、食品用など幅広くヒアルロン酸を供給している。自社ブランドも展開し、「米蓓尔(MEDREPAIR)」「肌活(BIO-MESO)」「夸迪」など複数ブランドを抱える。中でも「潤百顔(BIOHYALUX)」は、ヒアルロン酸に焦点を当てた同社の中核ブランドで、同社の技術や品質への信頼から売り上げを伸ばしている。代表シリーズ“次抛エッセンス”は、累計3億個以上を販売している。

若年層が取り組む“アーリーエイジングケア” 人気の抗酸化成分は?

 中国の調査機関CBNデータ(CBNData)が発行した「2021年女性アンチエイジング投資インサイトレポート」によると、女性消費者がスキンケアに求めることの第1位はエイジングケアだった。特に中国では若い世代がエイジングケアに注目しており、20代から老化対策としての“アーリーエイジングケア”をスタートする人が多い。

 アーリーエイジングケアとしてのスキンケア選びでは、「抗酸化」「抗糖化」がキーワードとなっている。SNSでは抗酸化作用のある商品や、抗糖化が肌にどのような影響を与えるかといった情報がシェアされており、成分についての言及も多い。

 抗酸化成分では、フェルラ酸がSNSで話題だ。古くから用いられてきた成分だが、大手ブランドの製品で次々に採用され、再評価されている。「キールズ(KIEHL'S SINCE 1851)」の“キールズ ブリュー フェイシャル エッセンス FA”が“フェルラ酸化粧水”と呼ばれて親しまれるほか、「ランコム(LANCOME)」の話題の新作“レネルジー HCF トリプルセラム”にも配合され、注目を浴びた。

 抗糖化効果を持つ成分では、カルノシンが人気だ。中国ブランド「珀莱雅(PROYA)」のスター製品で、抗酸化と抗糖化に特化した美容液“双抗エッセンス2.0”は、カルノシンと構造が類似し安定性の高いデカルボキシカルノシンHCIを配合した。

 これらの商品は、消費者の間で単一成分のみでなく、ともに配合される成分の組み合わせも取り上げられておりアピール材料となっている。「珀莱雅」は、ドイツの大手化学会社BASFの抗糖化に優れた独自成分Collrepair(R)DGに加え、エルゴチオネイン、EUK-134、アスタキサンチンといった抗酸化の有名成分を組み合わせ、これ1つで抗酸・抗糖ケアが完了するという成分マーケティングを行っている。

 単一の魅力しか持たない商品の成功は難しい時代になった。トレンドに沿った成分や技術、パッケーの美しさや独自の世界観の構築など、消費者に強く語りかける深いストーリーがなければモノと情報であふれる中国市場では目立てなくなってきている。

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