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200年の歴史を持つ仏フレグランスメゾン「ドルセー」、アメリー・フインCEOのリブランディングへの思いをひも解く【香水ジャーナリスト連載 Vol.6】

 200年の歴史を持つフランスのフレグランスメゾン「ドルセー(D’ORSAY)」は、2020年12月に日本に再上陸し東京・青山に路面店をオープンした。コロナ禍を経て来日したアメリー・フイン(Amelie Huynh)「ドルセー」CEOに、リブランディングの経緯や今後のビジネスの展望について聞いた。

―― 2015年に「ドルセー」をリローンチする前は、ジュエリー業界に従事していた。フランスの歴史ある香水ブランドの中から「ドルセー」を手掛けた理由は?

アメリー・フイン 「ドルセー」CEO(以下、フイン):フランスには古きも新しきも数多のフレグランスブランドが存在するが、「ドルセー」はオーナーが変わりながらもずっと続いてきた点に興味を持った。「ドルセー」は、フランスでは誰しも知っているブランドだが、1980年ごろには小規模になっていた。だから私はまるで“眠れる森の美女”を見つけたような気分だった。このまま眠らせておくのはもったいない。そして何より、「ドルセー」の創設者であるアルフレッド・ドルセー(Alfred d’Orsay)伯爵と、マルグリッド・ブレシントン(Marguerite de Blessington)との禁断の愛の物語が、事実に基づいたストーリーであることにも感銘を受け、買収を決意した。

――「ドルセー」のリブランディングにあたり、どんなコンセプトを考えたか?

フイン:「ドルセー」には200年の歴史があり、歴史が持つメッセージ性と美意識を残したいと考えた。ドルセー伯爵が現代に生きていたら、間違いなくトップインフルエンサーの一人になっていたと思うほどおしゃれの先駆者。飽くなき美意識の持ち主でアーティスト、クリエイターでもあり、絵を描いたり彫刻やペイントを行ったり才能にあふれた人物だった。それらをブランドに反映したいと思った。それぞれの香りでさまざまな愛の形を表現している。ボトルに愛のメッセージを添えたのも、ブランドアイデンティティーの一つ。例えば“06:20”というホームフレグランスには、「あなたが知っている所」というメッセージを添えている。“恋人同士だけが知りうる、いつもの場所”という意味を込めた。

――香りが想像できる香水名をつけるブランドもあるが、イニシャルやフレーズをボトルに記す理由は?

フイン:ユニークなアイデアでほかのブランドと差をつけたいと考えたから。副題から香りにまつわるラブストーリーを感じてもらえるよう、あえて含みを持たせた。また、“秘密の愛”がブランドストーリーの根底にあるので、全てのイニシャルに秘密を感じるようにした。当時は通信方法が手紙しかなかったため、イニシャルでメッセージを送り合っていた。恋文の中に出てくるであろうフレーズを香りの副題に選んでいるのもそうした理由からだ。

――全てに愛のテーマが含まれているか?例えば“C.G.”という香りは牧歌的で、あまり恋愛的な要素は感じない。

フイン:“C.G.”の愛のテーマは、“tender love”つまり優しく思いやりのある愛。朝露を思わせる香りは、早朝の散歩へのインビテーション。副題の「どこか他の場所へ行きたい」というメッセージは、誰かを思ってどこかへ行きたい気持ちが込められていて、菩提樹の花の優しい香りになっている。

―― 1912年に発表した香り“ティユル(Tilleul)”は、調香師のオリヴィア・ジャコベッティ(Olivia Giacobetti)により2008年に再解釈され、現「ドルセーで」は “どこか他の場所へ行きたい C.G.” として香りを現代的に作り変えている。

フイン:“ティユル”はブランドを代表するアイコニックな香りだから、リブランディングしても残したいと思った。2008年に一度再解釈されているが、リブランディング後も引き続きオリヴィア・ジャコベッティにバージョンアップしてもらった。現在は使用できない香料を取り除き、“どこか他の場所へ行きたい C.G.”というタイトルの香りに生まれ変わった。フランスでは“ティユル”に馴染みのある世代もいて、70歳代の顧客に“どこか他の場所へ行きたい C.G.”をお求めいただくこともあるほど、「ドルセー」にとって大切な香りの1つだ

――過去の「ドルセー」の香りの中で “ティユル” 以外で人気のあった香り、例えば、“ル ダンディ(Le Dandy)”“エチケット ブルー(Etiquette Bleue)”などは、現「ドルセー」でもカムバックしているか?

