ファッション

ジャスティン・ビーバーと共に「ドリューハウス」を手掛けるライアン・グッド “愛・平和・喜び”を求めて

 2010~20年を代表するポップアイコン、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)を、デビュー当時から裏方として支えてきた人物がいるーーそれがライアン・グッド(Ryan Good)だ。

 現在38歳のグッドは、20代の頃にとある有名歌手を介してジャスティンの専属スタイリストになり、ビジュアル面を長年にわたってサポートしてきた。その実力を買われ、クリエイティブ・ディレクターとしてジャスティンと共にアパレルブランド「ドリューハウス(DREW HOUSE)」を18年に立ち上げると、わずか数年で“世界で最も成功しているインフルエンサーブランド”と称されるまでに成長させた。

 11月には、東京・原宿でポップアップ開催のためにグッドとジャスティンが来日。ジャスティンへのインタビューは残念ながら叶わなかったが、グッドが2人の出会いからブランド名の由来、アイコニックなスマイリーロゴが生まれた経緯などを語ってくれた。

ーーまずは、「ドリューハウス」を設立するまでのあなたの経歴を教えてください。

ライアン・グッド(以下、グッド):全ての始まりは、歌手のアッシャー(Usher)との出会いだね。20代の頃、フロリダのミュージックレーベルでインターンをしていたんだけど、上司がアッシャーと知り合いで彼がアシスタントを探している時に僕を推薦してくれたんだ。それを聞いた瞬間、トラックに荷物を積み込んでフロリダからジョージアまで(約600km)すぐに運転して行ったよ。アシスタント時代は、彼が飼っている犬の面倒を見たり、家を片付けたり、車を運転させてもらって事故ったり(笑)。

 その後、しばらくしてアッシャーが僕のファッションセンスを見抜き、「スタイリストになってみれば?」と提案してくれたんだ。何をすればいいか全く分からなかったけど、結果としてスタイリストになったことがジャスティンとの出会いのきっかけにもなったし、彼は今でも僕の大事な人でメンターだね。もともとファンだったし、未だに自分があのアッシャーと知り合いだなんて信じられないよ。

ーー“ジャスティンとの出会いのきっかけ”ということは、アッシャーから紹介があったんでしょうか?

グッド:2008年にアッシャーから、「ある若いアーティストがいるから、スタイリストとしてビジュアル面をサポートしてほしい」と言われて会ったのが、彼のレーベルと契約したばかりのジャスティンだったんだ。それから専属スタイリストとしてチームに加わり、ツアーから旅行まで全てに帯同していたね。

ーーそこからどのような流れで「ドリューハウス」が誕生したのか教えてください。

グッド:18年の1月、ジャスティンから「相談したいことがある」と連絡があって彼の自宅に行ったら、「一緒にアパレルブランドを始めたいから、クリエイティブ・ディレクターを担当してほしい」と言われてね。それまでもいろいろな人から「一緒にブランドをやらないか」と誘われることがあったんだけど、タイミングが合わなかったり、気分が乗らなかったり、明確な将来のゴールが見えるアイデアじゃないと参加したくない気持ちが強くて断り続けていた。でも、ジャスティンから話を聞くと、以前から僕がやりたかったアイデアを口にしてくれて、感覚がハマると確信したから一緒にブランドを手掛けることにしたんだ。

 誰にも言ったことがないんだけど、08年にアッシャーからも「一緒にアパレルブランドを立ち上げたい」と相談されたんだよ。当時、僕はストリートブランドやスケートブランドをラグジュアリーとミックスして着るスタイルが好きで、それをベースとしたブランドにしたかったみたい。彼は、10年以上前に今で言う“ラグジュアリー・ストリート”のトレンドを見抜いていたんだ。ブランド名も決まっていたし、今勝手にやっちゃおうかなと思っているよ(笑)。

ーー18年というと、ジャスティンは音楽活動を控えていた時期であり、同時にファッションシーンではストリートとラグジュアリーが急接近した年ですね。

グッド:18年はジャスティンにとって大変だった1年で、音楽とは別のクリエイティブなアウトプットを考えていたんだと思う。僕はジャスティンではないから正確なことは言えないけど、彼が誰か1人に強く影響されることはないはずだし、音楽もファッションも影響し合うものだから、トレンドはくんでいたかもしれない。

ーーブランド名の由来は?

グッド:“ドリュー”は、ジャスティンのミドルネームだね。“ハウス”は、ちょっと皮肉を込めてラグジュアリーブランドの“ファッションハウス”を目指す意味でふざけて付けたんだ。そのうち、普段みんなで過ごす家のような意味合いが強くなり、今はいろいろな人が集まって楽しく平和な時間を過ごせるコミュニティーが集まる場所に進化した。ロサンゼルスには、“リアルなドリューハウス”もあるよ。

ーー口元を“drew”の文字に置き換えたアイコニックなスマイリーロゴは、どう生まれたんでしょうか?

