1月23日から26日までの4日間、パリで2023年春夏オートクチュール・ファッション・ウイークが開催された。今回の公式スケジュールには、パリ・クチュール組合の正会員である11ブランド、国外メンバーの6ブランド、ゲストメンバーの12ブランド合わせて29組がラインアップ。その中から、現代の富裕層やセレブリティーの期待に応えるモダンクチュールをリポートする。
オートクチュール・ファッション・ウイークのトップバッターを飾ったのは、今季も「スキャパレリ(SCHIAPARELLI)」。ダニエル・ローズベリー(Daniel Roseberry)=クリエイティブ・ディレクターは、詩人ダンテ・アリギエーリ(Dante Alighieri)による三部作「神曲」の「地獄篇(INFERNO)」から着想した。地獄の奥深くへと進むダンテの姿に重ね合わせたのは、アーティストやクリエイターが制作過程の中で経験する苦悩。しかし、彼は「地獄、煉獄、天国のどれか一つが欠けても成立し得ない。天国に辿り着くことは、まず火の海への旅と、それに伴う恐怖なしにはありえないということを常に思い出すようにしている」と語り、今季もシュールかつ奇想天外なクリエイションで会場を湧かせた。
特に印象的だったのは、マザー・オブ・パールや24Kゴールド、カラーストーン、ウッドなどを用いたプレート状の胸当てのデザイン。まるで丁寧に作られた調度品や芸術作品をまとっているようだが、実際、服を作ったことのない職人と共に制作したという。また、「神曲」に登場するライオン、ヒョウ、オオカミの頭部があしらわれたドレスやコートは、手彫りしたフォームや樹脂にウールやシルク製の人工ファーを刺しゅうし、ペイントを施したもの。SNSでは「トロフィー・ハンティングを助長する」などと物議を醸したが、本物の剥製と見間違うほどのリアルさは卓越した職人技術の賜物だ。
そんなインパクト満点のアイテムについ目が行きがちだが、「スキャパレリ」流のリアリティーを映し出すルックもある。その特徴の一つは、メゾンを代表する香水「ショッキング!(SHOCKING!)」の女性のトルソーを模したボトルからヒントを得た、絞られたウエスト。その象徴的なフォームを、メンズウエア由来のタキシードやシルクサテンのキルティングコート、ベルベットのベアトップの背中に、コルセットのようなレースアップディテールを取り入れることで表現した。そのほか、モールド成形したかのような構築的なジャケットやブラウス、ボディーラインに滑らかに沿うスリップドレスや黒のシックなイブニングガウンなど、レッドカーペットの世界だけではないクリエイションの幅の広がりを感じる。
また、2月末から始まる23-24年秋冬パリ・ファッション・ウイークで、これまでプレゼンテーションやルックブックで披露していたプレタポルテのショーを初めて開催することも発表された。