ファッション

廃棄衣類繊維のリサイクルボード「パネコ」が引っ張りだこ デザイナーに聞いた意外な誕生秘話

 リサイクルボード「パネコ(PANECO)」がひっぱりだこだ。ワークスタジオが2021年の春に本格デビュー後、「H&M」が池袋店の什器の一部に採用したり、「ジョンマスターオーガニック(JOHN MASTERS ORGANICS)」が美容部員の700着分の制服をコースターにリサイクルしたり、さらにSHIBUYA109渋谷店が「パネコ」を使った衣服の回収ボックスを設置したりと繊維産業の課題解決の具体策として採用される事例が増えている。その誕生の背景や今後のビジョンについて草木佳大チーフ・サステナビリティ・オフィサー(以下、CSO)に聞いた。

 「パネコ」はワークスタジオが手がける廃棄衣類繊維を原料にしたリサイクルボードであり、熱可塑性樹脂を含まないプレス成形で製造されている。環境に配慮した什器デザインなどを手がけていた同社が「パネコ」の開発を始めたきっかけは、デザイナーでもある草木佳大チーム・サステナビリティ・オフィサーの個人的なできごとだったという。「4年前に幼なじみが亡くなり、葬儀の場で友人の父と始めてゆっくりと話をした。その方は繊維企業に勤めており、衣類をリサイクルしディスプレーする方法を探していると知り、何かできないかと考えたのがきっかけだった。試行錯誤するうちにふと、服を板にできたら喜ばれるのではと思いつき、研究を始めた」。友人がつないだ縁が今、可能性を大きく広げようとしている。

グレーの色は、廃棄される服の特徴を反映している

 服から生まれ、シンプルで持ち運びしやすく、可変性があり、何度でもリサイクルできる。それが「パネコ」の魅力だ。特徴的なグレーな色は、日本では落ち着いた色の服が好まれ、混合するとグレイッシュになるからだという。

 12月に開催した4回目の展示会では、会場となったモリリン本社1階の約100㎡のスペースを丸ごとつかい、従来の什器に加えてアパレルや飲食のポップアップストアのような空間を提案した。「『服が板になりました』とパネコを見せられても、それをどう使っていいかわからないという声が多いからここでは色々な使い方を表現した」と草木CSO。色も従来のグレーに加えて、ピンクやブルーなどが加わった。色つけに染料は使わず、廃棄衣料の中から色のついた服を選別しリサイクルしている。

“工場に集まった服は一着も捨てないと言い切れる”

 「パネコ」のために集めた衣料はまず、提携している和歌山の福祉施設に集め、ボタンやファスナーを外し、プラスチックハンガーなど「繊維ではない」部分を仕分ける。多い時で月10トンほどの衣料の仕分けを担当するのは、同施設が採用するハンディキャップがある人たちだ。「パネコ」の成長とともに規模を拡大し、今では約10人の専属チームが技術とノウハウを蓄積している。今回の「色」もそのチームの仕分け作業があるから実現した。「彼らもスピードがアップしスペシャリストになってきている。応援してくれているから面倒くさいことも一緒にチャレンジしてくれるのはありがたい」。

 仕分けを追えた衣料は、協力工場へ運び成形する。今回は色付けのために選別をしたが、そもそもの「パネコ」の強みは、「繊維の仕分け」を必要とせず、服の素材を問わず、品質表示もついたまま成形ができることである。回収後の仕分けは繊維リサイクルの最大の課題と言っても過言ではない。それを丸っと省き、「工場に集まった服は一着も捨てていないと言い切れる」ことは大きな強みだ。

成形の接着剤は「こだわりの8%」

 成形にはバインダーを全体量の8%使用し、熱を加えて固める。「こだわりの8%です。これだと硬さも木版に近く、再リサイクルができる。我々が自分たちに課しているルールは『パネコ』自体も再リサイクルが可能であることです。アパレルの人たちに“服を捨てたらあかん”といっている僕らが廃棄していたら意味がなく、“作った責任”を取れることもデザインの一環です」。

 接着剤は化学物質を含む。「できれば自然由来のものを使いたいが、日本には流通量が少ない上に全体量の30%入れないと硬さが保てない」。今できることを最大限に、実用的に、は「パネコ」のデザインの特徴だ。「普通に服を固めると汚いボードになる。僕らもデザイナー集団なので、リサイクル素材だったらなんでもいいのではなく、そもそも魅力的なマテリアルであることが大切。可愛い、素敵、あったかい、実は環境に良い、というのが大事な物語。見た目で選ばれて国内で完結しているリサイクルだと自負している」。

 什器、小物から空間へ提案が広がる中で新しい課題も出てきた。建材の領域は、耐摩耗性や表面強度、不燃などさまざまなテスト問題をクリアし、建築家が安心して使える素材であることが重要だからだ。今回の展示会で見せたのは、ポップアップストアなどに適した可変性ある空間。釘などは使わず、日本の「木組」からヒントを得た手法で、パネルの凹凸を組み合わせることで構成している。

「リサイクル後」の絵を描けるプロジェクトは成功しやすい

 「パネコ」がアパレル企業と取り組む際にこだわっているのは、「回収・リサイクル」の循環を一緒に創出することだ。余剰在庫の回収だけ、といった依頼は基本的には受けておらず、「それをどうリサイクルし活用するか」を合わせてプロジェクト化する。

 「僕らは回収で生業を立てていないので、パネコにして使ってもらってナンボ。だから『余剰在庫を回収してほしい』という依頼から入ると正直、止まりやすい。売れ残りを『パネコ』にすれば『捨てない』結果は得られても、店舗で使用する段階で『ブランドイメージに合わない』、『価格が合わない』といったもめ事がおこりがちです。逆に店舗デザインチームがリードするケースは、リサイクル後の絵が見えているからスムースに進みやすい」という。「店舗改装を見据えて回収ボックスを設置し、来店客から集めた服を『パネコ』化し、新店の内装に使用するといった顧客参加型の循環ストーリーが盛り上げる」。

同世代と猛進したい

 草木CSOいわく、企業内の循環アクションが「うまくいく」、もうひとつのポイントは、彼と同世代である「30代くらいの、現場寄りのリーダーが、猛進して周りを巻き込むケース」だというから面白い。「環境は新しい分野だからか、先輩世代より僕らの世代の熱の入り方が本気だとも思う。確かにトップダウンの方が決済はおりやすいけれど、どう使うかは結局現場。数字や売り上げももちろん大事だけど、『こんなことしたい』などクリエイティブな発想を持つブランドとの方がよい結果が出やすい」。草木CSO自身、パネコ誕生の際には猛進した。「ワークスタジオはリサイクルの会社でもないけど、原社長はアイデアに可能性を感じて、ゴーサインを出してくれた」と振り返る。「原いわく、日本に石油はないけれど、街には服がたくさんあるからそれを原料にいろいろなことができると。確かにそう思う」。

 今後の課題は量産化とデザインのバランスだ。現在の生産体制では年間の生産キャパシティは50トンで上限に近づいている。「脱廃棄社会をうたっている以上、50トンではわずかな貢献にしかならない。ゴールは、廃棄衣料がなくなってパネコを作らなくて良くなったとき。そのためにもこのノウハウを広げるべきと思うが、かといって量産化により意匠性が失われる。標準化した量産と、デザイン性のあるこだわり。その2軸を作っていきたい。」。

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