グッド:もともとのアイデアは僕がメモ帳に書き込んだ単なる落書きで、イラストレーターに整えてもらったんだ。スマイリーは世界共通で、誰とでも喜びを共感できるグラフィックだよ。

ーーベアをはじめとする動物のキャラクターの印象も強いです。

グッド:これには何層にもなる深い話がある。動物たちは実際にロサンゼルスのバレーエリアに住む動物たちで、ベアの名前はセオドア。以前ドリューハウスに住んでいた人たちが引っ越しの際に彼を置いていってしまったのか、セオドアは1人だったんだ。友情を求めていたセオドアは、近所のリスのシャーマンと出会い友達になる。ウサギのジャッキーは、コヨーテのフェルナンドを見かけるけど、ウサギにとってコヨーテは恐怖でしかない。でも、フェルナンドには家族がおらず、群れからも省かれてしまった存在で、ジャッキーも1人ぼっちで行き場と友情を求めていたから、意外なことに彼らは親友になったんだ。このように、僕たちも身体的な固定観念や人間として理解し切っていると思っていることを乗り越え、心の奥底を見つめ直して自分の欠点を洗い出せたら、他人を違った目線で見ることができて、互いにもっと大きな必要性とつながりを見出すことができるかもしれない。ウサギとコヨーテが親友になれたように、“人間は内心みんな同じである”という考えが背景にあるんだ。

ーーキャラクター設定が細かいように、どういったアイテムを展開していくか、明確なビジョンやコンセプトはありましたか?それとも、“ジャスティンが着ていそうなアイテムを作る”という舵取りでしょうか?

グッド:最初からはっきりとしたコンセプトがあったわけではなくて、ジャスティンの直感とセンスがすごくいいから、その波に乗るように自由にクリエイティブな会話をしながら進めていった。「ドリューハウス」は、僕とジャスティンのクリエイティブ・アイデアのコラボレーションから生まれた、“進化し続ける個人のテイスト”を基に誕生したんだ。

ーーということは、現在のストリートの要素は、5年後にはまた違った雰囲気になる可能性もあると。

グッド:いい質問だ。ファッションのコンセプトというよりは、生き方のコンセプトとして“愛・平和・喜び”を表現しているアイテムを作るから、変わるかもしれないし、変わらないかもしれないね。スマイリーロゴも、もともとは僕の単なる落書きだし、全てをミーティングして決めるというよりは、クリエイティブな輪の中で自然にアイデアが発露する感じ。だから、シーズンに合わせてアイテムを制作する必要もないと思っていて、人々が求めるようなタイミングにリリースする。

ーーメインターゲットは設けていますか?

グッド:全ての人を受け入れる感じだね(笑)。

ーー今回、東京でポップアップを開催した意図は?

グッド:「ドリューハウス」は直営店を持っていないし、多くの人が“ジャスティン・ビーバーのマーチャンダイズ”だと勘違いしている。だから、直接アイテムを触ってクオリティーを実感できる場を設けることで、改めてファッションブランドだと認知してもらう機会を作りたくてね。ブランドとしては4回目のポップアップで、本当はもっと早く東京でやりたかったけど、パンデミックの影響があったからこのタイミングになってしまったんだよ。

ーー気分を害するつもりはありませんが、良くも悪くも「ドリューハウス」は“世界で最も成功しているインフルエンサーブランド”の一つだと思っています。

グッド:君の言う通り、誰もジャスティンのことを知らなかったとして、ただ単に僕たちがガレージから「ドリューハウス」を始めていたとしたら注目度は全く違っただろうね。でも同時に、僕たちが本当にやりたいストーリーを世の中に発信することに変わりはなかった、とも思う。このストーリーというのは、最も重要なのは人々にどう感じてもらうか、どうすれば誰もが愛され、この世にとって一人一人の存在が重要であるという考えをどう広めることができるかだから。

 「ドリューハウス」は、トレンドやスタイルに影響を与えるために洋服を作っているわけではなく、ブランドの目的として“愛・平和・喜び”を広げることを常に大事にしている。その中で、たまたまジャスティンが影響力のあるトレンドセッターだっただけ。そう考えると気が楽になる。僕たちは、服作りのコツをつかんでいるしセンスもあるから「ドリューハウス」は軌道に乗っているけど、それだけではなくて、自分たちが語るストーリーを心から信じているから、自信を持って続けられているんだ。

ーー今後の展望や控えているプロジェクトがあれば教えてください。

グッド:具体的なプランはなくて、今は流れに乗るようにゆるくやっている。「ドリューハウス」というブランドが何なのか、それを世の中に広めている道中だよ。

ーー今回の来日は久しぶりだと思いますが、日本の気になる人物やブランドはありますか?

グッド:「キャピタル(KAPITAL)」と「ネイバーフッド(NEIGHBORHOOD)」がすごく好きだね。でも特定のブランドというよりも、日本のファッション文化全般と洗練されたコンシューマーたちの大ファンという方が正しいかな。東京の街を行く人たちは、みんな着こなしもカラーコーディネートも上手くて、自分をとても美しく表現することに長けているように見える。それに、世界的に見てストリートウエアは日本から大きな影響を受けているよ。東京はストリートカルチャーを語る上で欠かせない街だし、ストリートウエアという概念の一つだと思っている。そういえば、フィル・ナイト(Phil Knight、ナイキ創業者)が初めて作ったランニングシューズも「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」から影響を受けているから、「ナイキ(NIKE)」の原点は日本にあると言ってもいいね。

ーー最後に、2022年11月現在、毎日見ている注目のSNSアカウントなどがあれば教えてください。

グッド:昔の「ディズニー(DISNEY)」のイラストレーターやアニメーターが投稿している、クラシックなイラストや動画を見るのにハマってるよ。

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