ハースト婦人画報社の「ハーパーズ バザー」は今年2月、小栗裕子新編集長が「変わる意志を示したい」と意気込んだ、新体制第一号の雑誌を発行した。表紙は、通常版では初起用の日本人となった小松菜奈。その後も賀来賢人と榮倉奈々夫妻を起用するなど、「どのページも外国人だった」雑誌の印象は大きく変わっている。表紙と連動して、ストーリーのある動画も発信。「認知してもらうためのツールとして、動画の強さを体感しました。素早くリーチし、リアクションも迅速。変化を認知していただく機会は、動画経由が多かったです」。結果、雑誌の部数は昨年対比132%程度で着地。デジタルは9月に月間8300万PVを獲得し、過去最高だった。
今後はアートと、ハイエンドなラグジュアリーを強化する。「オートクチュールやハイジュエリーに関する読者ニーズは一層高まっています。コロナ禍を経た消費社会でも女性の切り替えの早さは頼もしい。私たちの読者は、いわゆる『高所得者層向け』の世界だけでなく、日本ではまだ少ない『エグゼクティブ層向け』というリアリティーのある情報のニーズも高いのが特徴です」。アートに関しては「長年続けている『ウィメン イン アート』というコンセプトを立体的に発展させたい。欧米やアジアで盛り上がる市場の流れをキャッチしつつ、メディアに紐づくローカルコミュニティーを構築するのが理想です。読者には能動的にアートに触れ、自分との接点を見つけようとする意識と教養があります。アートを通じて生き方や選択肢を提案できるのは、ファッションメディアならでは。なるべく早く「『ハーパーズ バザー』の王道を表現したい」と語る。
「王道」については、「王道を定義するのではなく、王道として存在するというのが正しいかもしれません」。つまりそれは「この仕事は、社会に何を提供できるのか?」「何のためにこの仕事をするのか?」につながるという。「最先端にリーチすることは当然必要ですが、それを過大評価してはいけません。社会の変化はビジネスの変化ではなく、ニーズの変化。私たちのビジネスとは、情報のアップデートではなくイメージを作ること、そしてそれに込めた情熱を伝えることです。私たちが発信していく王道とは、『ハーパーズ バザー』がファッションを通して見ている社会の価値観です」。成熟した日本の市場で王道を求めることに対しては、「これまでとは違うかたちで『誰を、この王道の世界に誘いたいのか?』を明確に表明することが求められますが、きっとできると思います」と力強い。
2023年は、ハースト婦人画報社が「ハーパーズ バザー」をローンチしてから10周年。「歴史あるグローバルメディアの日本版としての『存在感』、また最高峰であり王道のラグジュアリースタイルを提案する媒体としての『創造性』を発揮していきたい。年間を通じて読者コミュニティーを育む施策のほか、後半には媒体バリューをより具体的に感じていただけるイベントも準備中です。日本を新しい時代へ導く女性たちの精神と才能を世界に伝える媒体として、さらにパワーアップしていきます」と計画を語る。
紙媒体からデジタル、そしてSNSやイベント、他社のコンサルティングまでビジネスを拡大し続けるメディアの編集長に話を聞きました。