「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS以下、オム プリュス)」は、2023-24年秋冬コレクションをパリで現地時間20日に発表した。今シーズンは同ブランドのベースであるテーラリングに焦点を当て、あらゆるシェイプのスーツを披露した。スクエアショルダーだったり、ロングテールだったり、ショーツとのセットアップだったり――クラシックなメンズ服をあえて題材に選ぶことで、「オム プリュス」のアイデンティティーである“アバンギャルド”という本質に立ち返った。
ファーストルックは、ブラックのカモフラージュ柄スーツの上に、張り出した肩が特徴的な羽織をまとうスタイルだ。ロンドンのアーティストゲイリー・カード(Gary Card)によるヘッドピースが“アバンギャルド”なムードを後押しし、その後もダブルブレストや縮絨ウールといったバリエーションでブラックスーツのバリエーションを見せる。英字を殴り書きしたようなグラフィティはカナダのアーティスト、エドワード・ゴス(Edward Goss)によるもので、グレーやピンク、サックスといったカラースーツ全面に総柄でプリント。身頃や肩まわりは異様に膨れ上がり、背中などからは筒のような付帯物がぶら下がって、クラシックなフォームを破壊し、新しいシルエットを構築していく。
中盤以降はさらに構造が複雑になっていく。生地をくり抜いてジャケット2枚をレイヤードしたような一着や、袖のないテーラードケープ、両胸から裾にかけて走らせたファスナーや、無造作にくり抜いた縁にファーやボアなどがまるでそこから生えてきたかのように付帯する。ピークドラペルのレザージャケットは極めて丈が短く、背面にはやはりアーチ状の隆起。普遍的な男性服にあらゆる要素を足して、足して、違和感を盛り付けていく。まるで、「オム プリュス」が長年挑んできた“アバンギャルド”の表現を、クラシックなスーツが吸収してきたかのように。テキスタイルは、ウールの縮絨加工で表現した格子柄から、きれいなマドラスチェック、毛足の短いファーやその転写プリント、メタリックに加工したものまで、バリエーション豊か。足もとは「ルイスレザー(LEWIS LEATHERS)」とのブーツや「ジョージコックス(GEORGE COX)」とのラバーソールでハードにまとめた。
昨今のメンズシーンではテーラリングに立ち返るブランドが増え、クリエイションの幅が以前よりも狭まったと感じることも多くなった。特に今シーズンはミニマルに回帰するブランドが多数で、より本質を深掘り、ブランドと服の関係性を探求し、かつ市場に合わせたデザインで提案する。結果、コンセプチュアル寄りで分かりづらさだけが目立つ“普通の服”が並び、装う楽しさまでも削ぎ落としたかのような提案が散見。「オム プリュス」のテーラリングは、そんなトレンドに対してまるで警笛を鳴らすかのように激情を放っていた。