ファッション

「試着室から出てきたお客さまのキラキラの笑顔が最大のやりがい」ソブダブルスタンダードクロージング 藤井麻依

 地方専門店の取材で「この店で人気のあるブランドは?」と尋ねると、必ずと言っていいほど上がってくるのが「ダブルスタンダードクロージング(DOUBLE STANDARD CLOTHING)」だ。デザイナー兼代表取締役の滝野雅久氏が1999年にスタートしたブランドである。黒とゴールドを基調とした空間に赤いマネキンが印象的な、モダンとクラシック、カジュアルとフェミニンなど対になる要素がリミックスされたアイテムを展開している。ファン層も幅広く20代から50、60代の方からも支持されている。そんな「ダブルスタンダードクロージング』の魅力にハマり、現在は六本木店のショップマネージャーを務めている藤井麻依さんにその魅力を語ってもらった。

藤井麻依/ソブ ダブルスタンダードクロージング六本木店ショップマネージャー

PROFILE:(ふじい・まい)1981年生まれ、鹿児島県出身。理美容専門学校を卒業後、2001年に福岡の販売代行会社に入り、販売員としてのキャリアをスタート。幅広いジャンルの店頭に立つ中で『ダブルスタンダードクロ―ジング』期間限定店舗のスタッフとして働く。その後、飲食店勤務を経て、福岡のベンチャー企業が運営するセレクトショップに勤務。再び「ダブルスタンダードクロ―ジング」の販売に携わる。2012年に「ダブルスタンダードクロージング」を運営するフィルムに入社し、現在に至る

―販売員の仕事を始めたきっかけは?

藤井麻依さん(以下、藤井):友人に勧められたからです。美容専門学校に通っていたのですが、あの頃は“カリスマ美容師ブーム”で卒業しても就職できないくらい生徒が溢れていました。結局、卒業しても就職できず半年ほどフリーターをしていたところ、友人の紹介で販売代行会社で働くことになりました。この会社は服だけでなく、いろいろな物を売っていて、いい経験になりました。

―いろんなものとは?

藤井:主に国内の個性派ブランドを販売していましたが、他にもミセス、インポート、時計、水着なども扱っていましたし、水も売っていたこともありました。最初の1年間はミセスブランドにいましたが、その後は「今日はあの店に行って」「明日からはこのブランドを手伝ってきて」という感じで働いていました。

―服だけでなく、水まで売るとは(笑)。ですが、それだけ幅広いジャンルやテイストで販売をしていたら、接客スキルが磨かれそうですね。

藤井:そうかもしれませんね(笑)。

―その中で一番勉強になったことはなんでしょう。

藤井:はじめて働いたミセスブランドです。客層は60、70、80代のマダムな雰囲気の方がいらっしゃるような店でした。それまで販売職をしたことがなかったので、お客さまからいろんなことを教えていただきました。特に店長がカリスマ的な接客力の持ち主で、店長の接客をよく観察し、店長が休憩中に実践しようとすると、そういう時に限って1時間の休憩を45分で切り上げてくるような方なんです。折角の接客チャンスタイムが短くて(笑)。ほかの先輩方もとても接客が上手でしたので真似をして自分に取り込みつつ、自分の強みは何かを模索しながら接客していました。当時、強みになったのは専門学校で学んだ色彩のこと。例えば、接客で「お客様の髪色や肌色でしたら、こんな色が似合いますよ」とお伝えして喜んでもらえることが多々あり、勉強してきたことが強みとして生かせたのは嬉しかったですね。逆に失敗から学ぶことも多くて、例えば丈詰めする際に骨格に合わせたベストな丈をお伝えしようとしても、上手く伝えることができなくて、もっと勉強しなくては……とよく思っていました。

出会ってから10年を経て、念願のブランドの販売員に

―「ダブルスタンダードクロージング』にはどういう経緯で働き始めたのですか?

藤井:その後、マダムからヤングOL向けのブランドの担当になり、その頃から代行会社の営業スタッフが「今度、このブランドを扱うんだ」といって毎日のように「ダブルスタンダードクロージング」のカタログを見せられていました。福岡三越で3か月の期間限定店を出店することになり、会社から「一人で東京の本社に挨拶して来い」とまるで修行のようなことを言いつけられて、デザイナー兼代表取締役だった滝野さんに会いに行きました。そのときは、アパレル経験も少ない小娘にも丁寧に接してくださり、「今シーズン一押しのスタイリングはコレで、店頭に立つ時はこの服を着てね」と説明しながら、服を選んでいただけたことに衝撃を受けました。この時、選んでいただいた服は今でも大切に持っていて、ジャケットはとても綺麗な状態で今でも着ています。今でも展示会ではスタッフたちにシーズン説明してくれるのですが、そういう姿を見て「このブランドをもっと広めたい!」というスイッチが入りました。

―社長でありデザイナーでもある方から直々に説明をしてもらい、しかも服まで選んでもらえたのは貴重な経験でしたね。

藤井:そうなんです。その後も衝撃的なことが続いて、期間限定店の営業が開始すると同業の販売員がたくさん買い物に来ることに驚いたんです。自分の店でも買えるのにどうしてなんだろうと。でも、それだけファッションが好きな人に支持されているブランドなんだ、とあらためて実感しました。ほかにも専門学校時代の友人から地元の女子アナ、美容部員まで買いに来たり、客層も幅広くて若い方からマダムまで来店したり。お客さまがダブスタの服を着ると魔法をかけられたように洗練されていく姿を見ていて、私も楽しくなってどっぷりハマってしまいました。この店の結果次第で今後の福岡出店の可能性があると聞いていたので、福岡出店を信じて待っていました。

―それから入社に至るまでは?

