12月9日に南青山にオープンした「ミゼン(MIZEN)」は、1階にカフェとプロモーションスペース、2階に牛首紬や大島紬といった日本の伝統工芸品を用いたテーラードジャケットやケープ、スカートなどをそろえたショップを擁する。MIZEN代表取締役でクリエイティブ・ディレクターを務める寺西俊輔は「日本の職人を引き上げるためのプラットフォームになりたい」と語る。
「エルメス」のウィメンズウエアで3Dデザイナーの経験を持つ寺西は、パリの展示会プルミエールヴィジョンで紬(つむぎ)に出合い、その美しさに衝撃を受けたという。2018年に帰国した後、反物をテキスタイルとして使用した“装い”を提案する「アルルナータ(ARLNATA)」を創設。ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」の創業者、須永珠代AINUSホールディングス代表と出会い、22年4月に共同でMIZENを立ち上げた。「産地の職人技の存続を目標にしている。着物ではなく、洋服にすることでより多くの人に価値を伝えられる。MIZENでは服に限らず、もっと幅広くライフスタイル全般のコラボレーションを生み出したい。影響力を持てる規模感になりたい」。
寺西は「ミゼン」ディレクターとして日本全国の伝統工芸職人による製品を企画し、販売する。卓越した技を持つ職人をアーティストや企業と結びつけ、定期的にコラボレーションイベントを企画して、つながるきっかけや協業アイテムを作り、職人たちが主役となるラグジュアリーブランド構築を狙う。職人技の存続を願う人々の支援を得る機会として、ふるさと納税への返礼品としても積極的に出品する。
第1弾プロジェクトは「MIZEN BLUE 勝」をコンセプトに12産地の職人が制作したオリジナルの紬などを用意。牛首紬や米沢織、近江ちぢみ、南風原花織、リボン織などの鉄紺色のテキスタイルを「アルルナータ」がオーダーウエアとして仕立てる。もちろん着物に仕立てることも可能だ。
MIZEN最高戦略責任者(CSO)も務める須永は、「日本の伝統工芸の市場規模は1000億円を下回っている。でも本当に素晴らしい技術があり、価値がある。地方のために『ふるさとチョイス』を立ち上げたときのように、この分野にプラットフォームが必要だと考えた」と語る。「今は点でしかない職人たち同士、点と点を結んで面にして、それを引き上げるイメージを実現したい。同じ思いを持つ寺西さんと出会い、MIZENプロジェクトを立ち上げた」。
テキスタイルとして使用する反物はどれも職人の手で織られたもので、オーダーでウエアに仕立てるため1点数十万円するものが多いが、価格に納得がいくクオリティーに仕上がっている。南青山を拠点に、ゆくゆくは海外への発信も行う計画だ。