発酵技術で循環型社会の構築を目指す研究開発型スタートアップのファーメンステーションは今年6月、国内のスタートアップ企業として初めて「Bコーポレーション認証」を取得した。発酵の技術で未利用資源を価値あるものに変える同社は、東北随一のドラッグストア、薬王堂と取り組みを始めた。Bコープ取得や協業の狙いなどを酒井里奈ファーメンステーション社長と西郷孝―薬王堂取締役常務執行役員営業本部長が語った。
(この対談は2022年11月25日に開催した「WWDJAPANサステナビリティ・サミット」から抜粋したものです。下記の関連記事から期間限定で動画でも視聴できます)
向千鶴WWDJAPAN編集統括兼サステナビリティ・ディレクター(以下、WWD):ユーチューブでファーメンステーションの酒井社長が事業内容を伝えているのを見て引き込まれました。再現してもらえますか。
酒井里奈ファーメンステーション社長(以下、酒井):当社は化粧品原料を作っているスタートアップです。ファッションではサステナブルな原料を用いたり物作りをしていたりと発信する企業が多いですが、それって本当なの?って思うこともありますよね。それはビューティ業界も一緒です。ビューティ企業もサステナブルであること、機能性が高い原料が求められています。でも、それを実現した原料はさほど多くないのが現状です。
そこで、われわれの出番です。当社はすごく変わっているんです。普通と違うことがたくさんあるのでご紹介します。
まず一つ目は、原料が違います。普通の原料っていうのはわざわざそのためにエネルギーとかをかけて作りますが、私たちはゴミといわれるようなもの、未利用資源だけが私たちの原料です。次に、製造方法です。当社の工場は自然エネルギーで、水の量は一般の製造方法に比べて8分の1の量で実現します。LCA(ライフサイクルアセスメント=製品やサービスによる環境負荷の度合いを定量的に算出するための手法)データも出し、環境にも配慮した製造方法というのが特徴です。そして3つ目は、ゴミをゼロにするという取り組みです。一つの素材から複数の商品を生み出し、ゴミをゼロにすることを目指しています。
ゴミをゼロは一体何かというと、発酵がキーです。米や食品廃棄物などいろいろなものからアルコールを作り、化粧品の原料にしています。未使用資源はもちろん、大豆や果実などの残渣も化粧品の原料になります。残渣はニワトリやウシの食料にもなり、牛ふんなどが植物の肥料となり、植物が育ち地域の皆さんの役に立つ、というのが私たちの循環の特徴です。
そして機能性のある原料にするため、発酵の力で肌触りの良いオーガニックのエタノールアルコールを中心とした原料を開発・生産しています。
簡単に私自身の話をすると、もともと金融業界にいました。その中で日本の3分の1の田んぼは有効活用されていないと話す農家との出会いがあり、“余ってるもの”を何とかしたいと思い、発酵の勉強をして起業しました。そこからいろいろ進化をしまして、ビジネスや発酵、微生物などのプロを集め、今はかなりいい14人のメンバーで東京と岩手で仕事をしています。
東京と岩手では、多様な未利用資源にベストな微生物を掛け合わせることでいい原料・プロダクトにする、という取り組みをしています。未利用資源はいろいろあり、例えばワインの搾りかすやリンゴの搾りかす、傷んだバナナ、ブドウ、モモ、カンロあめ、ジャガイモ、ユズの搾りかすなどですね。こういった素材を機能性の高い原料や製品にし、さまざまな企業と一緒に事業を展開しています。
当社はこのコアな技術をベースに開発した原料を国内外に売りたいと思っています。また、さまざまな企業とご一緒することで、新しいビジネス、ブランドを開発する手伝いをしてきました。私たちにとって大事なのは、事業を伸ばすだけではなくて、社会性、地域とか環境とかそういったことにもきちんと配慮をするということです。それを表明するために「Bコープ認証」も取得しました。
ファーメンステーションは発酵の駅という意味です。「FERMENTING A RENEWABLE SOCIETY(発酵で楽しい社会を!)」というのが私たちのパーパスで、ファーメンステーションという駅を通過すると、無駄なものが無駄じゃなくなる。そういった世界を作りたい、それをこれからの常識にしたいと思ってきました。これからのファッション、ビューティを作る皆さんがここにいらっしゃると思うので、ぜひ、そういった話をできればなと思っております。以上です。ありがとうございました。
WWD:素晴らしい!ありがとうございました。やっぱり酒井さんの情熱に触れるのがすごく好きです。皆さんすごく分かりやすかったのではないでしょうか。では今の話をさらにもう少し深めさせていただきたいです。エタノールというのは、ファッションの世界の人からとるともしかしたらポリエステル的なことなんですかね。非常に多く使われていて、それに近しいものかなと。それがファーメンステーションが生む新しい産業の主要な原料と思っていいですよね。
酒井:そうですね。エタノールは国力に必要といわれていることもあって、さまざまな規制があるのですが、本当に産業に必須な原料です。化粧品以外にも燃料にもなりますし、工業製品にもなりますから。
WWD:国力?
酒井:そういわれてることもあるような原料なんです。ファッションに置き換えるとポリエステルなんですね。確かにそうかもしれません。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。