藤井:結局、その代行会社には5年くらい勤め、退社後は飲食業界にも興味があったので個人経営の飲食店で働きました。でも友人から「働いている姿が似合わない」と笑われ、自分でも飲食業は合わないかもと思ったので、再びアパレルに戻りました。福岡にダブスタをメインに扱う店ができるということでフィルムの営業の方から「今、何してるの?」と連絡をもらって、再びダブスタを販売することになりました。その店は東京のベンチャー企業が運営する福岡のセレクトショップで、ITをメイン事業に他には不動産や飲食、ワイン、野球選手のマネジメントなど幅広い事業展開をしていて、その中で私がアパレル担当になったのです。しかも、入社するときに滝野さんの後押しもあり、研修のために都内の直営店で働かせてもらったんです。

―ダブスタを販売するとはいえ、他社の社員に手厚いですね。今まで聞いたことがありません。

藤井:本当に当時のことを思い出すと、よく受け入れてくれたと思います。その会社は風変わりというかトップがファッション好きだったので、そのセレクトショップの他にも東京でメンズのオーダーメイド店も出していたことがありました。最終的には香港出店という話も浮上してきて、私に「香港へ行くか、滝野さんの下で働くか」と選択肢が与えられたのですが、海外移住はしたくなかったので後者を選びました。

―それで、正式にフィルムに入社するんですね!ブランドには長く携わっているのに、入社までは時間がかかりましたね。

藤井:ダブスタと出会って、約10年くらいですね。

「入りにくいお客さま」には、丁寧な接客で対応

―地方専門店で取材をしていると人気の高さを実感するのですが、個人的には店がかっこよすぎて入りにくいと思ってしまうのですが……

藤井:実際、カッコいいが先行して店に入りにくいというお客様は多いですね(笑)。でも、一回着てみたら大丈夫です!

―入りにくいと感じているお客様に対し、どうやって入店を促していますか?

藤井:私が入社した頃にはすでにブランドが確立されていたのですが、立ち上げの頃からいるスタッフから話を聞くと「とにかくブランドを認知させたい」という気持ちを強く持っています。私もそれを第一に考えて、お会いする方にはブランドのことはあまり知らないお客さまだと思いながら、丁寧にブランドを発信するようにしています。入店していただけたら、服のカッコよさとスタッフの接客のギャップに気が付いていただけると思います。

―では、接客で心がけていることは?

藤井:来店したこの時間をこの店に使って良かったと思っていただけるような接客を心がけています。私自身は、お客さまがうれしそうに試着室から出てきて、キラキラしているのを見るのがただ楽しいんです。そういう表情を引き出すのが好きで、例えばその日は朝から気分が乗らなくても、この店に来たことで「今日はすごくいい事があった」と思えるようなことが提供できればと思います。そして、この気持ちはお客さまだけでなく、スタッフに味わってもらいたいんです。私たちもお客様と出会えてよかった、という気持ちで仕事できればいいなと思います。よく「お客さま第一主義」とたとえる店もありますが、それが逆にスタッフの気持ちに重くのしかかって、疲弊しているようにも思うのです。

―それは大いに感じます。スタッフが疲弊していては良い接客もできないと思います。

藤井:お客さまが大切なことは大前提なので今さら言うことではないと思っていて、これからはスタッフ自身の気持ちが楽しい、嬉しい、充実していると感じられるように、メンバーの働き方やチームワークも大切にしています。

―特に今はお客さまが来店しにくいからこそ、余計に販売員のメンタル維持が大変だと思います。これは現場だけでなく、会社も何とかしないといけないですね。そこで最後に今後の目標は?

藤井:これからもダブスタをたくさんの人に伝えていきたいです。ファッションは人を元気にさせるものなので、もっと服を着る楽しみやおしゃれすることを考える時間を増やしていければ、生活も豊かになるのかなと思っています。

―最低限の服でも生活できるけど着飾ることで心が豊かになることってありますね。反対に心を豊かにする方法はいろいろあるけれど、一番手軽にできるのはファッションだと思います。

藤井:ファッションの楽しさって私にとってはなくてはならないものですし、そのことをもっともっと多くの人に知ってほしい。販売員という仕事も、だから成り立っていると思います。以前、滝野さんが「販売は資格がなくても仕事を通じで学べて、スキルを上げていけば一生働ける素晴らしい仕事だよ」と言ってくだって。そんな考えを持ち、素敵な服を作る方の下で働くことができて私も幸せです。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

リーダーたちに聞く「最強のファッション ✕ DX」

「WWDJAPAN」11月18日号の特集は、毎年恒例の「DX特集」です。今回はDXの先進企業&キーパーソンたちに「リテール」「サプライチェーン」「AI」そして「中国」の4つのテーマで迫ります。「シーイン」「TEMU」などメガ越境EC企業の台頭する一方、1992年には世界一だった日本企業の競争力は直近では38位にまで後退。その理由は生産性の低さです。DXは多くの日本企業の経営者にとって待ったなしの課…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。