ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。2022年はグローバルなサプライチェーンの脆弱さが表面化した年であった。中国・上海のロックダウンに、ロシアのウクライナ侵攻。さらには原材料や輸送費の高騰に、記録的な円安。アパレル企業がダメージを最小限に抑えるにはどうすればよいのか考える。
2022年はコロナ禍から病み上がりのマーケットサイドに加え、東西分断に円安も加わったサプライサイドの混乱とコストインフレに直撃された散々な年だったが、23年もインフレ抑制の引き締めと消費回復が交錯する予測困難な年になりそうだ。そんな23年をアパレルチェーンはどう生き抜けばよいのだろうか。
サプライサイド対策と値上げの巧拙
急激な円安が一服して中国のゼロコロナ政策も緩和されたとはいえ、アパレルのコストインフレは収まるめどが見えず、コスト吸収とコスト転嫁をバランスする値上げの巧拙が問われざるを得ない。
22年1〜10月累計の衣類輸入数量は19年の同期間を6.3%下回っているものの、記録的な円安で金額は2兆8214億円と19年同期間の2兆6351億円を7.1%も上回っている。22年1〜10月の衣服・身の回り品売上(商業動態)が19年同期比で22.5%、被覆及び履物支出(家計調査)も同じく16.7%も下回っている状況と比べれば、マクロでの価格転嫁はほとんど不可能に見える。
それでも個別企業は価格転嫁するしかなく、品質や値入れのメリハリで単価上昇と売上点数減のバランスを取ろうとしているが、衣料流通総体では買い控えに押されて値引き販売と大量の売れ残りに追い込まれる公算が高い。
コストを吸収しようとすれば、より低コストな生産地へ移転し、素材とアイテム・品番を集約し、色・サイズの展開を広げて生産ロットを増やし、閑散期を狙って計画生産し、直接管理・貿易で中間手数料を省くなどの対策が打たれるが、調達コストのインフレを多少は吸収できても、それに勝る弊害が生じることも否めない。
低コストな遠隔地生産や閑散期の計画生産はリードタイムが長くなって需給ギャップが広がり、値引きや残品のロスがコスト圧縮を超えてしまうリスクがある。素材とアイテム・品番の集約は品ぞろえのバラエティやコントラスト、変化や鮮度を損ない、客数減と売上減を招くリスクが指摘される。手数料負担を嫌う直接管理・貿易は納期管理や仕掛かり在庫負担に加え、手慣れたプロでないだけに物流手配や為替ヘッジのミスも恐い。コスト抑制が結果オーライに着地するにはいくつも高いハードルがある。
となれば、無理なコスト抑制はせず、目立たぬよう売り上げに響かぬよう値入れミックスのスキルでコスト転嫁を図るという選択もある。定番アイテムは素材を落とさず閑散期の大ロット計画生産で調達コストを抑え、トレンドアイテムは引きつけた小ロット生産で値入れは削っても値引きロスを抑え、もとより値入れの取れるアウターやワンピースを増やして粗利を稼ぐ。粗利益率で着地させても売り上げが減っては損益が圧迫されるから、販管費とのバランスをみて粗利益額での着地を図る必要がある。
値入れミックスや粗利益額着地を図っても、衣料流通総体の需給に無理がある以上、目論見通りに進むと楽観すべきではない。ならば、販管費とりわけ固定費を圧縮するのが先決ではないか。
マーケットサイドへの皺寄せに注意
サプライサイドでコストインフレを吸収しようとすれば、品ぞろえが調達都合で絞り込まれ、顧客を向いたマーケットサイドにしわ寄せが及ぶ。企業にとって都合の良い効率化は顧客の選択肢を制限することになりがちだ。それでもマーケットが成長期にある間はうまく行くケースもあったが、経済も所得も停滞して消費が衰退に転じ、とりわけ衣料消費に皺寄せが集中するようになって以降、そのようなラックネスは例外となっていった。ユニクロやワークマンのような成功劇はさまざまな施策とラックネスが重なって実現した例外とみるべきだ。
1970年代まではテレビ、80年代以降は雑誌が担ったマーケット育成機能を近年はSNSが担っているが、テレビが大衆的マスマーケット、雑誌がセグメントされたメジャーマーケットを形成したのに対し、SNSは検索フィルタリングが共通する人々がシンクロするマイナークラスターがつながりあって広がる構造だから、時にはバズるにしても個々のクラスターはさほど大きくない。売り上げ数億〜10数億円規模のD2Cブランドがインフルエンサーを使ってファン層を形成するにも、何人も必要とする。巨大市場を形成した「シーイン(SHEIN)」にしても、世界で数千人規模のインフルエンサー(Key Opinion Consumer)を活用しているようだ。
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