ファッション

「デザインだけでなく、価格帯や多様性、環境に対してもフレンドリーでありたい」 ギョーム・アンリが語る「パトゥ」でのクリエイション

ギョーム・アンリ(Guillaume Henry)=アーティスティック・ディレクターが手掛ける「パトゥ(PATOU)」にとって、2022年は大きく前進した1年だった。20年春夏シーズンのデビューから高い完成度で打ち出された「パトゥ」スタイルはシーズンごとに少しずつバリエーションが広がり、2月には世界初となる旗艦店を東京・表参道ヒルズにオープン。7月には、それまではプレゼンテーションで発表していたコレクションを初めてショー形式で披露した。ブランドの世界観を体現する旗艦店で、6年ぶりに来日したギョームにブランド再生の歩みやコレクションへのアプローチについて聞いた。

 

WWD:久しぶりに東京に来て感じたことや変化は?

ギョーム・アンリ(以下、ギョーム):「パトゥ」に入ってから東京に来るのは、これが初めて。日本は「パトゥ」への支持が厚いマーケットでずっと来たかったのに、新型コロナウィルスの影響でずっと来日できなかったからね。まだいろんなところを訪れることはできていないけれど、街中で見かける人は皆オシャレを自由に楽しんでいて、ファッションのエネルギーを感じる。

WWD:ここは「パトゥ」初の旗艦店だが、ようやく実際に見られた感想は?

ギョーム:本当にエキサイティング!「パトゥ」にとって初めての旗艦店だったし、ずっとFaceTimeを通して進めてきたから、店舗をデザインするのはチャレンジでもあった。だから、ここに来るまでは正直ナーバスだった。でも、ブランドのファンタジーや価値観、アトリエのような雰囲気が表現されていることを実感できて、とても気持ちが高まったよ。

WWD:「パトゥ」(かつての「ジャン・パトゥ」)は歴史あるフレンチメゾンだが、そのアイデンティティーや“らしさ”をどのように捉えている?

ギョーム:「ジャン・パトゥ」は100年以上も前に設立されたブランドだが、1996年からずっと休眠状態だった。そんなブランドを復活させるということは興味深く、 “再生”であると同時に“創造”でもあったと言える。オフィスや既存のビジネスも、きちんとしたアーカイブもない状態からのスタートだったからね。それに、「ジャン・パトゥ」があまり知られていなかったマーケットにとっては、「パトゥ」はまったく新しいブランド。だからブランドがもつ価値にフォーカスしつつ、現代のためのブランドを作り上げることに取り組んだ。重きを置いたのは、ジャン同様のクチュールの精神やアトリエでの仕事を大切にしながらも、今を生きる女性たちが日常生活の中で着られる服を提案すること。それはジャンの価値観にも通じる部分で、彼の最初のミューズは実の姉だったし、彼は当時からクチュールだけでなく街中で着るためのスポーツウエアを提案していた。そして、パーティーが好きだったジャンのようにフレンドリーなブランドであることも、大事な要素。「パトゥ」っていう響き自体にも、ニックネームみたいな親しみやすさがあると思う。デザインだけでなく、価格帯や多様性、環境に対してもフレンドリーでありたいと考えている。
 デザインとしては、ジャンだけでなく、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)やミシェル・ゴマ(Michael Goma)、クリスチャン・ラクロワ(Christian Lacroix)が手掛けていた時代もある。アーカイブそのものから着想を得ることはあまりないけど、その根底にあるスポーティーさやシンプルさ、ドラマチックなボリュームを「パトゥ」らしさと捉えている。マインドとしてはジャン・パトゥと常に共にあるけれど、彼が提案したモノをアレンジして再現する“リクリエイション”というより、新しいモノを生み出す“クリエイション”という感覚だね。

WWD:「パトゥ」でコレクションをデザインするときに常に心掛けていることは?

ギョーム:着る人の魅力を引き立てるモノでありながらも、毎日の生活のニーズに応えるモノであること。ファッションは時に夢やファンタジーであり、尊重はするけれど、それだけになってしまうのは「パトゥ」の価値観にはそぐわないと思う。その一方で、ベーシックな白シャツのようにリアルなだけになってしまうのも違う。日常生活で着られるリアリティーと、ファッションが生み出すファンタジーのバランスが重要なんだ。ドローストリングによってシルエットやボリュームを自由に変えられるアイテムは、まさにそれを象徴するもの。着こなし方や組み合わせ方によって、控えめからエッジーまで自分らしさを表現してほしい。

WWD:自分らしさを表現するという点でいうと、2023年春夏コレクションは「WHO IS YOUR MUSE?(あなたのミューズは誰?)」をタイトルに掲げていた。提案したスタイルも、「パトゥ」らしさを感じるラッフルやバルーンスリーブが特徴的なルックやソフトなテーラリングから、スポーティーなスタイル、ミニマルなドレスまでが提案され、より幅広い女性像が描かれているようだった。

ギョーム:コレクションが同じようなアイテムの繰り返しではいけないと思っている。ファッションは夢の空間なだけではなくプロダクトでもあるから、他のアイテムを台無しにするモノは作りたくない。小規模なコレクションの中でも、同じフィロソフィーと価値観をもった多様なアイテムを提案したいんだ。メニューに適切な数の選択肢が用意されたレストランのようにね。そして、着用者に僕自身が思い描いたイメージを強いることは決してしたくない。それぞれのコレクションはストーリーをベースにしているけれど、それは僕自身のストーリー。僕のストーリーを着用者に押し付ける必要はない。だから、店に並んだ時点で、コレクションは僕のモノではなく、それぞれの人生を歩んでくれればいいと思っている。「パトゥ」を着用している人が僕のことを知らなくてもいいし、僕がデザインした服を着ている姿を見るだけでハッピーなんだ。

WWD:23年春夏のショーにはメンズも一人登場したが、その意図は?

ギョーム:昔は自分のことを“ウィメンズ・ファッションデザイナー”と言っていたけど、今はシンプルに“ファッションデザイナー”と表現している。もはやファッションにジェンダーは関係ないし、ショーでは「パトゥ」は誰でもウェルカムということを伝えたかった。男性が「パト
ゥ」を着てくれているのを見るととてもうれしいし、日本人の男性にはぴったりフィットする人も多い。昨日イベントを開いた時にも「パトゥ」の服を着こなしてくれている男性がいて、「うらやましい!」と思ったよ(笑)。

WWD:メンズコレクションを作りたい気持ちはある?

ギョーム:もちろん!「カルヴェン(CARVEN)」ではメンズも手掛けていたから懐かしいし、とても楽しんでやっていたからね。でも始めるには、市場があるかをきちんと見極める必要があると思う。

WWD:「パトゥ」でショーを開くのは23年春夏が初めてだった。今後もショー発表を続けるのか?

ギョーム:次回は、来年1月27日の朝にパリでショーを開く予定だよ。(以前のように)プレゼンテーションでコレクションを話しながら見せるのもよかったけれど、デビューシーズンから3年がたち、服を動きの中で見せる必要性を感じている。シルエットからキャスティングまでを通して、「パトゥ」の全体像を表現したい。

WWD:今後、「パトゥ」で取り組みたいことは?

ギョーム:セラミックなどのホームコレクションは興味深いけど、「パトゥ」は小さなチームだからね。ただ、22-23年秋冬にコラボしたラバーブーツブランド「ル シャモー(LE CHAMEAU)」のような専門ブランドと一緒にモノ作りに取り組むのも面白いと思う。来年1月に披露する23-24年秋冬コレクションでは、また別のエキサイティングなコラボがあるから、楽しみにしていてほしい。

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