マッシュスタイルラボの「リリー ブラウン(LILY BROWN)」は、丸山敬太デザイナー手掛ける「ケイタ マルヤマ(KEITA MARUYAMA)」とのコラボ商品を2023年春夏と23-24年秋冬に発売する。4月に阪急うめだ本店でのポップアップストアを実施するほか、都内での実施も検討する。
20〜30代の今どきの女性に支持を受ける「リリー ブラウン」と、1990年代から長年、国内デザイナーズブランドの一角として人気を博す「ケイタ マルヤマ」。意外ともとれる組合わせだが、近藤広幸マッシュホールディングス社長は、「(丸山)敬太さんが作るのは一つ一つが独自性にあふれた、いつまでも“捨てられない”服。タイムレスな服の価値を大事にする『リリー ブラウン』にとって、(コラボの)学びは大きい」と語る。丸山デザイナーも「今の時代の真ん中で活躍する人たちと一緒に服を作れることに、純粋にワクワクする。(新型コロナ禍からの)時代の変わり目に、新しいムーブメントを作りたい」と応じる。
型数は15型程度、Tシャツ、ワンピース、ボトムス、雑貨などをラインアップし、中心価格は4000〜2万円を予定。4万円程度のスペシャルなドレスも制作を進めている。企画はまだ構想段階だが、2人にコラボの意図や展望を聞いた。
WWD:どんなコラボ商品ができそうか。
丸山敬太デザイナー(以下、丸山):「リリー ブラウン」とうちとでは、“オリエンタル”“ビンテージ”といった共通項があります。それらを生かして「ケイタ マルヤマ」らしいチャイナ的要素や刺しゅうを足し算していきたいと考えています。ただデザイン面では僕がリードするわけではなく、あくまでリリーの企画チームが主体です。
近藤広幸社長(以下、近藤):企画室を覗くと、(丸山)敬太さんが先生、うちの企画チームが生徒、というような光景がよくあります(笑)。今回のコラボでは敬太さんの力を借りながら、自分たちのファンになってくれた人たちに向けて、一点一点、ものの作り方や表現の仕方を考え直す機会にしてほしいと考えています。
WWD:協業の経緯は。
近藤:「リリー ブラウン」は3.11で日本中が元気がなかった時に、花のような素敵な女性が世の中に広がって、彩(いろどり)のある国に戻ってほしいという思いを込めて作ったブランドです。“ヴィンテージフィーチャードレス”をコンセプトに、普遍的なデザインを今の女性が着たいと思えるムードに昇華し、ビンテージの買い付けなどを含めて提案してきました。新型コロナが明けようとしている23年に、モノ作りや歴史といったストーリーで服の“深さ”を感じていただけるブランドとして、再び世の中にメッセージを出していきたいと考えています。
そのための然るべきコラボ相手を探っていたところ、ぱっと頭に浮かんだのが敬太さん。当社の展示会にいらっしゃったときも、直接お話はできなかったけれど、ときどき遠巻きにお姿を見ていました。(『ケイタ マルヤマ』がスタートした)90年代から僕自身ファンで、周りにもチャレンジする人は多かったんです。唯一無二の世界観ながら独りよがりではなく、「気分が変わったから」と簡単には捨てられないような服を作っている。
WWD:「ケイタ マルヤマ」では、顧客から集めた古着をリメイクして売るプロジェクト「リマリッジ」もスタートしている。
丸山:僕、実は「ケイタ マルヤマ」の古着をフリマサイトで集める趣味がありまして(笑)。すると、昔のコレクションがいい状態で出品されていることもよくあって、「こんなに長い間持っててくれたんだ」「大切にしてくれていたんだ」と驚きます。サイズアウトしても捨てずにとっておいて、「どうにかできないか」と店に持ち込んでくださる方も多く、このプロジェクトの立ち上げにつながりました。
近藤: ブランドの服を本当に欲しいと思ってくださる方々がいらっしゃる。そんなお客さまに向けて、敬太さんのように一つ一つ“お手紙”のような服を届けていくことが、再び大切な時代になると考えています。
丸山:なるほど。僕から見たマッシュさんは、大きな会社ではあるけれど、昔からある「大手アパレル」とは全く異なる存在。SNS上で生まれる共感からファンをどんどん増やし、その方々に向けて服を作っています。だから、僕にとっても「リリー ブラウン」の服作りは新鮮なんです。なんせ僕がブランドを始めた28年前はインターネットもなかったころ(笑)。
近藤:インターネットなかった時代と今では、服を購入するまでのプロセスがガラッと変わりました。かつて洋服の買い物は、リアルの場で商品に触れ、作り手のメッセージを感じて家に連れて帰るものでした。しかしインターネットが普及した今は、携帯の中の「情報」として洋服を知る。だから服の売り方も、新作やトレンドの情報合戦になってきてしまった面があります。
丸山:そういう意味でも、僕は自分のことを今のファッション業界の中心にいる人間とは思っていません。コラボを通じて学ばせていただくことは多いと思っています。
それに、「リリー」とは根底でつながれる部分があるなとも思っていて。それを一言で表すなら、服への“熱量”かな。僕は、会社にコレクションブランドのショーのルックをそのまま会社に着てくるような、異常な時代も経験してきました。でもこの会社(マッシュ)に来ると、それに近い雰囲気も感じることができるんです。社員が皆かわいくおしゃれをして、何より自分のブランドを好きで着ている。すごく当たり前のことだけれど、それができる作り手は今やすごく少ないし、その情熱は、きっとお客さまにも伝わるんじゃないでしょうか。
「感性」を刺激するコラボに
WWD: 23年は新型コロナ禍から、社会がいよいよ前へ向かって進み出す年になりそうだ。
近藤: そんなときだからこそ、ファッションには女性たちを後押しできるパワーがあるはずです。今回のコラボは単に服が売れるかどうかではなく、お客さまの「感性」をいかに刺激できるかの方がよっぽど大事だと思っています。今回のコラボ商品と合わせて、「ケイタ マルヤマ」の古着に「リリー」らしいプリントや刺しゅうを乗せて売っても面白いかもしれません。あと、個人的にはローンチに合わせて、若い子が華やかな服を着て集まるナイトパーティーをやってみたい。これは敬太さんにも、この場で初めてお伝えするアイデアなんですが。
丸山: コロナ禍はムーブメントが起きにくい時代でした。ファッションが作り出す高揚感や空気感を、そろそろ世の中に取り戻していきたいですね。僕らの3年と若い子の3年では、失った時間の重さは全然違うでしょう。ファッション=洋服ではないし、本来は音楽とかアートとか、さまざまなカルチャーをつなげる役割がある。女の子がすてきな服を着て集まる場作りなど、まず僕らが率先して面白い仕掛けができたらいいですね。