「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」のオートクチュールは、2021-22年秋冬からシーズンごとに異なるゲストデザイナーを招へいし、それぞれの自由な感性で作り上げられたコレクションを発表している。4シーズン目となる今回、「サカイ(SACAI)」の阿部千登勢、「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」と「ディーゼル(DIESEL)」を率いるグレン・マーティンス(Glenn Martens)、「バルマン(BALMAIN)」のオリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)に続いて選ばれたのは、ハイダー・アッカーマン(Haider Ackermann)だ。20-21年秋冬から自身のブランドを休止している彼が久しぶりにパリでコレクションを発表するということもあり、大きな期待が寄せられた。
発表に先駆けて昨年11月に行われた米「WWD」のインタビューでアッカーマンが明かしたのは、「ゴルチエの優れた仕立ての技術をはじめとする“より静かな”一面を称えたい」という思い。それは、伝説的なデザイナーのエキセントリックでユーモアあふれる一面やフェティッシュなスタイル、タータンやマリンストライプといった象徴的なモチーフ、ポップカルチャーにつながるキャッチーなデザインなどが分かりやすく用いられてきた、これまでのゲストデザイナーによるコレクションとは異なるアプローチだ。実際、パッと見のインパクトという点では、これまでよりも薄いかもしれない。しかし、アッカーマンは創業者に敬意を表しつつ、彼らしいシャープなカッティングやドレープ、色彩感覚を生かして、色気漂うエレガンスを描いた。客席を見渡しながら、そして時にポーズを取りながら薄いブルーのカーペットの上をゆっくりと歩くモデルの姿からは、数ミリにまでこだわって紡ぎ出された美しさが伝わってくる。
特に目を引いたのは、テーラードスタイル。鮮やかな青の羽根が首周りからフロントにかけて飛び出す細身のブラックスーツは、1997年にゴルチエが初のクチュール・コレクションで披露した、袖にカラフルな羽根があしらわれたテーラードルックからヒントを得たものだ。そのほか、フロントにディテールを加えた燕尾ジャケットや、背中が露わになったコートドレスなども提案。細かく折り畳まれたプリーツ地を構築的に仕上げたり、異なる色のファイユやサテンを組み合わせたりしたビスチエにも、ハイウエストのシガレットパンツを合わせている。
一方、ドレススタイルで印象的だったのは、ファスナーがラッフル装飾としてあしらわれたフード付きボンバージャケットに滑らかなクレープのフルレングススカートを合わせたルック。スパンコール刺しゅうをびっしり施したマーメイドドレスやワンショルダーのアシンメトリードレスなど、終盤の黒のシリーズにもドレーピング技術や造形に対する美学が生きている。また、トラックスーツやメンズのチェスターコートには無数の針のような装飾を施し、クチュールならではの手仕事をアバンギャルドに取り入れた。
今回のショーを通して、アッカーマンは派手な演出や大掛かりなセットがなくとも、美しい服で観客を魅了できることを証明した。フィナーレに登場した彼は、客席で見守っていたゴルチエとハグを交わし、手をつないでランウエイを歩き出す。その姿には、スタンディングオベーションが送られた。
1月23日から26日までの4日間、パリで2023年春夏オートクチュール・ファッション・ウイークが開催された。今回の公式スケジュールには、パリ・クチュール組合の正会員である11ブランド、国外メンバーの6ブランド、ゲストメンバーの12ブランド合わせて29組がラインアップ。その中から、現代の富裕層やセレブリティーの期待に応えるモダンクチュールを紹介する。