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ワコールのもの作りの根幹「ワコール人間科学研究開発センター」 その研究内容とは?

 「ワコール人間科学研究開発センター(以下、人科研)」は、1964年に設立され、これまで延べ4万5000人以上(2022年9月現在)の女性の体の計測データを収集した。世界的に類のないこの研究は、ワコールのもの作りの根幹であり、そのデータは、美しさや快適性を科学の視点で分析したエビデンスだ。22年4月には、研究者と商品開発者のコミュニケーションを深くし、研究を商品やサービスに迅速に結びつけるのを目的に、「ワコール人間科学研究所」から「ワコール人間科学研究開発センター」に改称した。この研究機関で何が行われているかリポートする。

 「人科研」は、ワコール創業者の塚本幸一と初代研究所長の玉川長一郎の“経験を科学にして理論にし、知恵を組織に蓄積するのが重要”という思いから誕生した。「人科研」の柱は、“形”や“動き”、“感覚生理”、“身体生理”の研究及び、製品の評価研究の5つだ。まずは、“形”について1964年に女性のからだの調査と分析を開始し、これまでに計測したデータは述べ4万5000人以上。その中の数百人は、30年以上にわたり計測を継続している。そうすることにより、初経を迎え、成長し、出産を経験するなどして、変化していく女性の体を、時系列データとして蓄積している。 この貴重なデータによって、さまざまな発見や解明がされている。その1つが、2000年に発表された“スパイラルエイジング”だ。女性の体のエイジングには、16〜46歳までに、3度のターニングポイントがあり、それを契機として、以後の体形が大きく変化することが証明された。

 バストやヒップについては加齢により変化する。それは“体のエイジングと美の法則”として、10年にバスト編、11年にヒップ編が発表されている。いずれも、感覚的にしか捉えられていなかった加齢による体形変化を客観的なデータで証明したものだ。

非接触の機器を用いると同時に、研究者の手で158カ所を計測

 データの元となる計測は、実に細かい。「人科研」には“非接触三次元計測装置”など非接触の計測装置が導入されているが、今でも設立時と同じように、研究員が実際に女性の体に触れながらの身体計測が基本になっている。“マルチン式計測法”という世界共通の人体計測法で、独自の計測器を用いて研究者の手で左右のバストトップの間隔や胴の幅など158カ所を計測する。さらに、バストの高さなどを測るワコール独自の計測器も開発し、詳細な計測結果を加えている。

 坂本晶子「人科研」研究統括主席研究員は、「下着に重要なのはフィット感。そのフィット感を追求するには、人によって異なる体の形状を知ることが第一歩。年代ごとに求められる機能を商品に持たせるために必要なデータだ」と解説する。人の手の感覚と気の遠くなるような計測作業やデータの蓄積が、エビデンスに裏付けられたワコール独自の商品コンセプトにつながる。

開発商品の機能を徹底して検証

 “動き”の研究で使われるのは、“光学式三次元動作快適システム”だ。計測するポイントに反射マーカーを取り付け、360度の筋肉の揺れや動きを計測するもの。その研究は、動いてもズレにくい「シーダブリューエックス(CW-X)」のスポーツブラや、筋肉の動きをサポートして運動時の筋肉疲労を軽減するタイツやウエア、働く女性のための靴「サクセスウォーク(SUCCESS WALK)」などの開発に活かされている。

 “感覚生理”の研究は、下着を身に着けることによる快適性の追求が行われている。施設内には温度と湿度がコントロールできる2つの“環境実験室”があり、この実験室で運動したり日常の動作をしたりしながら、“サーモグラフィック計測装置”で発汗状況をはじめ、暑さや寒さを感じるメカニズムを探る。この研究から生まれたのが、「睡眠科学」のパジャマや就寝時用“ナイトアップブラ”、肌着の“スゴ衣”などだ。

 “身体生理”の研究では、“筋電図計測装置”を使用し、筋肉が動く際に発する電気をキャッチしながら、人間の体の疲れや負担部分などを測定し、数値化している。この研究からは「シーダブリューエックス」のスポーツタイツや、機能性パンツの“クロスウォーカー”などが生まれている。

 “製品の評価研究”は、ワコール独自の動作時着圧計測装置“圧バランス適合性評価装置”を使用し、動いている時の圧力の変化を測定し、数値化している。

 このような最新の設備を通し、開発した商品がコンセプト通りの機能を発揮しているか、消費者に伝えられる機能かを厳しく検証し、認められた商品だけが市場に出ていく。

日本人の“美しい佇まい”を研究し、心身の健康法として体系化

 「人科研」の研究をベースとして生まれた商品の一つが、2020年に発売された“重力に負けない バストケア ブラ“だ。“重力の影響を受けないバストはきれいな丸い胸になる”状態を目指してつくられたブラで、飛行機での無重力実験を行った際には「人科研」の研究者も同乗。その無重力体験を後の開発に生かすなど、徹底した現場主義だ。この商品開発のための技術レポートは、生活文化にインパクトを与え、新たな価値観の創造につながる役割を果たしたとして、「2021年度日本繊維製品消費科学会消費科学フロンティア賞」を受賞している。

 「人科研」が21年から取り組んでいるのが“からだ文化研究プロジェクト”だ。日本人の“美しい佇まい”に関する感性を、複数の大学や企業と学術的研究を進め、心身の健康法として体系化することを目指している。“美しい佇まい”に関する活動やインタビューはワコールのウェブサイトに掲載されており、この研究成果を元に、新たなサービスや商品が発表される予定だ。

 インターネットを中心に情報が溢れ、下着に関しては、必要以上に不安を煽る宣伝文句や、エビデンスを疑うようなコピーも少なくない。そんな時代だからこそ、60年近く女性の体を研究してきた「人科研」のデータや研究には、高い価値がある。確かな裏付けのある信頼できる発信に今後も注目したい。

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