ファッション
連載 販売員特集2022

京都限定「ロデオ一筋16年」、SNSで全国にファン拡大 「ロデオクラウンズ ワイドボウル」谷口麻実

 「なあ、販売員やってみいひん?」――16年前に「ロデオクラウンズ」の河原町オーパ店長から掛けられた一言が、近所のアクセサリー店でパート勤務をしながら2人の小さな子どもを育てていた谷口麻実さんの人生を大きく変えた。「ほんまに『ロデオ』が大好きで、パートもロデオの服を買うためにやっていたようなもんなんです。だから声をかけてもらったとき、大げさではなく人生を賭けて販売員の仕事をやろうと決めたんです。アパレルは未経験だったし、小さな子どもが二人いたので働ける時間は16時までで、土日休みのパート勤務。当時は夫も通勤してまで働くことに反対していました。でも、日本で一番『ロデオ』を愛している私なら一番の販売員になれる、なるんだって考えて無我夢中で働き始めました」と振り返る。(この記事は「WWDJAPAN」2022年11月7日号販売員特集からの抜粋に加筆をし、特別に無料公開しています)

 愛称“ASAMI”こと、現在「ロデオクラウンズ ワイドボウル」イオンモール京都桂川店の販売員である谷口麻実さんは、ブランドを代表するカリスマ販売員の一人だ。地方店の一販売員という立場だが、ときには商品企画も手掛け、その限定アイテムは即完することも。2022年8月に開催された1300ブランドから8万人の販売員が参加した「スタッフオブザイヤー 2022」では準グランプリを獲得した。今回で2回目の開催となる「スタッフオブザイヤー」には初出場だったが、そもそもロープレ大会や販売員コンテストに出場すること自体が初めてだった。グランプリ獲得こそならなかったものの、ファン投票では総得票数18万票を獲得。次点を3倍近く引き離し、ぶっちぎりの1位だった。「この経験はホンマに衝撃的やった。何がって、自分をこんなにも多くの人が応援してくれはったってことです。これは本当に嬉しかったです」と語る。

 ロデオ一筋で16年目になる谷口さんだが、ずっと変わらないのは「誰より一番ロデオを愛している」からこその情熱的な接客だ。谷口さんは「ロデオ」の販売員になると、商品のことを深く知るため、それまで知らなかった素材のことを調べたり、商品を購入して自分で何度も繰り返し洗濯して物性を調べたりもした。「お客さまと話していて、商品について知らないことをなくしたい。接客していてお客さまの求めているものと、これから入荷予定の商品と合致したら『(購入は)今じゃないです』と正直にお伝えします。洗濯に関しては、いまのイオンモール桂川に移ってからは主婦の方も多くいらっしゃって問い合わせられることが増えた。商品のことを聞かれて『わかりません』とは絶対に言いたくない」。情熱的な接客を支えるのは、「単なるお客さまと販売員という以上の関係を築きたい」という思いだ。「地元と職場が近いので、家族連れで出かけていても、お客さまから声をかけられることも多いんです。そしたらもちろん『いえーい』ってピースマークで返事します(笑)」。

 こうした接客は、「インスタグラム」などのデジタルツールが加わったことでさらにブーストした。地方店のパート販売員に過ぎなかった谷口さんだが、その際立った存在は早くから本部でもプレスなどの一部のスタッフでも知られていた。そのことが全社レベルで共有されるきっかけが、イオンモール京都桂川の周年記念フェアだった。谷口さんが企画を担当した限定アイテムが瞬時に売り切れたのだ。その売れ行きを受けて、エリア限定やフェア限定など対象やエリアを広げていくたびに即完が相次いだ。同ブランドの栗原里奈子プレスはこう指摘する。「過去の商品やブランドらしさに詳しくて、今ならどういったアイテムに合わせやすいか、さらには洗濯の仕方・しやすさまで(笑)、とにかく商品のことを知り尽くしている。しかもすべてが常にお客さま目線なんです。インスタライブで視聴者とやりとりしながら1時間でも2時間でもブランドのこと、商品のことを話し続けられる。通販番組並みの熱気がある。そりゃあ売れますよ(笑)」と指摘する。

 インスタグラムのアカウント(@asami_578)には、子どもたちがしばしば登場する。「さっきも言ったようにお客さまとは、『販売員とお客さま』以上の関係を築きたいと思っています。だから自分のことも話しますし、お客さまからは人生相談のようなことを話されることもあります。インスタグラムを使うようになってお客さまからDMをもらうこともありますが、基本的に会社のルールとしてDMの返信はNG。だからストリーズで紹介したりしています」。インスタグラムを使うようになって、ファンは全国規模に広がったが、いわゆる“インスタ疲れ”のようなことはないのか。「え、全然ないです(笑)。この前も家族で大阪のUSJに行って乗り物に並んでいたら、乗り物に乗り終わったらしいお客さまから、すっごい向こうの方で『おーい』って呼ばれちゃって。周囲の人たちが全員見てたけど、私もちょっと列から離れてポーズを取ったら、それを写真に撮ってインスタグラムに上げてくれて。普通に私が小さいし、なんか面白い構図だし。爆笑です」。

 21年4月からは、通常の販売業務に加え、企画プロデュースも加わることになり、パート勤務形態から契約社員に切り替わった。谷口さんは「ふと私はまだ店頭に立っていていいのかな、と実は思うこともありました。『ロデオ』のお客さまは若い人も多いし、私の存在がブランドの価値と合ってないんじゃないかって。でも、店頭でもインスタでもお客さまと話して喜んでもらえるたびに、本当に元気をもらっているんですよ」。谷口さんの「ロデオ愛」に溢れた人生は、まだまだ続きそうだ。

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