セレクトショップが集まる渋谷・神南で、公園を会場にしたカルチャーイベントが定期的に行われている。仕掛けるのは建設・設計大手の日建設計。コロナの打撃を受けて、空き店舗も目立つ神南エリアの活性化に、アパレル企業やデベロッパーではなく、建設・設計の会社が取り組む新しいモデルケースだ。
渋谷区立北谷公園を会場にして10月22〜23日に開催された「JINNAN MARKET」はファッションショーをはじめ、音楽ライブ、映画上映、フリーマーケット、飲食スタンドなどさまざまな催しが実施され、2日間で約1万人が来場した。一般の人が参加できる企画も充実していた。服のアップサイクルやデザイナー体験ワークショップなども催され、子供連れが楽しむ姿が見られた。このイベントは21年11月に1回目が行われ、今回で5回目。回を重ねるごとに規模が拡大している。
会場となった北谷公園は21年4月にリニューアルオープン。昔からある小さな公園だが、リニューアル前までは自転車やオートバイの駐輪場としての利用が主で、地味な場所だった。神南は駅から離れた場所でありながらセレクトショップやカフェの集積地として人気のエリアとして知られるものの、近年は空き店舗が増加する問題を抱えていた。
渋谷区は公園をテコにした活性化に動いた。民間の資金を活用した社会資本整備「パークPFI」の手法を取り入れ、東急、日建設計、CRAZY ADの3社を指定管理者にした。民間の力を使い、人の交流が生み出し、渋谷ならではのカルチャーが発信できる場への刷新を目指した。
日建設計は、公園の設計段階からイベント開催を念頭にしていた。土地の高低差を生かしたステップを劇場空間に見立てるとともに、ランウェイと呼ぶ縦長の広場は文字通りファッションショーのランウェイでの利用を想定した。木材を使った建物には「ブルーボトルコーヒー」を誘致し、訪れる人が長くくつろげるようにもした。また出入り口を広げることで、開放感と回遊性を高めた。
公園事業を主導する日建設計のパブリックアセットラボ ラボリーダーの伊藤雅人氏は「公園はオープンして終わりではない。オープンした後に神南エリアの価値をいかに高めるかが大切になる」と話す。同社はこれまで渋谷では渋谷ヒカリエ、渋谷スクランブルスクエア、渋谷フクラスに加えて、いま工事が進む桜丘口地区の再開発など、大型プロジェクトの建設・設計を手掛けてきた。今後はそれだけにとどまらず、建設後の公共空間の運営を担うためパブリックアセットラボという部署を2018年に設けた。北谷公園はその取り組みの第1弾になる。
JINNAN MARKETのようなイベントだけでなく、ふだんから公園にはAI(人工知能)カメラやビーコンなどを設置し、来園者の数や属性をモニタリングする。イベントでの生の声や客観的なデータをもとに、エリア活性化への作戦を考える。公園の一角に表示したQRコードを読み込むと、出店、パフォーマンス、イベント利用といった公園の活用シーンがARで可視化される。そうすることで、多くの団体や企業、個人に公園スペースの活用を促す。
今後の課題は公園の近隣の会社や店舗などをいかに巻き込むかだ。10月のJINNAN MARKETでは、近隣のモデル事務所やデザイン事務所、神南小学校、渋谷区子育てネウボラなどが参画した。次回の来年春の開催に向けて、神南エリアらしくファッション企業の協力をもっと広く募る考えだ。
民間の力によって公園を活性化しようとする動きは全国に広がっている。伊藤氏は「北谷公園で一つの雛形を作り、さまざまなエリアの活性化に貢献したい」と話す。