「サカイ(SACAI)」は、世界の主要都市を巡回するストアツアー「ハロー サカイ(Hello sacai)」を東京・神宮前で2023年2月末まで開催中だ。同店のファサードには“Hello”や“こんにちは”など世界各地のあいさつをプリントした建築工事用シートを張り、店内の什器にも工事現場などで使用される工具を採用。さらに、「サカイ」青山店で使用していた什器をリプロダクトした一点モノのピースや、原宿のビンテージショップ「ベルベルジン(BERBERJIN)」のビンテージアイテムを再構築したアパレルを取り扱うなど、随所でアップサイクルな取り組みが感じられる空間に仕上げた。
同店では限定アイテムや新作の2023年春夏コレクションなどももちろん販売しているのだが、それらの中でも注目したいのがエリック・ヘイズ(Eric Haze)とのコラボアイテムだろう。ヘイズは、1961年にニューヨークで生まれた現在61歳のアーティスト&デザイナー。1980年代にジャン・ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)やキース・ヘリング(Keith Haring)らと共にニューヨークのグラフィティシーンをけん引した伝説的なグラフィティライターの1人だ。その後、グラフィックデザイナーとしてビースティ・ボーイズ(Beastie Boys)やパブリック・エナミー(Public Enemy)ら、USヒップホップシーンで活躍するアーティストのロゴやジャケットなどを数多く手掛けてきたリビング・レジェンドである。その骨太でストリートのアイデンティティーが宿る作風は数々のブランドをも虜にし、「Gショック(G-SHOCK)」や「ナイキ(NIKE)」「ニューバランス(NEW BALANCE)」「ステューシー(STUSSY)」「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」などとコラボを実現。「サカイ」とは21-22年秋冬コレクションで1度コラボしており、今回は2度目のタッグとなった。
「ハロー サカイ」のオープンを祝して行われたヘイズのライブペインティングの直前、彼のショートインタビューに成功。コラボの経緯や、グラフィティライターからの転身、現在の状況などについて語ってもらった。
エリック・ヘイズ/アーティスト兼デザイナー
PROFILE:1961年生まれ、アメリカ・ニューヨーク出身。1970 年代にSE3の名でグラフィティアーティストとしてのキャリアをスタート。グラフィティ集団ザ・ソウル・アーティスト創設メンバーとしてフューチュラやリー・キュノネス、ドンディらと共に過ごした。その後はグラフィックアートも手掛け、特徴的な手書きのレタリングで数々のロゴや音楽アルバムのカバーなどを制作。91年には自身のアパレルブランドを立ち上げたり、2000年代からはアート作品の制作に本格的に取り組んだりと、今なお活動の幅を広げている
ーーまずは、「サカイ」とのコラボの経緯を教えてください。
エリック・ヘイズ(以下、ヘイズ):(『サカイ』のクリエイティブ・ディレクションを手掛ける)源馬大輔を介してコンタクトを取るようになった。ファーストコラボの21-22年秋冬コレクションは、シンプルなグラフィックをベースとしたアイテムをそろえたが、23年春夏シーズンはアート寄りなアイテムに仕上げている。ロゴやグラフィックを乗せるだけではなく、初めてブランドの理念に添いながらコラボすることができたよ。ストリートシーンに属するもの同士のコラボとは異なり、よりファッショナブルなレベルに達しているはずだ。
40年以上前にグラフィティライターとしてストリートで活動を始めてから、ストリートとファッションの交わり方は時代と共に変化している。60歳を超えてから洗練されたファッションシーンの中で自分をリプレゼンテーションすることが一つの夢だったので、今回のコラボは記憶に残るものになったよ。
ーー抽象的なグラフィックと共に“AS ONE(一体となって)”などのワードも落とし込んでいますが、チョイスした意図は?
ヘイズ:ワードの中には、グラフィティにした際にデザインとしてハマるものがある。だが、今回はデザイン性だけでなく、今の世界情勢や歴史も踏まえて私と「サカイ」で擦り合わせてチョイスした。
ーー今回のライブペインティングをはじめ、ペインティング作品を手掛けるようになった理由を教えてください。
ヘイズ:ニューヨークで生まれ育ち、グラフィティライターとして活動した後に、一度ロサンゼルスへ移住してパソコンを中心にグラフィックのデザインを行っていた。十数年後(2005年頃)に再びニューヨークに帰ってくると、バスキアやキースら旧友たちと過ごした時のようなライブ感を街から感じてね。それを機に、ペインティングを中心としたアーティスト活動にシフトしていった。私にとってのゴールは、場所やサイズを問わず、1本の筆と1つの色でペインティングすること。5年ほど前から自分の中で感覚が研ぎ澄まされているんだ。現在、渋谷の宮下パークで開催している個展「インサイド アウト(INSIDE OUT)」でも、グラフィティライター時代に関係のあった人々などを同様の手法で描いていて、過去と現在の自己表現になっている。
ーーファッションシーンとの関わりはどう考えていますか?
ヘイズ:ずっとアートシーンだけにいるよりも、ファッションシーンとも関わった方がアーティストとしての感覚が洗練される気がしていて、今はどちらにも偏りすぎずバランスがちょうどいいね。昔はアートも手掛けるグラフィックアーティストだったけど、現在はグラフィックも手掛けるアーティストのような、より自由に広い解釈で作品に取り組むことができるようになっているよ。