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ジュンが取り組むOMO「チャット接客」満足度85%を実現した接客術とは?

 近年アパレルのEC化が進み、オンライン上の競争が激化している。その中でチャットを用いたオンライン接客が注目を受け、大手アパレルやストリート系ECなどでチャットサービス「チャネルトーク」の導入が進んでいる。中でもジュン(JUN)はOMO(Online Merges with Offline)戦略の一環としてオンライン接客に注力しており、チャットを活用。満足度85%、コンバージョン率40%と成果をあげている。

 このような結果に結びつく、チャット接客の“感動体験”とはどんなものか。ジュンの中嶋賢治取締役執行役員と、チャネルトークの玉川葉チャネルコーポレーション本国取締役兼日本CEOに聞いた。

ジュンが目指すOMOは
「店舗のような体験」が鍵

WWD:EC化率35%と高い成果を挙げているが、OMO戦略の中でECをどのように位置付けている?

中嶋賢治ジュン 取締役執行役員(以下、中嶋):EC化率は重要ではない。われわれはこの時代を乗り越える利益志向の筋肉質経営とそれを支える顧客基盤作りを目標としている。買い手と一期一会の関係ではなく、顧客基盤を厚くするため「顧客」を第一に考える中で、その顧客行動がオムニチャネル化しているため、OMO戦略を強化している。

実際、昨年のゴールデンウイークは人の流れが回復し、各店舗にも客足が戻った。ECは売り上げこそ微減となったが、アクセス数は通常の1.5倍に増えた。店舗を訪れる前にオンラインショップで情報をチェックするというチャネルをまたいだ行動が一般化している。

WWD:OMOで最も注力するべきは?

中嶋:オンラインとオフラインのサービス水準をイコールにすることを目指している。情報のクオリティーを高めること、在庫をオフラインと合わせて管理することに加え、差別化のために“接客のOMO”に力を入れている。

玉川葉チャネルコーポレーション本国取締役兼日本CEO(以下、玉川):お客さまは店舗かECかというよりも「ブランドから買う」という感覚なので、なぜオンラインとオフラインでサービスの質が違うのかと考える。昨年は、このことに気がついた実店舗を持つ大手アパレルECのチャット接客導入が目立った。特にジュンは、店舗とオンラインで同レベルの接客体験を徹底的に追求していることが成功している理由だと思う。

WWD:接客を通した顧客作りがEC成長の鍵?

玉川:日本市場は人口も減少しており、新規顧客獲得は難しい。そのため“お得意さま”とも言えるVIP顧客をどれだけ作れるかが戦略の肝になる。実際、チャネルトークを導入している大手アパレルECは、チャット接客を通して実店舗のように売り上げを作ったり、感動体験を届けることでお得意さまを作るのが当然という風潮になっている。ジュンに関してはさらに一歩進み、接客で得た顧客の声を収集してサイトやコンテンツの改善まで行っている。

中嶋:日本のアパレルは今まで商品を作りすぎて、値引きしてでも販売せざるを得ない状況だった。われわれもシーズンエンドにセールで在庫を売り切ることを前提に生産をしてきたが、そのやり方から方向転換しつつある。企業が筋肉質な体質になって正規価格で売り切っていくことで、商品価値を毀損せず、利益体質もよくなる。そのためにはECでも店舗でも同じサービスを受けられるようにすること、チャネルを超えてお客さまとの接点を作り、接客を通して一人一人にお得意さまになっていただくことが大事だ。

チャット接客で得た
「顧客の声」でECを改善

WWD:どのようにECの接客体験を設計している?