フイン:“エチケット ブルー”は、現在の「ドルセー」では “心を込めて L.B.”というタイトルになっている。オレンジブロッサムをミドルノートにたっぷり使用しネロリやアイリスが清潔感を与えているが、ラストノートはモスやアンブロクサン、ムスクの少しダーティーな雰囲気をまとっているのが、ドルセー伯爵とマルグリットの道ならぬ恋を彷彿させる。この香りは女性調香師に作ってほしいと思い、ファニー・バル(Fanny Bal)に依頼した。彼女の師匠は、著名な調香師ドミニク・ロピオン(Dominique Ropion)だ。“ル ダンディ”は1925年の発売当時、「ダンディな男性をゲットするならこの香りをまとおう」というテーマで女性向けの香りとして登場した。その後99年に発売した “ル ダンディ” は、男性向けにウイスキーやラム、イエローフルーツ、スパイスなどが使われている。現在は“ダンディ オア ノット G.A.” というタイトルで、シンプルでユニセックスな香りへと進化させた。どちらの“ル ダンディ”にも含まれていたパチュリやカルダモンも使用し、ジェンダーを問わず使っていただけるダンディな香りができあがった。

――リブランディング後、オリヴィア・ジャコベッティ以外で新たに起用した調香師はどう選んだ?

フイン:調香師には個性や得意な分野があるため、作りたい香りにマッチする人を選んでいる。例えば、“恋人同士 M.D.”はパロサントがメインの香りだが、旅好きで気さくなベルトラン・ドゥショフール(Bertrand Duchaufour)なら、愛と旅とパロサントを融合した香りを作れると考え依頼した。“ダンディ オア ノット G.A.”を作ったシドニー・ランセッサー(Sidonie Lancesseur)は、パチュリを扱うのが得意な調香師。シンプルなショートフォーミュラで素晴らしい香りを作る。“心を込めて L.B.”を作ったファニー・バルは、砂糖とは違う甘い香りを作るのが得意で、甘いフローラルに生かされた。

―― 2020年末、コロナ禍で世界的に厳しい状況の中、パリのサンジェルマン・デ・プレの旗艦店に続く2号店を青山にオープンした。

フイン:コロナ禍でのオープンはチャレンジングだったが、その先の未来への準備として覚悟を決めた。19年6月にフランスで旗艦店をオープンし、その年の後半には新型コロナウイルスの影響が出始めていた。日本は個人的にも大好きで何度も来日していたので、日本とフランスで共通する美意識の高さや細部へのこだわり、モチベーションの高さ、センスの良さを共有できるのはとてもエキサイティングだ。

――今後のビジネスの展望は?

フイン:これまでイギリスの有名百貨店ハロッズや、パリのギャラリー・ラファイエットのほか、5月には韓国のコンセプトショップでコーナー展開がスタートし、現在世界19カ国で販売している。現在は製造に時間やコストがかかる問題があるが、積極的に販路を拡大していく。2年間で、独立店舗も含め全世界で90店舗程度の展開を目指す。独立店舗はすでにあるパリと東京以外に、ロンドン、ミラノなどにオープンできたら理想的だ。

――フランスと日本で人気の香りに違いはあるか?

フイン:日本で圧倒的人気が “最高の自分 M.A.”。バイオレットやアイリス、ホワイトムスクを使った香りで、繊細に香るため日本人に支持されているのかもしれない。フランスで人気なのは “どこかほかの場所へ行きたい C.G.”。ブランドのシグネチャーフレグランスであり、オリヴィア・ジャコベッティ作という点が人気の理由。ベルトラン・ドゥショフールが手掛けた “恋人同士 M.D.”も好調。香水業界の専門家からの評価が高いのは、新作の “あなたにイエスと言う V.H.”だ。“永遠の愛・無条件な愛” をテーマにした香りで、サフラン、ブラックペッパー、ローズ、ベンゾインなどを使ったスパイシーでウッディなノート。パンデミックで心が弱った人々も、パワフルさを感じていただける力強い存在感のある香りだ。日本ではこの秋に発売した。

■ドルセー青山本店
住所:東京都港区南青山3-18-7 1F
営業時間:12:00~20:00
電話番号:03-6804-6017


YUKIRIN
美容・香水ジャーナリスト
香水・香り関連商品と、ナチュラル&オーガニック美容分野に特化した記事を執筆。女性誌などのメディアで発信する。化粧品や香り製品のコンサルティングやイベントプロデュースなど幅広く活躍。「日本フレグランス大賞」エキスパート審査員、「イセタン フレグランス アワード2019」審査員などを務める

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