「サンローラン(SAINT LAURENT)」は、パリ・メンズ・ファッション・ウイークに参加し、2023-24年秋冬シーズンのメンズコレクションをショー形式で現地時間17日に発表した。会場は旧証券取引所を建築家の安藤忠雄が改築した現代美術館「ブルス・デ・コマース(BOURSE DE COMMERCE)」。ケリング(KERING)のフランソワ・アンリ・ピノー(Francois Henri Pinault)会長兼最高経営責任者(CEO)がアートコレクションを保持・展示している場所である。招待客数を大幅に絞り、静寂で荘厳な空間で見せたのは、エレガンスに振り切った会心のコレクションだった。
ピアノの生演奏に合わせて登場したファーストルックは、ラバリエ仕立てのシャツにハイウエストのスラックス。タイを斜めに結んだ違和感や袖口に寄せたギャザーがシンプルなスタイルに映え、円形のステージを囲んだ観客は、前シーズンから続くウィメンズ・コレクションとの統一された世界観であることを確信する。カラーはモノトーンに徹し、強く張り出した肩と細いウエストのアウターにワイドパンツで縦長シルエットを提案。ウィメンズの強さとメンズの軽快さの融合はさらに流動性を高めめつつも、あくまで創業者イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)が好んだ、マスキュリンとフェミニンの境界線を曖昧にするクリエイションに沿いながら、自然に、美しく溶け込ませる。
中でも、素材の上質さは特に際立っていた。ロング丈のモヘアニットやカシミア、サテンをツイストさせたドレープの光沢、レザーコートは極めて薄くしなやかで、上品に輝くベルベットの美しさは息を呑むほどだった。ラグジュアリーな素材でクチュールのような品格を感じさせながら、スエット製のインナーやドローイングのパンツ、ブラックジーンズといったデイリーアイテムと合わせて、新しい時代のエレガンスを打ち出す。23年春夏のウィメンズでも発表したフード付きシルエットを進化させた、頭部を覆う“カグール”のメンズ版を披露するなど、ディテールでもウィメンズの要素を盛り込む。全47のルックを発表し終えると、フィナーレにはピアノ奏者が交代し、俳優や音楽家として活動するシャルロット・ゲンズブール(Charlotte Gainsbourg)が登場して演奏するサプライズもあった。
アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vacarello)=クリエイティブ・ディレクターは、メンズでも進むべき方向性に手応えを掴んだのだろう。自身の強みであるセンシュアルなクリエイションを生かし、正々堂々とヨーロッパ流のエレガンスに焦点を絞ったことが奏功し、パリ・メンズに参加したことで、「サンローラン」の今の男性像をさらに浸透させたといえる。今後はこのスタイルを軸に、振り幅をいかに広げていけるかが重要だろう。ストリートウエアとテーラリングの融合を試みるブランドが多い中、ここまでエレガンスに振り切ったクリエイションは異端だ。しかし、この強く、静かで美しいショーは、新しいメンズ・エレガンスの可能性を開拓したことは間違いない。