ファッション

ロンドン・スナップの歴史がここに 写真家・故斎藤久美が撮影した18年間の集大成を写真集として発売

 ロンドン在住のフォトグラファーで2020年に他界した斎藤久美の写真集シリーズ第1弾「HAVE I MET YOU BEFORE? LONDON STREET STYLE FROM FASHION WEEK 2001-2018」が11月23日に発売される。2001年から18年の間に撮影したエディター、モデル、バイヤー、ブロガー、インフルエンサーなど、ロンドン・ファッション・ウイークに集まるファッション・アイコンのスナップ写真が当時チームを組んで一緒に取材をしたジャーナリストたちのコメントと共に収録されている。発行はパースニップス・アーカイブ(英)で、編集はファッションジャーナリストの若月美奈が手掛けている。英語による出版で日本では洋書扱いになるが、前書きやコメントの日本語訳を挟み込む予定だ。184ページの構成で価格は2680円(税込)。THE SHE(theshetheshe.com)、ヴァルカナイズ・ロンドン(VULCANIZE LONDON)青山、銀座、名古屋他で販売する。

 タイトルの「HAVE I MET YOU BEFORE?(以前にもお会いしましたよね?) 」は、斎藤氏がロンドン・ファッション・ウイークのショー会場で出入りするおしゃれな人を撮影する際に幾度となく交わした言葉だ。コレクション会場を足速に移動する人たちにレンズを向けるとその人たちが以前撮影されたことに気づき、そのように話しかけてきたり、逆に撮影したものの、どこの誰だか思い出せない場合は、その言葉で切り出すと「Ah yes, I remember you!(もちろん知ってるわ)」と嬉しそうに微笑み、会話が弾んだりする。斎藤氏は生前、このタイトルの写真展の開催を望んでいたという。

 ロンドンを拠点にファッションからライフスタイル、ポートレートなど、さまざまな写真を撮影し数多くの日本の雑誌の仕事もしてきた斎藤は、20年12月に癌を患い逝去した。膨大な写真を整理する中で斎藤氏の夫が「久美はたくさんの写真を撮ったけれど、これが彼女の作品ですと他人に紹介できるものが何もない」と発した一言をきっかけに、彼女と一緒に仕事をしてきたジャーナリスト、グラフィックデザイナー、コーディネーター、PRが集まりクラウドファンディングで資金を調達し、全員ボランティアで写真集を制作することになった。カテゴリーごとに写真の整理と並行しながら本を出版することとなり、本書がその第1弾となるという。

 編集を担当した若月は、「クリス・ムーア(Chris Moore注:ショー撮影の第一人者)や自身のアーカイブ集を作った5年ほど前から、小説などと違って雑誌や新聞の記事や写真が一回の掲載で葬られてしまうのはもったい無いという気持ちがありました。後から見直してもとても面白いものも多く、服などの有形のものだけでなく、こうしたものもリサイクルされるべきだと感じていました。アーカイブって整理されていないとゴミなんです。そんなこんなで、1年以上かかった今回のプロジェクトは、とても有意義なことだったと自負しております」とコメントしている。

 本書には歴代のスナップ撮影のパートナーだったエディター、ジャーナリストたちのコメントが掲載されており、一部を抜粋して紹介する。

 「SNSは一つもなく、セルフィーなんてものももちろん存在しなかったあの頃、コレクション会場はスナップに一番手取り早い場所だった。なんたってロンドン中のエディターやバイヤーたちが集まっていたのだから。そしてスナップは着こなし上手を雑誌で紹介するだけではなく、彼女らと私たちをさらにつなげる役割も担っていた。例えば当時ワードローブ取材と称していた、おしゃれ達人たちの家で服や小物をみせてもらう記事。スナップで顔見知りになったアシスタントエディターを、今度はそっちの取材で彼女が恋人と暮らすフラットに訪ね、その彼女が数年後に結婚して庭のある家に引っ越し、子どもが生まれ、肩書きもファッションディレクターになっていく過程を私たちは見守っていた。久美さんの写真はファッションだけではなく、彼女たちの人生の一片も記録していたのだと思う」。(坂本みゆき)

 「SNSが盛んになり、“誰でもカメラマン”の時代が来てコレクションスナップは様変わりした。目立つが勝ちの派手な装いに皆が群がりシャッターを切る。ハイブランドもビンテージも、セレブもモデルもインスタグラマーも、ごちゃごちゃと混ざった様子は、面白いように見えてつまらなく、個性的なようで全てが同じ。端正なジャケットの裾からちらりとのぞくTシャツの色や、パンプスと靴下の合わせ方、ネックレスとリップの絶妙な相性。そういう装いの細部に目を光らせて、『あの人が撮りたい』と選び抜く編集力は、時代の流れと共に不要となりつつある。少し寂しい。今、久美さんならどんな人をどんな風にスナップするだろう」。(渡部かおり)

 本書はトレンド情報にとどまらず、18年間におよぶ、ロンドン・ファッション・ウイークのショーに集まる人々の人柄や会場の熱気を感じる取ることができる1冊だ。

斎藤久美 (1962 ‒ 2020)
フォトグラファー。山形県生まれ。桑沢デザイン研究所で写真を学び、富永民生氏に従事。スタジオ・エビス勤務 などを経て1994年に渡英。撮影分野はファッション、ライフスタイル、ポートレートなど多岐に渡る。日本の雑誌 やファッションブランド、百貨店など、さまざまな媒体の仕事を行う。

■HAVE I MET YOU BEFORE?
LONDON STREET STYLE FROM FASHION WEEK 2001-2018
写真:斎藤久美
デザイン:瀧澤 真姫
編集:若月美奈
言語:英語 発行所:パースニップス・アーカイブ(英国)
定価:15.95 ポンド/ 2680円(税込)
ぺージ数:184頁
判型:A5(148x210mm)
販売 :THE SHE(theshetheshe.com)、ヴァルカナイズ・ロンドン青山、銀座、名古屋他*日本国内では洋書扱い

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

27メディアが登場、これが私たち自慢の“ナンバーワン”【WWDJAPAN BEAUTY付録:化粧品専門店サバイバル最前線】

11月25日発売号は、毎年恒例のメディア特集です。今年のテーマは "ナンバーワン"。出版社や新興メディアは昨今、ウェブサイトやSNSでスピーディーな情報発信をしたり、フェスやアワードなどのイベントを実施したり、自社クリエイティブやIPを用いてソリューション事業を行ったりなど、事業を多角化しています。そのような状況だからこそ、「この分野ならナンバーワン!」と言えるような核を持てているかが重要です。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。