中嶋:ECでは画像と動画、テキストでしかコミュニケーションできないので、それらが不便でない質で保たれ、自分で商品が選べるレベルであることが大前提。その次に自分で選べないお客さまへのアドバイスが必要だ。EC側にもチャット接客の販売員を配置したことでお客さまの悩みを聞けるようになり、お客さまからも「言葉だけでなく画像での接客が実店舗に近く感じた」「ブランドイメージもさらに好印象になり、今後もさらに購入したい!」と感動のお声をいただいている。

玉川:日本の接客レベルは世界一で、オフラインの体験が良すぎることも日本全体のEC化率が低い理由だと思う。「ECでも接客してもらえる」ということはお客さまが感動するポイントになるはずだ。

中嶋:現在ECではもともと店頭で働いていた15人の販売員がチャット接客をしている。メンバーはチャネルトークのシステム上で他の販売員の上手な対応方法を見たり、互いに情報共有したりしながら日々良いチャット接客ができるように学んでいる。販売員からの提案でできた機能もあり、それがコーディネートのコラージュ画像を活用した接客だ。

WWD:顧客からの要望はどのように上がってくる?

中嶋:日報が役立っている。ECの改善案も出ていて、販売員が指摘したEC上の情報抜けや画像の変更点などは翌日にはサイトに反映するのがルールになっており、圧倒的なスピードでPDCAを回せている。お客さまに最適なUI/UXを聞くことはできないが、日々お客さまと向き合う販売員が教えてくれる。

商品にもお客さまの声を反映している。これまでも店舗の販売員に商品の反応をヒアリングしてきたが、ECでは顧客がどういう機会に、何と何を比較して選んだかといった経緯もニーズも分からない。そういった情報をチャット販売員が伝えてくれるのも日報の役割だ。チャットを活用し始めた当初は、ここまで情報を活用するとは考えられなかった。

チャット接客で悩みを解決し
“お得意さま”を生む

WWD:チャット接客は満足度85%と好評だ。満足度につながるポイントは?

中嶋:チャネルトークはチャットツールでありCRM(Customer Relationship Management)なので、リピート客の情報が分かり、能動的にお客さまに商品提案できている。チャネルトーク以外のサービスでは顧客と一期一会の関係だったので、大きな変化だ。またチャネルトークを導入してからは、決済や配送といったお問い合わせの一次対応に関してはボットが返信している。

玉川:多くの場合、ボットはお客さまの話を聞く時間を減らすために導入されるが、ボットは早く返事をすることでお客さまの利便性を上げる使い方が正しい。ジュンはボットの活用と販売員による対応を出し分けていることが、お客さまの満足度にもつながっているのではないか。

中嶋:オンライン接客の目的は売ることではなく、お客さまの悩みを解決してお得意さまになっていただくこと。チャットで見る指標はコンバージョン率(Conversion Rate、CVR)ではなく、何件相談を受けたか、接客後アンケートでどれだけグッドコメントをもらえたか、お客さまをお待たせしなかったかという満足度につながるものだ。

玉川:CVRを上げるためにたくさんポップアップを表示して商品を勧めるECもあるが、そのせいで離れてしまう人のことはトラッキングできない。CVRだけにこだわるとライフタイムバリュー(LTV)は下がってしまう。顧客との関係を作ること、そのためにCRMを使うことが利益につながると考えている。

外商のような
手厚いVIPサービスも
チャット接客で

WWD:今後はチャット接客をどう進化させる?

中嶋:今後は百貨店の外商のように、顧客にパーソナルに寄り添うサービスをやりたいと考えている。弊社だけで購入してもらうためには“ここでしか得られない”という体験価値がないといけない。そういった質の高いサービスを非対面で提供するには、データによるアシストが必要なので、どう取り組むか考えていきたい。

玉川:チャネルトークとしてもお得意さまを分析して増やすための機能を準備している。また、チャットだけが重要だとは考えておらず、メールやLINE、インスタグラム(Instagram)のダイレクトメッセージ(DM)の会話も一元化できる。お客さまが好きなコミュニケーション方法を選べるといい。そのため、今後は電話接客機能も提供予定だ。

INTERVIEW & TEXT : ANNA USUI

問い合わせ先
チャネルトーク
info-jp@channel.io