ビューティ

キンモクセイや紅茶の香りが大ヒット 「シロ」人気の香りが誕生する背景に“日常”と“想い”

 コロナ禍を経て消費者のニーズは一変した。ビューティ業界でも例に漏れず、在宅時間が増えたことから“香り”の重要性が高まった。リモートワークのオンオフの切り替え時に、気持ちをリラックスさせたい時に、また好きな香りでケアしたいとフレグランス以外にもボディーケア、バスケア、ディフューザーなど香り系アイテムの需要が拡大した。そこから香りのトレンドも多く生まれ、ここ数年は金木犀の香りや紅茶の香りが人気となっているのは記憶に新しい。

 今や各社から出ている金木犀や紅茶の香りだが、話題となったきっかけはコスメティックブランド「シロ(SHIRO)」だろう。どちらの香りもいち早く2018年に限定で登場し、オードパルファンやフレグランスディフューザー リキッド、ハンド美容液など拡充して人気シリーズに育成した。そんなトレンドの香りを生み出す「シロ」のフレグランス開発についてシロ・マーケティング部門企画Gの田﨑菜月マネジャーに話を聞いた。

WWD:人気の香りのアイデアはどうやって生まれている?

田﨑菜月マーケティング部門企画Gマネジャー(以下、田﨑):フレグランスに限らずブランド全製品に共通して言えることですが、モノ作りにおけるマーケティングを一切行っていません。一般的に製品を開発するにあたっては、競合の調査やコンセプト作り、ターゲット設定、価格設定などを行いますよね。われわれは他社を調べることもしていません。では、なにをきっかけに製品を誕生させているのかというと、“日常”や“想い”から生まれることが多いです。スキンケアの場合は、良質な素材との出合いも大きく関係しています。

WWD:「シロ」のフレグランスは細かい設定を行わない、真逆の考えで開発する。

田﨑:1つ目の“日常”ですが、沈丁花の香りをイメージした「パウダーリリー」(限定)や「キンモクセイ」、「アールグレイ」の香りはまさに企画内スタッフの日常から生まれた香りです。私は普段散歩している時に、心が少しでも動いたことはiPhoneのメモ機能に書き込んでいます。香りに限らず、「わっ!ステキ!」と思ったことなどなんでもメモ。金木犀も、みなさんきっと心が動く香りですよね。「作りたい」「欲しい」と気持ちが動くきっかけとなり、誕生した香りです。

 2つ目の、誰かのためにという“想い”は、例えば毎年春先に限定発売する桜の香り「さくら219」は、一人の受験生との出会いから始まりました。「シロ」が大好きな彼女の受験を応援するために、「桜が咲きますように」という願いを込め、219回の試作を重ねて香りが誕生しました。また、ブランドの限定フレグランスの原点となる香り「ハッピーヴァーベナ」は、11年の東日本大震災でなにか応援できることがないかと開発。もともと定番で発売していた「ヴァーベナ」の香りを心が元気になるようにと改良してボディーシートなど全製品を被災地へ届け、製品の利益を寄付しました。

WWD:コロナ禍でアルコール製品をいち早く発売していたのも誰かのためにという“想い”から。

田﨑:コロナの感染拡大後すぐに何か役立つことはできないかと、企画から1カ月以内でアルコール65vol%配合の「チャクラーサナ スプレー65」を発売し、その後もアルコール濃度80vol%のスプレーとジェルも発売。消毒時も気持ちが上がるようにとオレンジやゼラニウムが香る「チャクラーサナ」と、ブランド人気ナンバーワンの「サボン」の2種を用意しました。

WWD:香りのきっかけは“想い”。そこからどのように製品に落とし込む?

田﨑:想いが先にあると、そこからのアイデアはどんどん広がっていきます。例えば「さくら219」の場合は、受験生が使用するシーンを想像し、「受験勉強をしながらだと香りの強さはこうだよね」「ハンドクリームが1番使いやすそうだな」など、具体的な香りのイメージが仕上がっていきます。23年発売の「さくら219」には、ファブリックソフナーも登場しますが、これは家族から受験をがんばる我が子へのエールとして開発しました。受験は本人が頑張るのはもちろんですが、衣類をいつも「さくら219」の香りにしてもらいたいという想いでアイテムが決まっていきます。

WWD:人気の香りは狙ったものではなく、自然とトレンドになっていた。

田﨑:「キンモクセイ」「アールグレイ」の人気は、まさかここまで!と驚きです。皆さまから支持されて気付いたことですが、香りの名前付けは重要だと実感しましたね。「キンモクセイ」という名前ではなく、もっと異なるネーミングにしていたら伝わっていなかったと思います。単純に金木犀がいい香りだったから、「キンモクセイ」を作ろうとストレートに決めたのが、お客さまには分かりやすかったようです。あとは、ブランドスタート時から地道に店舗でムエット(試香紙)を配り続けていたので、いい香りだねと少しずつ輪が広がって着実にファンを増やしたのだと思います。

WWD:「シロ」の売り上げの過半数はフレグランス。香りに注力するようになったのはいつから?

田﨑:スキンケアのイメージが強い人もいるかもしれませんが、実は「シロ」はずっとフレグランスカテゴリーの売り上げが1番高い。定番品に加え、16年からは毎月限定フレグランスを出しているほどです。なぜここまで新しい香りを誕生させているかというと、お客さまがふらっと店舗に立ち寄った時に常に新しい香りを感じて欲しいからです。「シロ」に来店するたびに、新しい香りに出合えるかもしれないというワクワク感を持って欲しいですね。

WWD:思い出深い香りの製品は?

田﨑:2019年に登場したパフュームシリーズ「SHIRO PERFUME」ですね。フレグランスも毎日自分の洋服を選ぶようにアイデンティティを表すように使ったら楽しいのではないかと考え誕生しました。同シリーズは、日本やフランス、スペインなど各国のパフューマーが、自身のアイデンティティや香りに目覚めたキッカケを込めた12種の香りをラインアップ。例えば、「インセンス クリア」の香りはお寺の息子でもあったパフューマーの慣れ親しんだお香がベースに、「パリジャン シャツ」の香りはパフューマーの父が白いシャツにウッディコロンをまとっていた思い出から生まれています。香りが個性を表すものになったらいいですね。

WWD:ブランドでのフレグランスの立ち位置やあり方は。

田﨑:フレグランスを通して「シロ」を知ってもらうことが多く、新規のお客さまはブランド人気の香り「サボン」「ホワイトリリー」の香りをきっかけにする場合が多いです。製品も4カテゴリー18種類と間口が広いので、まずはオードパルファン、ハンド美容液などから入る人も多いですね。そのため、ファーストタッチとなるフレグランスの限定品は、引き続き毎月発売していきます。もちろん企業理念にある「世の中を幸せにする」を念頭に置きながら、誰かへの想いや日常での素敵なことを形にしていきます。お客さまが笑顔になり、そして世の中が幸せになることがブランドの目指していくことですね。

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