「リンシュウ(RYNSHU)」は、東京・丸の内の国際フォーラムで2023-24年秋冬コレクションをショー形式で2月20日に発表した。前シーズンは六本木の国立新美術館をライティングの演出で緑に染め、ファッションを通じた“癒し”を表現。今季は“Love Me Softly,Hug You Lovingly”をキーワードに、建築家ラファエル・ヴィニオリ(Rafael Vinoly)が設計した国際フォーラムの広大な空間を真っ赤に染め、来場したゲストをファッションの“愛”で優しく包み込んだ。
真紅に染まる人と文化の交差点
真っ赤な照明が徐々に暗闇に溶け込んでいくと緊張感は高まり、鼓動が少しずつ早まっていくようなBGMと共にショーは開幕。水に濡れた真紅のランウエイに登場した純白のドレスは、シルクオーガンジーを花のように凸凹に重ね、柔らかな立体感と共に繊細なエレガンスを表現する。まるで、純真無垢な花が体を包み、身にまとう女性の秘めた個性を咲かせるような一着は、デザイナーの山地正倫周が培ってきた服づくりの高い技術と、山地りえこの多彩なクリエイティビティーの融合を象徴するもの。以降も、モノトーンに徹したウィメンズとメンズのシャープなスタイルが序盤は続いていく。
体を包むクチュールエレガンス
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ウィメンズは、優美なドレスが中心の構成だ。体をふんわりと包み込む素材を用いながら、スカートの脇には深いスリットを、ジャケット袖の内側にはアジャスタブルなファスナーなどの鋭いディテールを備え、優しい素材と強いデザインを対比させる。直線と流線型を組み合わせたシルエットが、肌を大胆に見せるセンシュアルなムードに気品を宿した。構築的なマキシ丈のロングコートやワンピース、アブストラクトなブルゾンなどの幅広いアイテムに共通するのは、「リンシュウ」らしい凛とした美しさだ。
一方のメンズは、クラシックなテーラリングをベースに、ウィメンズと同じテキスタイルを使ったビッグショルダーのジャケットやスキニーなスラックス、ショーツ、ボリューム感のあるブーツなどで、遊び心溢れるフォーマルを披露。ハーネスのように体と服をつなぐベルトや、ファスナーの隙間から覗く赤いライニングなどのモードなスパイスを効かせながら、ロックとクラシック、ミニマルとデコラティブなどの対極を縦横無尽に交差させる。メンズスカートも登場し、ジェンダーの境界線を超越する提案も見られた。
持続可能な素材と技術を継ぐ使命
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色彩を極力削ぎ落とし、スタイリングをシンプルにした分、軽やかに膨らむ素材感の優しさがさらに際立った。光沢感のあるベロア調のストレッチキルティングコートは、中に伸縮性のあるパイルニットを入れ、表面に寄せたギャザーの陰影が豊かな表情を見せる。デコルテが覗くブラック&ホワイトのミニドレスは、リサイクルペットボトルから作った糸を織り込んだジャカード素材。その優美なムードが、クリエイティビティーとクラフツマンシップのタイムレスな美しさを讃える。スキニーシルエットがパンクなブリティッシュウールのタータンチェックスーツは、サステナブルなテキスタイルにこだわり、バイヤスに使用することで伝統の更新に挑む。終盤にはシルバーとゴールドが全面に輝くきらびやかなフォーマルを披露。フィナーレに向けて観客のエモーションを徐々に喚起させ、優しさに溢れたショーを締めくくった。
「リンシュウ」は心に火を灯す
今シーズンのコレクションの構想は、2年前からすでに始まっていたという。りえこは、「癒しをテーマにした後は、生きることを表現したかったんです。ファッションは、単に服を装うことだけではなく、人生のワンシーンとして存在する力がある。それぞれの生きる道に寄り添うファッションを表現したかったんです」と述べる。デザイナー2人で描いた壮大な世界観を表現する場に、正倫周は広大な名建築である国際フォーラムを選んだ。「シンメトリーなランウエイを真っ赤に照らし、優しくて、情熱的な空間を作りたかったんです。ものづくりを愛する職人の手仕事と共に、『リンシュウ』の揺るぎないファッションへの愛も伝えたかったから」。ゲストのシートとモデルの間にはあえて少しの間隔を設けたのだろう。広い空間に身を置きながら、服の精巧なディテールを視覚で見るだけではなく、クリエイションの世界観を五感で感じられる会場演出だ。トレンドに左右されるファッションではなく、職人たちと共に愛情を持って作る服は、物資という存在価値を超えて、身にまとう人の心に火を灯し、その感情が思い出へと変わっていく――「リンシュウ」が信じるファッションの力は、人々を包み込む優しさに溢れている。
RYNSHU
03-3402-5300