REPORT
喝采を浴びたデムナ・ヴァザリアによるデビューコレクション
デムナ・ヴァザリアがアーティスティック・ディレクターに就任して初の「バレンシアガ（BALENCIAGA）」は、クチュールワークとストリート感覚を融合した期待通りの内容で喝采を浴びた。
会場はテレビ局のスタジオで、防音壁に囲まれた空間に管弦楽器が耳に残るドラマチックな音楽を大音量で流し、モデルを足早に歩かせた。モデルの半数は、SNSで見つけた女性やデムナの友人であり、若々しい。
ファーストルックは、シンプルなグレーのスーツ。身体を包み込むコクーンシルエットは一見で「バレンシアガ」のアーカイブをほうふつとさせ、すくめたような肩のフォームは数日前に発表した「ヴェトモン（VETEMENTS）」そのもの。まさに「バレンシアガ」であり「ヴェトモン」だ。
デムナがバックステージで繰り返した言葉は「クチュールのアティチュード」。コクーンシルエットなど、「バレンシアガ」のアーカイヴに見られる独創的な形を採用しつつ、それを忠実に再現するのではなく、現代女性にとってリアリティーのある形やアイテムへと落とし込んでいる。いわゆるカクテルドレスに相当するアイテムは数体のみ。他は、トレンチコートやダウンジャケット、ナイロンパーカー、ブリティッシュチェックのパンツスーツ、袖が長いコットンシャツ、フラワープリントのワンピースなど一般的な現代女性のワードローブが並ぶ。しかし、そのどれもが“普通”ではない。腰の丸み、広がったデコルテや後ろに落ちた襟足、前へスイングする裾など、女性の身体を忠実になぞるのではなく、体と服の間や服の周囲数センチの空間を含めて形を構築することで、一見して「バレンシアガ」と認識できる個性につなげている。
この服と身体の“間”は新しい「バレンシアガ」の大きな特徴である。デムナが説明に多用したもうひとつの言葉は「建築的アプローチ」。確かに、例えば建物の吹き抜けはそこに空気しか存在せずとも開放感やリラックスといった人の心理を引き出すように、新しい「バレンシアガ」は、服と体の“間”が女性の夢や自信、時に戸惑いや怒りをも語っている。
ショーからは、アーティスティック・ディレクターとアトリエの良好な関係も伝わってきた。時代の空気を敏感に切り取るデムナの感性はアイテムのセレクトや“間”のさじ加減に注ぎ込まれ、アトリエのクチュリエたちがそれを形に落とし込む。オートクチュールをルーツに持つ、ラグジュアリーメゾンならではの関係性だ。
フードの前面に「ヴェトモン」風に「BALENCIAGA」のロゴを施したり、100円均一ショップで売っているビニールバッグを模したカラフルなレザーバッグを登場させたりとキャッチーな要素も随所に。明確なディレクションが今後、他のアイテムにどのように落とし込まれるのか。さらにキャンペーンビジュアルやSNS、店頭でどのように反映されてゆくのか。デムナによるトータルディレクションの行方も注目したい。
