南カリフォルニアに拠点を置くライフスタイルブランド「アグ(UGG)」は、ブランドの代表素材であるシープスキンの調達先を、環境再生型農業を実践する農場へ切り替えていく。環境再生型農業の普及に取り組む世界的非営利団体セイボリー研究所(Savory Institute)とのパートナーシップの下、羊牧場を再生可能な農地へ修復し、生態系の保護に努めながら環境劣化の歯車を逆転させることを目指す。10月に発売した新作ブーツ“クラシック ミニ リジェネレート”は環境に負荷を与えない選択肢から、よりポジティブなインパクトを生み出す選択肢へと発展させる「アグ」の“ネクストジャーニー”を象徴するアイテムだ。
定番のクラッシックブーツが
進化した新作
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“クラシック ミニ リジェネレート”のアッパーには、環境再生型農業を実践するニュージーランドのアトキンス農場から調達したシープスキンを使用した。アウトソールは、成長の早いサトウキビから作られた“シュガーソール”を用いた。
気候変動対策の一環としても注目を集める環境再生型農業とは、土壌の質の改善を目的とした農法で、生物多様性の保全や地域経済の活性化なども考慮した包括的な取り組みを指す。畑を耕さない不耕起栽培で、化学肥料や殺虫剤の使用を減らしながら土の中の有機物を生かして水と養分の適切な循環を促し、炭素の貯留量を増大させる。
セイボリー研究所の第三者機関「ランド・トゥ・マーケット(Land to Market)」は、対象農場のミネラルの含有量や水分の循環などさまざまな角度から土地の健康状態を定期的に監査し、科学的根拠のもと環境再生型であることを立証する。今回使用したシープスキンは「ランド・トゥ・マーケット」認証を取得している。
若き環境活動家をビジュアルに起用
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キャンペーンビジュアルには、モデルで環境アクティビストとして活動するクアナ・チェイシングホース(Quannah ChasingHorse)を起用した。撮影が行われたのは、セイボリー研究所の拠点の1つで米カリフォルニア州にあるホワイト・バッファロー・ランド・トラストだ。ここでは、環境再生型農業にまつわる研究や、農場ツアーを通じた啓蒙活動などが行われている。“クラシック ミニ リジェネレート”発売に際し10月には世界各国のメディア関係者を招いたメディアツアーが開かれ、チェイシングホースも来場した。
チェイシングホースは、「たくさんの自然に囲まれたこの場所は、私の故郷であるアラスカを思い出させてくれた。ブランドの意志を表現できるビジュアルになったと思う。『アグ』は昔から家族も大ファンだ。実際に『アグ』のチームは、私の話に真剣に耳を傾け議論してくれたのが印象的だった。『アグ』のような大きなブランドこそ、これまでのやり方を変えるのは難しいはず。それにもかかわらず、常にさまざまな意見に耳を傾けながら、より良く変わり続ける努力を惜しまない点がすばらしいと思う。ブランドの大事なステップに当たる今回のキャンペーンで、ブランド体験を伝える役目を担わせてくれてうれしい」と話した。
環境再生型農業に
コミットを決めた理由とは
「アグ」のシープスキンはこれまで、食肉産業のために飼育された羊の皮のみを使用し、加工工程においてはレザーワーキンググループ(LEATHER WORKING GROUP)の認証を得た工場から調達するなど、トレーサビリティーを徹底してきた。次のステップとして環境再生型農業へのコミットメントを決めた理由を、ニックス・エリクソン(Nicks Ericsson)=アグ・ブランド・パーパス・シニアディレクターに聞いた。
WWDJAPAN(以下、WWD):環境再生型農業への投資を決めた理由を教えてほしい。
ニックス・エリクソン(Nicks Ericsson)=アグ・ブランド・パーパス・シニアディレクター(以下、エリクソン):環境負荷が高い工程として輸送などを想像するかもしれないが、実際は企業活動による二酸化炭素の排出の大半は原材料の調達部分で発生している。だから、商品のライフサイクルの始まりとなる農場から変化を起こすことが大事と考えた。
WWD:環境再生型農業は、どの程度カーボンフットプリントの削減に貢献するのか?
エリクソン:カーボンフットプリントはもちろん大事なポイントで、現在多くの人が関心を寄せている。しかし、私たちがここまで情熱を持って取り組むのは、さらに大きな理由からだ。環境再生型農業は、土壌の健康を保ち生物多様性を保全するといった包括的な視点で環境を捉えている。つまり、エコシステム全体の健康状態の話であり、カーボンは健康状態を測る指標の中の1つでしかない。難しいのは、環境再生型農業に関してはまだ標準的な測定方法が存在しないことだ。だからこそ、明らかに測定が可能な環境配慮型素材の開発にも同時に力を入れている。今回の商品に用いたサトウキビ由来のソールもその一例だ。ほかにも、ウールの残反とテンセルが原料の“アグ プラッシュ”などもある。この秋からそれらを採用した商品の発表が続く予定だ。
WWD:シープスキンの品質に違いはあるのか?
エリクソン:品質基準は変えていない。今後の最大の課題は供給量だ。ほかのブランドや異業種とも連携を図って、供給量をどう拡大できるかを考えている。
WWD:シープスキンは食肉用として飼育された羊の副産物を使用している。どのようにトレーサビリティーを担保しているのか?
エリクソン:そこでセイボリー研究所の「ランド・トゥ・マーケット」認証が機能する。彼らは、農場の監査を実施しながら農場とブランドをつなぐ役割を持つ。今回は初めての取り組みだったので私たちも取引先であるアトキンス農場と直接やりとりし、農場から紹介を受けたベトナムの工場を経由して素材を調達した。今後は農場とエクスクルーシブな関係を維持するよりも、今まで以上にさまざまな農場とオープンな関係を築きたい。
WWD:環境再生型農業からの調達へはいつまでに切り替える計画か?シープスキンのほか、コットンなども含めて、調達先を切り替えるのか?
エリクソン:タイムラインについてはまだ未定だ。環境再生型農業への転換は、長い時間をかけて取り組むもの。今後は他社も調達先を切り替えていくだろうし、消費者からの需要によるところもある。ほかの素材に関しては、まさに今社内で議論を始めたところでシープスキンを皮切りに、レザー、コットンも順次検討する。
WWD:「アグ」が見据えるネクストジャーニーとは?
エリクソン:地球を修復することだ。商品のリサイクルやより長く使用してもらうためのサービス、素材のイノベーションといった部分にも投資しながら、地球に負荷を与えないためだけでなく、よりポジティブなインパクトを与えたい。